二色の閃光、共闘戦線
「話が早くて助かるよ。さあ、時間がない。システムは既にオンラインだ。後は、君という最高のOSが、起動コマンドを入力するだけだ」
アルトの言葉が、引き金だった。
目の前には、無慈悲な鉄の軍団が殺到してくる。
もう、迷いも、葛藤も、過去のプライドも、全てを振り切る。
クラウディアは、腕に装着された青銀色のブレスレット――『プリズム・チャーム』を強く握りしめ、天を仰ぐように、魂の全てを解放した。
「変神っ!――プリズム・チェンジッ!!」
それは、絶望の淵から生まれ変わる、蒼き騎士の産声。
叫びと同時、彼女の身体から、絶対零度の冷気をまとった蒼い光の柱が、天を貫いた。
殺到していたゴーレムたちは、その輝きに触れた瞬間、動きを止め、その場に凍り付く。光は、神聖なる儀式の邪魔はさせないとでも言うように、彼女の周囲に、巨大な氷の結晶体ドームを形成した。
「おお…!第一フェーズ、クリア!マナ粒子の励起反応、理論値を15%も上回っている…!素晴らしい…!素晴らしすぎるぞ、クラウディア君!」
その光景を、アルトは感涙にむせびながら見守っていた。我が子の誕生に立ち会う父親のように、いや、自らの理論が完璧な形で実証される様を目の当たりにした、一人の科学者として。
光のドームの中、クラウディアの身体が、ふわりと宙に浮く。
戦いで引き裂かれた制服が、光の粒子となって霧散し、代わって、無数のダイヤモンドダストのような光の欠片が、彼女の裸身に集い、編み上げられていく。
まず、脚に。氷の糸が駆け上がり、気品と機能性を両立させた、白銀のグリーヴ(脛当て)を形成する。
次に、胴体。蒼い光を宿した金属が、彼女のしなやかなラインを損なうことなく、美しい曲線を描く胸当て(キュイラス)と、腰を守るアーマーを実体化させた。
両腕には、優雅なガントレットが装着される。
仕上げとばかりに、彼女の腰からは、絶対零度の冷気をまとった、青い光の布が、マントのようにはためいた。
トレードマークだった銀の三つ編みは解かれ、月光そのもののような長髪が、吹雪のように荒々しく、しかし気高く舞う。
そして、彼女の祈りに応えるように、光の粒子が、その右手へと収束していく。
そこに生まれたのは、一振りの剣。
砕け散った愛剣に代わる、新たな魂の象徴。
刀身は、万年氷を削り出して作ったかのように透き通る、魔法のクリスタル・ブレード。
やがて光が収まり、氷のドームが弾け飛ぶ。
そこに立っていたのは、もはや絶望に打ちひしがれた少女ではない。
絶対零度の闘志をその身にまとい、戦場に舞い降りた、一人の気高き騎士。
「――氷の魔法騎士。ナイト・ブリザード!」
凛とした声で、彼女は自らの名を告げた。
その完璧すぎる名乗りとポージングに、アルトは感動のあまり膝から崩れ落ちそうになる。
「なんと美しい…!白を基調としながら、差し色のブルーが彼女の気高さを完璧に演出している!僕の脳内にあった設計図を、寸分の狂いもなく、いや、それ以上に再現しているだと…!?」
グルルル…!
創造の儀式を終えたナイト・ブリザード――クラウディアを、凍結から回復したゴーレムたちが、再び敵と認識して襲いかかる。
だが、もう、先程までの彼女ではない。
「――そこからは、私の絶対領域よ」
呟きと共に、彼女の身体が、地を蹴る。
それは、もはや人間の俊敏性ではなかった。
蒼い流星となって迸り、巨大なゴーレムが拳を振り下ろすよりも速く、その懐へと潜り込んでいる。
「フリーズ・ブレード!」
クリスタルの剣が、閃光を放つ。
鋼鉄の装甲が、まるで薄いガラス細工のように、いとも容易く切り裂かれた。切り口からは、破壊された断面ではなく、瞬時に凍り付いた機械の残骸が覗いている。
一体を葬った彼女は、そのまま流れるような動きで、背後の二体へと肉薄する。
「ブリザード・ワルツ!」
舞うように回転しながら、薙ぎ払う一閃。
絶対零度の冷気をまとった斬撃は、二体のゴーレムを、その場で氷の彫像へと変えてしまった。
華麗に、冷徹に、そして圧倒的に。
戦場は、彼女一人のための、独演会の舞台と化していた。
だが、敵もさるもの。
ゴーレムたちは、瞬時に彼女の戦闘データを分析し、新たな陣形を組んで対応してくる。遠距離からの射撃で牽制し、前後左右から同時に襲いかかる、最適化された波状攻撃。
「くっ…!」
いくら力を得たとはいえ、数の不利は覆せない。
再び包囲され、動きを止められそうになった、その時。
『――ブリザード!11時の方向、敵機三体!奴らの装甲の薄い箇所は、右肩の関節軸だ!狙え!』
突如、頭の中に、直接声が響いた。
アルトの声だ。プリズム・チャームを通じて、彼の声が、思考そのものにダイレクトに伝わってくる。
「なっ…!黙りなさい!あなたに指図されるまでもなく、わかっているわ!」
クラウディアは、いつものように憎まれ口を叩きながらも、その身体は、寸分の狂いもなく、アルトの指示通りに動いていた。
蒼い閃光が、三度煌めく。
的確に、三体のゴーレムの右肩を貫き、沈黙させる。
『ナイスだ!次は背後、5時の方向!奴の攻撃パターンは三秒後、直線的な突進に変化する!カウンターを合わせろ!』
「だから、いちいち指示をするな、この非論理的なプロデューサー!」
口では罵りながらも、その連携は完璧だった。
アルトのデジタルな戦術分析と、クラウディアのアナログな剣技が、今、戦場で、奇跡の融合を果たしていた。
その、蒼い閃光が戦場を支配する様を、少し離れた場所から、もう一つの閃光が見ていた。
「あれは…クラウディアさん…!?」
セーラー・フレア――リゼットは、息を呑んだ。
信じられない光景だった。
あのプライドの高い彼女が、アルトの作った力で、戦っている。
そして、その姿は、嫉妬を覚えるほどに、美しく、そして強かった。
(私も…負けてられない!)
対抗心が、リゼットの心の炎を、さらに燃え上がらせる。
「フレア・ナックル!」
炎の拳が、残っていたゴーレムを殴り飛ばし、彼女は一直線に、ナイト・ブリザードの元へと駆けつけた。
「ブリザードさん!加勢します!」
「セーラー・フレア…!余計なことを。私一人で十分よ」
「そんなこと言ってる場合ですか!ほら、来ますよ!」
紅と蒼。炎と氷。
二人の魔法戦士が、初めて、背中合わせに並び立つ。
まるで、ずっと昔から決まっていた運命のように。
「私が右翼を担当するわ!」
「じゃあ、私は左から!どっちが多く倒すか、競争ですよ!」
「望むところよ!私の五体が先か、あなたの三体が先か、勝負と行きましょう!」
憎まれ口を叩き合いながらも、二人の身体は、互いの力を補い合うように、完璧に連動していた。
フレアの炎が、ゴーレムの動きを鈍らせ、その隙を、ブリザードの氷が的確に貫く。
ブリザードの氷壁が、敵の攻撃を防ぎ、その背後から、フレアの爆炎が敵を飲み込む。
赤と青、二色の閃光が、戦場を縦横無尽に駆け巡る。
それは、まるで、激しく、そして美しい、炎と氷のデュエットダンス。
その光景に、学院の生徒たちは皆、言葉を失い、ただ見惚れていた。
やがて、残るは、一際大きな、指揮官機と思わしきゴーレム一体のみ。
『二人とも、よく聞いてくれ!最後の仕上げだ!』
アルトの、興奮を抑えきれない声が、二人の頭の中に響く。
『フレアは、奴の足関節を、最大出力の炎で溶解させろ!ブリザードは、奴が体勢を崩した瞬間、その無防備になった胴体コアを、最大魔力で凍結させる!急激な温度変化による金属疲労で、内部から自己崩壊するはずだ!』
「…面白そうじゃない」
「はい、プロデューサー!」
二人の瞳が、同時に頷く。
フレアが、地を這うような低い姿勢から、炎の奔流を放つ。
「フレア・ストリーム!」
灼熱の炎が、指揮官機の足元を舐め、鋼鉄の関節を、飴のように溶かしていく。
ガクン、と巨大な機体が、膝をついて体勢を崩した。
その、コンマ数秒の隙を、ブリザードは見逃さない。
「――チェックメイトよ」
蒼い流星となって、天高く跳躍。
クリスタルの剣を、空中で逆手に構え、落下速度と自らの全体重を乗せて、無防備なコアへと突き立てる。
「アイシクル・ブレイク!」
灼熱に熱せられたコアに、絶対零度の刃が突き刺さる。
刹那、訪れたのは、静寂。
そして、次の瞬間。
―――ゴゴゴゴゴゴッッッ!!!
内部から、凄まじい亀裂が走り、指揮官機は、断末魔の叫びを上げる間もなく、内側から大爆発を起こして、木っ端微塵に砕け散った。
戦いの、終わり。
静寂が戻った訓練場に、荒い息をつきながら、二人の魔法戦士が、背中合わせに立っていた。
その姿は、誰の目にも、伝説の始まりのように、映っていた。




