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【変神(ヘンシン)】で俺の考えた最強ヒロインをプロデュース!…したはずが、彼女たちの熾烈な争奪戦のターゲットになってました!?  作者: のびろう。
第5章 鋼鉄の襲撃と蒼き騎士の誕生

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気づかないフリ…じゃなくて、気づかない君

鋼鉄の軍団が沈黙し、戦場と化していた訓練場に、嘘のような静寂が訪れた。

残されたのは、無数のゴーレムの残骸と、その中心に立つ、二人の少女の姿。

やがて、彼女たちの身体を包んでいた紅と蒼のオーラが、まるで幻だったかのように、ふっと消え去った。


「はぁ…っ、はぁ…っ…」


光の粒子が霧散し、そこに立っていたのは、煤と汗にまみれた村娘リゼットと、制服が破れ、気丈な表情の中に疲労の色を隠せない令嬢クラウディアだった。

極度の緊張と疲労から、二人の身体が、ぐらりと傾ぐ。

互いに、無意識のまま、すぐ隣にいた相手の肩を支えにして、なんとかその場に踏みとどまった。


「…助かったわ、セーラー・フレア」

「…そっちこそ、ナイト・ブリザードさん」


初めて、互いの戦士としての名を呼び合う。

ほんの一瞬、二人の間には、共に死線を乗り越えた者だけが分かち合える、確かな絆のようなものが芽生えかけた。

だが、次の瞬間。


「…って、なっ…!?」

「きゃっ…!」


互いに、自分が誰の肩を借りているのかを認識し、まるで高熱の鉄にでも触れたかのように、慌てて飛びのいた。

そのぎこちない光景が、戦いの終わりを、何よりも雄弁に物語っていた。


「す、す、すげえ…」

「あいつら、一体何者なんだ…?」


遠巻きに見ていた生徒たちが、畏敬と困惑の入り混じった視線を二人に送る。教官たちも、呆然としたまま、すぐには駆け寄ることすらできない。

そんな中、ただ一人、いつも通りの落ち着き払った足取りで、彼女たちの元へと歩いてくる人影があった。


「二人とも、お疲れ様。見事な連携だった。戦闘データは、全て記録させてもらったよ」


アルト・フォン・レヴィナス。

その手には、ちゃっかりと観測用の端末が握られている。

彼の、あまりにも場違いなその一言が、硬直していた場の空気を、ようやく溶かし始めた。


大混乱に陥った学院の上層部への報告は、アルトが事前に用意していた『指向性魔力増幅理論に基づく、個人用戦闘補助システムの限定的実証実験について』という、聞くだけで頭が痛くなりそうなレポート一つで、なぜか煙に巻かれる形となった。


そして、今回の功労者である三人は、学院長直々の計らいで、医務室のベッドで休息を取ることを許されていた。

…とは言っても、一番ピンピンしているのは、大した戦闘もしていないプロデューサー様なのだが。


「アルト!」


ベッドから飛び起きたリゼットが、真っ先にアルトの元へと駆け寄り、その身体にぎゅっと抱きついた。


「よかった…!無事で…!あなた、また無茶するんだから!私がどれだけ心配したと…!」


その声は涙で震え、アルトの胸に顔をうずめる彼女の肩は、小刻みに震えている。

安堵、恐怖、そして、無事だった喜び。あらゆる感情が、彼女をそうさせていた。

物語ならば、ここで主人公が優しく彼女の頭を撫で、甘い雰囲気になる最高の場面。


――リゼット・ブラウンは、今、心の底から思う。


(怖かった。でも、アルトが無事でよかった…!)

(あなたがプロデューサーなら、私は、何度だってあなたのヒーローになるわ…!)


その、あまりにも一途で、いじらしい少女の想い。

それを受けて、我らが天才科学者は。


「ふむ。リゼットのバイタルサインは正常値に戻りつつあるな。だが、この過剰な接触行動…戦闘後の興奮状態が引き起こす、オキシトシン分泌の典型的な症例だ。興味深いデータだ」


などと、腕の中の少女の体温を感じながら、冷静に分析していた。

もちろん、声には出していない。だが、その瞳は、完全に『研究者』の目をしている。


そんな二人の(一方通行な)感動の再会の光景を、もう一つのベッドから、クラウディアが、なんとも言えない複雑な表情で見つめていた。

そして、意を決したように、ゆっくりとベッドから降りると、アルトの元へと、 ぎこちない足取りで歩み寄る。


「…アルト・フォン・レヴィナス」


その声に、リゼットがびくりと顔を上げ、アルトを抱きしめる腕に、さらに力を込めた。

(な、なによ…!アルトは、今、私と感動の再会をしてるんだから、邪魔しないでほしいんだけど…!)

あからさまな敵意を向けるリゼット。

だが、クラウディアは、そんな彼女を一瞥しただけで、視線をアルトへと戻した。


その、整いすぎた顔は、なぜかほんのりと赤い。

碧眼は、羞恥と、葛藤と、そしてほんの少しの感謝の色を浮かべて、気まずそうに揺れていた。


――クラウディア・フォン・ヴァレンシュタインは、今、人生で最も困難なミッションに挑んでいた。


(お礼を言うのよ、クラウディア!彼は、あなたの命の恩人でしょう!)

(でも、素直にお礼なんて言ったら、この男、絶対に調子に乗るわ…!)

(かと言って、このまま黙っているのは、ヴァレンシュタイン家の騎士として、誇りが許さない…!)


彼女の頭の中で、天使と悪魔(両方ツンデレ)が、激しい論戦を繰り広げる。

数秒間の、長い長い沈黙の後。

彼女は、ついに、絞り出すように、その言葉を口にした。


「…………礼は、言うわ」


それは、蚊の鳴くような、小さな声だった。


「え?」

アルトが聞き返す。


「だ、だから!あなたのおかげで、助かったことには、感謝すると言っているの!」


顔を真っ赤にして、ほとんど叫ぶように、彼女はそう言った。

そして、これ以上ないというくらい、早口で続ける。


「で、でも、勘違いしないでよね!これは、あくまで一時的な戦術的同盟よ!あなたと私のライバル関係は、まだ始まったばかりなんだから!それに、そのブレスレットだって、私があなたの機械を使いこなしたから勝てただけ!決して、あなたの理論が正しかったわけじゃ…!」


そこまで一息に言うと、彼女は「はぁ、はぁ…」と、肩で息をした。

ツンデレの教科書があるなら、間違いなく太字で掲載されるであろう、完璧なムーブ。


かくして、戦場を救った二人の美しきヒロインが、一人はデレデレと抱きつき、一人はツンツンと顔を赤らめながら、一人の少年を取り囲むという、絵に描いたようなハーレムラブコメの構図が、ここに完成した。


明確すぎる、二つの好意の矢印。

それらを、一身に受けた、アルト・フォン・レヴィナスは。


「…………なるほど」


ぽん、と何かを理解したように、手を打った。

その顔には、世紀の大発見をした科学者のような、真剣な輝きが宿っている。

リゼットとクラウディアは、一瞬、「え、もしかして、ついに私たちの気持ちに…?」と、淡い期待を抱いた。


だが、彼の口から飛び出したのは、彼女たちの甘い期待を、木っ端微塵に粉砕する、驚愕の一言だった。


「――やはり、僕の仮説は正しかった」


彼は、おもむろに懐からメモ帳とペンを取り出すと、凄まじい速度で何かを書きつけながら、一人で納得したように頷き始めた。


「戦闘という極限のストレス状況が、人間の精神に与える影響についての仮説だ。被験者リゼットのように、元来の他者への依存傾向が強い個体は、戦闘後に、庇護欲求を満たしてくれる対象への、物理的な接触を求める傾向が強まる。一方、被験者クラウディアのように、プライドが高く、自律性を重んじる個体は、他者からの救助という事実が、自己の尊厳を脅かすストレスとなり、それを防衛するための、攻撃的な言語反応として現れる…!」


アルトは、キラキラした目で、二人を見比べる。


「素晴らしい!なんという、対照的で、美しいデータだ!君たち二人とも、戦闘の興奮がまだ続いているようだね。アドレナリンやノルエピネフリンといった、神経伝達物質の影響を、ここまで克明に観察できるとは!これは、今後の『変神』における、精神的負荷の軽減プログラムを開発する上で、何物にも代えがたい、貴重な臨床サンプルになるぞ!」


「…………」

「…………」


リゼットは、アルトに抱きついていた腕から、するりと力が抜けた。

クラウディアは、顔を真っ赤にして何かを言い募ろうとしていた口を、ぽかんと開けたまま、固まった。


医務室に、気まずい沈黙が流れる。

時が、止まった。


((この、朴念仁(にぶちん)…!!))


二人の少女の心の声が、奇跡のシンクロを果たした瞬間だった。

気づかないフリ、ではない。

この男は、天然で、純粋で、一点の曇りもなく、全く、気づいていないのだ。

少女たちの、複雑で、繊細で、熱い乙女心というものを。


やがて、我に返ったリゼットとクラウディアは、顔を見合わせる。

そこには、もう、ライバルとしての敵意はない。

ただ、共通の『どうしようもない男』に向けられた、深い、深いため息と、戦友だけが分かち合える、連帯感にも似た、諦めの感情だけがあった。


かくして、紅蓮と蒼氷の魔法戦士の記念すべき初陣は、天才プロデューサーの飽くなき探究心によって、少しだけ締まらない、そして、ヒロインたちにとっては、最高に疲れる形で、幕を下ろすのだった。

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