第12話:巡幸の予告と星海の芽吹
第8部
「その心意気、頼もしく思います。……
さあ、
我が聖国の誇り高き臣民たちよ!
勝利者を讃え、
新たなる時代の幕開けを祝うのです!」
セレスティアが右手を掲げると、
グランド・ホールは
盛大な歓声と拍手によって包まれた。
ルナとエレーナも静かに胸を張り、
セレスティアの決断に深く頷く。
絶対の秩序の上に咲き誇る、
厳格にして気高き勝負の果て——。
競い合い、高め合う
司令官たちの存在こそが、
聖国アルカディアの未来を
どこまでも高く、
揺るぎないものへと
押し上げていくのだった。
◇
アルカディア本国・天鏡の間。
頭上に浮遊する巨大構造体
『聖宮極彩回廊』に集められた
芸術群の熱気が一巡した頃、
全宙域を統括するS-オムニスの
量子ホログラム前には、
新たなる治世の風が吹き抜けようとしていた。
かつて全軍を悩ませた
数億光年におよぶ
超長距離通信の遅延は、
いまや S-オムニスの
超量子絡み合い基盤と、
各銀河団へ
網の目のように張り巡らされた
ASサテライト網の
完全同期によって克服されている。
銀河団群を隔てる果てしない虚空を越え、
情報は完全な即時性をもって交錯していた。
天鏡の間の中央、
総司令官セレスティアは
深紅の軍服の裾を静かに揺らし、
星雲のホログラムへ視線を向けた。
左右に控える第一副官ルナの指先が
空中コンソールを滑らかに滑り、
第二副官エレーナが
琥パープルがかった琥珀色の瞳を凝らす。
「セレスティア様」
ルナが報告を入れる。
「第1期大会の全工程が完了し、
本国に集められた至高の芸術品群は、
多くの臣民の魂を
深く癒やす結果となりました。
ですが、
数億光年の彼方に位置する
各銀河団の辺境星系においては、
いまだ戦火の記憶に
心をすり減らす民が多く、
ルネサンスの恩恵が
末端まで行き渡っておりません。」
エレーナも真剣な面持ちで言葉を重ねた。
「ええ。
本国に作品を集めるだけじゃなく、
それぞれの
現場で暮らす人たちの心に、
直接
歌や美術を届けませんと、……」
セレスティアは二人の言葉に深く頷き、
全銀河団の旗艦と結ばれた
超広域回線を開いた。
「その通りです、ルナ、エレーナ。
……各銀河団の
司令官たちよ、聞きなさい。」
通信ウィンドウに、
α 銀河団の最外縁を警戒する吾郎、
ε 銀河団の旗艦『アスガルド ε 』で
優雅に佇むシルヴィア、
そして
∞ 銀河団の旗艦『アスガルド ∞ 』で
凛と立つジュエダンの姿が
一斉に浮き上がる。
「これより
【第2期ルネサンス大会】に向けた
全宇宙規模の命を発令します。
諸公が治める各銀河団の
内部において、
全臣民の魂を救済するための
『ルネサンス啓蒙活動』を
大々的に開始しなさい。
厳格な軍政の影で
引き裂かれた人々の精神を、
音楽、絵画、詩歌、そして
洗練された建築といった美の力で
包み込み、
豊かな心を取り戻させるのです。」
三人の司令官たちの表情が引き締まる。
セレスティアはさらに、
威厳に満ちた朗報を告げた。
「なお、本件はすでに
聖王様のご裁可を得ております。
啓蒙活動の成果を確かめ、
傷ついた星々の民を慈しむため……
私と陛下が、自ら
各銀河団へと巡幸いたします。
また、
巡幸中の本国防衛および
全宇宙の後方基盤は、
覇王レグナ様が完壁に統括されます。」
聖王アーロン様自らの巡幸——
その言葉がもたらした波紋は、
数億光年の宙域を駆け抜け、
三者の胸に異なる色の感情を咲かせた。
シルヴィアは
胸の高鳴りを抑え込むように、
優雅にファン(扇子)を握り直した。
その瞳には、
芸術の美で
主君を迎える高揚感が満ちている。
『アーロン様とセレスティア様が
お越しになるとは……
胸が躍りますわ。
我が ε 銀河団が誇る
幾何学と光のアート、
そして音楽の演奏会をもって、
傷ついた臣民の心を
最高潮の歓喜で
満たしてお見せいたします。』
対するジュエダンは、
黒銀の軍帽の庇に指を添え、
薄い笑みを浮かべた。
『ふふ……聖王自らのご視察とは、
身が引き締まるわね。
我が ∞ 銀河団の
無限空間を活用した図書館や
思想の展示により、
人々の知性を高め、
孤独な魂を癒やしてみせるわ。
手落ちなど一切存在させない。』
そして、
凄惨な戦場を
誰よりも近くで見つめてきた
α 銀河団の吾郎は、
一瞬だけ緊張に目を見張った後、
感無量といった面持ちで
右拳を固く胸に当てた。
『……感謝いたします』
明朝 7:30 に投稿します。
【セレスティア通信】
第2期ルネサンス大会および
「聖王・総司令官宙域巡幸」公式告示
本国聖宮の総司令官セレスティア、
および副官部より、
第2期ルネサンス大会の開催概要を
以下のように布告する。
各銀河団内における
「ルネサンス啓蒙活動」の開始
各銀河団司令官
(吾郎・シルヴィア・ジュエダン)は、
自軍の担当宙域全域において、
戦火で疲弊した臣民の魂を癒やすための
芸術・音楽・建築・学問の普及
(ルネサンス啓蒙事業)を開始すること。
聖王
および総司令官セレスティア様による
銀河団巡幸
啓蒙活動の進捗および
文化による救済状況を
直接確認するため、
聖王ならびに
セレスティア総司令官による
各銀河団への視察巡幸を執り行う。
巡幸中の全宇宙防衛統括
巡幸期間中、
本国の安全確保および
全宇宙の後方基盤統括は、
フェニックス銀河団の覇王
レグナ様が全権を執り行われる。




