第8話:機能美こそ聖国の真骨頂
第8部
ジュエダンは下命した。
「我が ∞ 銀河団の
『無限位相空間制御(ITS ∞)』を
起動せよ。
シルヴィアが張った光の枠組み
内部の空間を折り畳み、
外見の大きさを変えることなく、
内側に無限の容積を創出する。
全軍、空間収束主砲、照準固定!」
ジュエダン軍の
漆黒の戦艦群が一斉に発光した。
放たれたのは、
超高密度の暗黒物質を応用した
「空間折り畳み波」である。
それは
シルヴィアの純白の格子網の
内部へと吸い込まれ、
格子で囲まれた空間の内部構造を
幾何学的に
何重にも圧縮・拡張させていった。
外側から見れば、それは
本国宙域に浮遊する一筋の
美しき光の回廊に過ぎない。
しかし、その内部へと
一歩足を踏み入れれば、そこには
幾千、幾万の恒星系から集められた
ルネッサンスの芸術品や膨大な
記憶データを永久に保管できる、
文字通り
「無限の広がりを持つ神聖な回廊」
が、完成しつつあった。
「……見事です。
シルヴィアの『精密な枠』と、
我が軍の『無限の容積』。
セレスティア司令官の
采配のもとで組み合わさる
この機能美こそ、
我が聖国の真骨頂です。」
ジュエダンは満足そうに口元を緩め、
本国聖宮へ向けて
完了のシグナルを送信した。
◇
聖宮・天鏡の間。
ルナのコンソール上に、
建設中の『聖宮極彩回廊』の
完成度を示す数値が
目まぐるしく上昇し、ついに
「100.00% – PERFECT HARMONY」
の文字が青白く発光した。
「……セレスティア様。
シルヴィア軍および
ジュエダン軍による
『聖宮極彩回廊』の幾何学基盤
および無限容積化工事、
予定時刻より4分12秒早く
完了いたしました。
全空間構造の安定性、
絶対不可侵レベルに達しています」
ルナの正確無比な報告を受け、
エレーナが
嬉しそうに拳を握りしめた。
「やりましたね、セレスティア様!
シルヴィア様とジュエダン様の
連携は完璧です!
これで、
吾郎司令官の α 銀河団をはじめ、
全銀河団から運ばれてくる
ルネッサンスの至宝を、
完璧な状態で
迎え入れることができます!」
セレスティアは
優雅な歩調でガラス窓の前に寄り、
宇宙空間に佇む
その美しき光の回廊を見つめた。
純白の幾何学光線と、
深遠なる黒銀の空間圧縮波が
完璧な調和を保ちながら交差し、
まるで
全宇宙の美を祝福するかのように
静かに脈動している。
「素晴らしい成果です、二人とも。
……ですが、
これはまだ始まりに過ぎません。」
セレスティアは
澄み切った声で紡ぎ出した。
「基盤は整いました。
次はいよいよ、
各銀河団が
その存亡と誇りをかけて
創り上げた
『独自ルネッサンス』の神聖なる
展示と競演……
【各銀河団合同ルネッサンス大会】
の、第一期審査を開始します。」
セレスティアの黄金の瞳に、
絶対の確信と気高き情熱が宿る。
「吾郎の α 銀河団がもたらす
『力強き武勇の美』。
シルヴィアの ε 銀河団がもたらす
『至高の幾何学と光の美』。
ジュエダンの ∞ 銀河団がもたらす
『無限の空間と深遠の美』。
そして、
我がアルカディア本国が誇る
『聖宮ルネッサンス』……」
セレスティアは
ゆっくりと回れ右をし、
直立するルナとエレーナを見つめた。
「ルナ、エレーナ。
全銀河団の司令官たちへ
通信を開きなさい。……
聖国アルカディアの
新たなる金字塔となる、
美と機能の競演を、
今ここに開幕させるのです!」
「御意!!」
二人の副官の声が美しくハモり、
天鏡の間から放たれた光の通信波が、
全宇宙の隅々にまで行き渡るのだった。
◇
数日後。
アルカディア本国の
最上層に鎮座する「天鏡の間」。
完成したばかりの
『聖宮極彩回廊(ルネッサンス・
グランド・アーカイブ)』から
送信されてくる
高精細な立体映像が、
白銀の床面を満たしていた。
超量子知能『S-オムニス』の
中枢ホログラムが静かに明滅し、
全銀河団から集積された
膨大な芸術、建築設計、思想体系、
そして科学の成果を
リアルタイムで分類・解析していく。
全権を託された
総司令官セレスティアは、
深紅の軍服を風になびかせ、
凛とした表情で
審査ホログラムの正面に立っていた。
その左右には、
天秤の如く厳格な眼差しを向ける
二人の副官――
ルナとエレーナが控えている。
第一副官ルナが、
データ眼鏡のフレームに
軽く指を添え、報告を開始した。
「セレスティア様。
【各銀河団合同ルネッサンス大会】
第一期審査の準備、
すべて整いました。
各銀河団が
配給された既存資源と、
それぞれの
特殊位相システムのみを用いて
成し遂げた純粋なる成果です。」
「よろしい」
明朝 7:30 に投稿します。
【 宇宙小話 】
「ワームホール
宇宙の裏道を通り抜けて」
「ワームホール」は、
SF作品のワープ航法などで
よく知られる、
宇宙のショートカット(近道)。
巨大な宇宙の
端から端まで移動するには
何億年もの時間が必要だが、
もしワームホールが存在すれば、
一瞬で遥か彼方の銀河へ
移動できるかもしれない。
ワームホールとは、
リンゴの表面をはう虫が、
表面を遠回りして歩く代わりに
身をかじって穴を開け、
反対側へ通り抜ける様子から
名付けられた。
激しく歪んだ時空と時空が
トンネルで結ばれることで、
途方もない距離を一跳びで
越えられるという理論上の構造だ。
しかし、
この不思議なトンネルには
大きな問題がある。
アインシュタインの計算によれば、
ワームホールは誕生した瞬間に
自らの重みですぐに潰れてしまう
という。
トンネルを壊さずに通り抜ける
ためには、
空間を外側へと押し広げる性質を持つ
「負のエキゾチック物質
(マイナスのエネルギー)」という
架空の存在が必要だと考えられている。
はたして
ワームホールは計算上の夢物語なのか、
それとも
高度な文明が使う交通網なのか。
未知のトンネルの先には、
私たちが
まだ見たこともない世界が
広がっているのかもしれない。




