↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
141/154

第6話:全宙域への布告と真なる名

第8部

アルカディア本国・

聖宮「天鏡の間」。


作戦コンソールを

操作していた

第一副官ルナが、

半透明のデータ眼鏡を

軽く押し上げ、

全星系図の

ホログラムラベルを

更新するシークエンスに入った。


「セレスティア様。

 本国 S-オムニスの

 超量子台帳に登録されている、

 各司令官の

 担当銀河団に関する

 学術識別番号および

 正式名称の改名・

 定義プロトコルを執行いたします」


第二副官エレーナが、

手にしていた通信端末の

ホログラムを

パッと開いて言葉を重ねる。


「ええ!

 旧時代の人類が

 勝手に名付けていた

 無機質で煩雑な星表番号なんて、

 我が聖国の

 絶対的な美学には

 全くそぐわないわ。

 最前線で理不尽を刈り取る

 吾郎司令官の貫通威力を象徴する

『α(アルファ)』、

 シルヴィア司令官の

 至高の幾何学位相を体現する

『ε(エプシロン)』、

 そしてジュエダン司令官の

 無限圧縮を指し示す

『∞(インフィニティ)』……

 全臣民にとっても

 一目で理解できる

『真の幾何学名』へ

 正式に改名・布告しましょう!」


セレスティアは

二人の副官の報告に

満足そうに頷き、

全宙域へ向けた

聖宮直撃通信の回線をひらいた。


「うむ。

 各銀河団が独自の

 ルネッサンスを花開かせ、

 本国での合同大会へと

 集結する今こそ、

 その基盤となる銀河団の

 名称を、

 我が聖国の秩序と

 機能美に相応しいものへと

 改名・定義します。……

 ルナ、エレーナ。

 直ちに

『セレスティア通信』を通じて

 全帝国へ周知しなさい」


「御意!」


ルナとエレーナの

迅速な入力により、

聖王アーロンの

広大な領土台帳に刻まれた

新たな銀河団名が、

全宙域のASシステムを通じて

一斉に布告された——。


◇


全星系への一括布告が

完了した直後。

天鏡の間を包む青白き光は、

より一層の深みと

透き通るような静謐さを

増していた。


天鏡の間は、

極限まで磨き上げられた

白銀と

透過クリスタルの床面が広がり、

天井を満たす超量子知能

『S-オムニス』の

大元ホログラムから放射される

光によって

鮮やかに照らし出されている。


毎秒数億ペタバイトという、

常人の脳では

処理不可能な情報量が

この部屋を交錯している。


全宇宙の質量、

エネルギーの流れ、

恒星の核融合反応、

さらには

無数の星々で暮らす

億兆の臣民たちの

治安状況や

精神波の揺らぎに至るまで、

そのすべてが

S-オムニスという

単一の超演算機構を通じて

可視化されていた。


その中央、

宙に浮遊する黒銀の

玉座の前に佇んでいるのは、

聖王アーロンより

帝国の全政務と

全軍事の差配を一任された

総司令官、セレスティアである。


彼女の纏(まとう)う

深紅の軍服と純白のケープは、

機能美が支配する聖宮において、

一際高く凛(りん)とした

美しさを放っていた。


その黄金の瞳は、

ホログラムに映し出された

最新の全宇宙星図を静かに、

そして絶対の威厳をもって

見据えている。


セレスティアの左右には、

彼女が、

聖宮の要として鍛え上げた

二人の女性副官が、

一分の隙もない姿勢で

直立していた。


第一副官、ルナ。


漆黒の髪を

寸分の乱れもなく

夜会巻きに結い上げ、

知的な半透明の

データ眼鏡を着用した彼女は、

S-オムニスから流れる

全データの構造化と

戦略計算を司る

聖宮の「電子の頭脳」であった。


彼女の手元に浮遊する

薄型コンソールには、

ミリ秒単位で更新される

各銀河団の数値が

滝のように流れ続けている。


第二副官、エレーナ。


シャープにカットされた

緋色の短髪と、

燃えるような情熱を秘めた

琥珀色の瞳を持つ彼女は、

本国直属親衛艦隊の機動統制、

および全軍への

即時発令を司る

聖宮の「電光石火の行動力」

であった。


腰に帯びた

戦術指揮用の

ホログラム端末に手を添え、

セレスティアの次の命令を

今か今かと待ち構えている。


「……セレスティア様」


天鏡の間の静寂を破り、

ルナが

澄み切った涼やかな声音で

口を開いた。


その細い指先が

幾何学的な空中キーボードを

優美に叩く。


「新名称に対する

全臣民への定着度、

およびASシステム内での

データ同期率は

100.00%に達しました。

これにより、

かつての煩雑な観測コードは

帝国のデータベースから

完全に消去されました」


「結構です、ルナ」


セレスティアは

振り返ることなく、

視線を星図に向けたまま応じた。


「旧人類が残した

 無機質で煩雑な星表コードなど、

 我が聖国の機能美の前には

 不協和音でしか

 ありませんでした。

 全宇宙が

『アーロン様の領土台帳』として

 完璧に上書きされた以上、

 その領域を呼ぶ名もまた、

 調和の取れた幾何学記号で

 なければならないのです」


エレーナが緋色の髪を揺らし、

力強く一歩前へ踏み出してきた。


「セレスティア様!

 真の名が刻まれたことで、

 各銀河団における

『独自ルネッサンス』の熱量も

 極限まで高まっております。

 α 銀河団では

 吾郎司令官のもと、

 ITS αの絶大な火力を

 平定の礎とした

 武勇と剛毅の建築群が

 組み上がり、

 ε 銀河団では

 シルヴィア司令官指揮のもと、 

 ITS εの超精密位相を注ぎ込んだ

 光の美術と位相彫刻が

 花開いております。

 そして∞ 銀河団では

 ジュエダン司令官のもと、

 ITS ∞の空間圧縮技術を応用した

 無限の回廊空間が

 構築されつつあります!」

明朝 7:30 に投稿します。


【セレスティア通信(1)】


各担当銀河団の正式名称

改名に関する公式告示


本国聖宮の総司令官

セレスティアおよび

聖宮副官部ルナ・エレーナより、

全帝国宙域における

担当銀河団の正式改名と

その対応を以下のように布告する。


【α(アルファ)銀河団】

(旧:銀河団SPT-CL J0546-5345)

担当:吾郎司令官(ITS α運用)


【ε(エプシロン)銀河団】

(旧:銀河団XMMXCS J2215.9-1738)

担当:シルヴィア司令官(ITS ε運用)


【セレスティア通信(2)】


【∞(インフィニティ)銀河団】

(旧:銀河団CL J1001+0220)

担当:ジュエダン司令官(ITS ∞運用)


改名に伴う治世的・文化的意義


本改名により、

旧時代の無秩序な天体目録は

完全に刷新され、

「アーロン様の領土台帳」における

幾何学的秩序が完成した。


全銀河団民は

この誇り高き

『α』『ε』『∞』の名のもとに、

それぞれの独自ルネッサンス文化を

さらに加速させていくこととなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。