【 不条理な烙印(らくいん)、そして覚醒(かくせい)へ 】
序章 【 不条理な烙印、そして覚醒へ 】
「……よって、貴様を我が王国から永久追放する。二度と戻ってくるな」
国王の冷徹な宣告が、玉座の間に響き渡る。
俺――アーロンは、力なく膝をついた。王宮魔導師団の最前線で三年。魔物討伐の最前線で命を削り、誰よりも血を流してきたつもりだった。
なのに、帰ってきた俺を待っていたのは、ねつ造された背任の罪と、この追放命令だけだ。
「アーロン、おまえは結局のところ『石潰し(ごくつぶし)』だ。俺たちのような高位魔法の足元にも及ばない。これ以上、王国の貴重な食料を食いつぶすだけの無能は不要なんだよ」
かつての仲間、賢者と称される男が鼻で笑う。周囲の騎士たちからも、蔑むような視線が突き刺さる。
俺のスキルは確かに『石潰し』と鑑定されていた。どの系統の魔法も使えない、最底辺のスキルだと。
「……分かった。この国を出て行く」
俺は何も言い返さなかった。
ただ、去り際に自分のステータス画面を一度だけ開く。
そこには、誰も見たことのない――俺自身も、今この瞬間まで気づかなかった異常な真実が記されていた。
『スキル:【全属性変換】(ランク:神級)――あらゆる事象を別の属性へ自在に変換する。魔力供給効率:無限』
そうか。石潰しじゃない。俺は、すべての魔法を掌握し、かつ「変換」できる存在だったんだ。
奴らが俺を追放したことで、王国を支えていた魔力障壁の維持者も、対魔物防衛の要も、すべて俺の手から消えることになる。
城門を背に、俺は空を見上げる。
王国の滅亡? そんなことは知ったことか。
俺には、誰も踏み入れたことのない最果ての辺境で、自分だけの国を作るという新しい夢がある。
「さて、まずはこの荒地を、俺の魔法で世界一豊かな楽園に変えてやろうか」
俺は一つ大きく息を吐くと、確かな足取りで未踏の荒野へと歩き出した。
ここからが、真の最強の始まりだ。
第一章 【 辺境の死地と、神の如き開拓 】
王国の追放から四日目の朝。俺は地図にも載っていない、大陸の北端――通称『死の静寂』と呼ばれる不毛の荒野に立っていた。
ここは魔力濃度が極端に低く、普通の魔導師が足を踏み入れれば、数時間で魔力枯渇を起こして倒れると言われている土地だ。
「ここなら誰にも邪魔されない。……さて、実験を始めるとするか」
俺は地面に右手を翳す。
かつての王都では、賢者たちが苦労して魔力供給を行っていた『魔石』の精製だ。彼らは莫大なコストと時間をかけていたが、俺の力を使えば話は別だ。
「【全属性変換】――『無』を『大地属性(高純度魔石)』へ」
ピキピキピキー。耳に心地よい音が響く。
乾ききってヒビ割れていた荒野の土くれが、瞬く間に黄金色に輝き始めた。地面から次々と、最高品質の魔石の原石である金剛石が隆起していく。
驚くべきことに、その魔力は枯渇するどころか、周囲の空気を吸い込んで際限なく膨れ上がっていた。
「ふむふむ。……なるほど。これが『変換』の真価か。消費したはずの魔力さえ、変換の過程で増幅している」
俺はさらに手を広げる。
今度は荒野を吹き抜ける冷たい木枯らしを、生命を育む『水』と『熱』に変換する。
乾いた地面に清流が生まれ、冷気は心地よい暖かな日差しへと姿を変換していく。
たった数分の作業で、見渡す限りの荒野が、緑豊かな平原へと塗り替えられた。
「ん? んんん?」
俺の脳内に、俺を王国から追放したあの日以来、一度も鳴らなかった『通信魔法』のノイズが響いた。
「アーロン! どこにいる!? 王都の障壁が消失したぞ! 魔物の大群が押し寄せているんだ、すぐ戻って維持管理を……」
ノイズの送り手は、かつてのパーティリーダー。切羽詰まった声が、どこか傲慢さを残している。
奴らはまだ理解していないのだ。
自分たちが捨てた「役立たず」が、今となって、自分たちが決して手に入れられない「世界を創る力」を手にしていることに。
「戻る? 勘違いも甚だしいな」
俺は通信魔法を、手元の小石を『金剛石』に変えるためのエネルギーに変換して、遮断した。
「俺が創出させるのは、他人のための王国じゃない。俺自らが王となり、俺と俺を必要とする者たちのための、最強の国なのだ」
その言葉と同時に、広大な平原の中央に、真っ白な石材でできた美しい城の基礎が、地面から競り上がってきた。
――王国の滅亡が始まる。そして、俺の建国が始まる。
第二章 【 滅びる王国と、辺境への来訪者 】
俺がもといた王国では、想像を絶する事態が進行していた。
俺を追放して数日たった頃。かつて俺が独力で維持していた魔力障壁が完全に崩壊し、結界の隙間から魔物の群れが王都の城壁を揺るがしていた。
「嘘だろ……! なぜ障壁が動かないんだ! 賢者である己の魔法すら、この障壁には干渉できないのか!?」
賢者が悲鳴を上げている。やつらは知らなかったのだ。俺の変換スキルによる「魔力循環」が障壁を維持していたのだということを。
城内は混乱の究みだった。国中の魔力供給がストップし、貴族たちは我先にと財産を抱えて逃げ出そうとしている。追放を命じた国王の顔からは血の気が引き、かつてのアーロンの元パーティメンバーたちは、誰に責任をなすりつけるかという醜い言い争いに明け暮れていた。
一方、この辺境の地では。
アーロンが城の基礎を築き終えたその時、荒野の向こうから一台のボロボロの馬車が現れた。
それは、王国からの過酷な徴税と弾圧に耐えかねて逃げ出してきた、名もなき村人たちの列だった。
「ここには……本当に住める土地があるのか?」
先頭に立つ老人が、震える足で緑の平原に一歩踏み入れる。
アーロンは静かに微笑み、彼らに向かって手を差し伸べた。
「もちろんだ。ここは、王国の支配は及ばない。俺が作った、新しい国だ」
その瞬間、老人の瞳に光が戻る。彼らはアーロンの放つ強大な魔力と、そこに溢れる希望を見て、その場に跪いた。
王国が滅亡の道を歩む中、辺境には新たな「希望の灯火」が点り始めていた。
第三章 【 建国宣言、そして残響 】
三日後。
辺境の城は、アルスの【全属性変換】によって瞬く間に拡張されていた。
石材は強固な城壁へ、湧き水は豊かな農地を潤す大河へと。かつての荒野は、もはや王国すら凌駕するほどの豊かな独立国家へと変貌を遂げていた。
王国からの使者が、ボロボロの格好でようやく辺境にたどり着いたのはその頃だ。
彼らが目にしたのは、かつて「無能」と切り捨てた少年が、玉座に腰掛け、大勢の民に慕われている信じがたい光景だった。
「アーロン様! 王国が、王都が魔物に飲み込まれました……! お願いです、今すぐ戻ってお力をお貸しください!」
使者は地面に額を擦り付け、懇願する。
アーロンは玉座から立ち上がり、冷ややかな瞳で使者を見下ろした。
「戻る? 勘違いをするな」
アーロンが指先を弾くと、空間に魔法の映像が浮かび上がる。そこには、魔物に蹂躙され、かつての栄光を失った王都の悲惨な現状が映し出されていた。
「お前たちが俺を捨てた時、この国の命運は尽きたんだ。俺はもう、あの腐りきった王国の『パーツ』じゃない。今日、この瞬間を持って、俺の国『アルカディア』の建国を宣言する」
その言葉は、まるで鳳珠のように大地に刻まれた。
使者は絶望の表情でその場に崩れ落ちる。アーロンは彼らを見向きもせず、城のバルコニーから、広大な自領を見渡した。
王国が崩れ落ちる音を背中で聞きながら、アーロンの「新しい物語」が、ここから本格的に幕を開ける。
――第一幕・完――




