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【Ep.12-3】幻は霧の中で(3)

 濃霧に覆われた山の8合目付近で私―――如月梓(きさらぎ あずさ)は、道中で分かれた福留太一(ふくどめ たいち)と合流し、山頂を目指して険しい山道を進んでいく。私と共に行動していた後輩の増間亮(ますま りょう)が息を上げながら私と太一に付いていく。

「はあ、はあ…二人共何で平気なんですか……?」

「お前が非力すぎるんだよ、(りょー)ちゃん」

 太一は厳しめに亮に向けて言う。私はそんな二人のやり取りを横目に、周囲に警戒しながら進む。

「ところで、梓。俺と合流する前に何があった?」

 不意に太一から質問される。私は足を進めながら太一と合流する前に起きた出来事を話した。


 班のメンバーが分断された直後、7合目付近に私達はいた。私、亮の他にもう一人、塩崎(しおざき)にこという後輩隊員と共に別動隊を探して山道を歩いていた。霧のせいか私達の足音や話し声以外の音が聞こえず、気味の悪さが強かった。私達の進行を阻むように現れる影の小人達を各々の武器で対処しながら進んでいった。すると、突然にこが洞穴(どうけつ)の中へ走り出してしまった。彼女は自分が興味のある方(特に血沸き肉躍る闘争)へ突き進んでしまう癖があり、それで指示も聞かずに独断専行されてしまわないかと私も常に警戒していた。こうなるのは案の定。私は彼女を引き止めようと思ったが、更なる面倒事に巻き込まれてしまう危険性や、彼女の相棒である群生圭からの"もしも塩崎にこが指示を無視して独断専行するようなら、引き止めずに置いて行って構わない。その先で彼女の身に何かがあっても自業自得だ"という救いのない無慈悲な通達の事もあり、私達は彼女を置いていく事を決めた。

 今思えば、その判断は命取りだったと言える。

 暫く歩いていると、私達を追い掛けるようににこが焦った表情で戻ってきた。聞く所によれば、例の洞穴で巨大な影の異形に出くわしたらしく、独りで対処し切れない程の強さだという。私達の意見を完全無視し、にこは私達の手を引いて洞穴の方へと連れて行った。しかし、洞穴に行っても異形らしき影すら見当たらなかった。私達が異形を探してにこに背中を向けたその時だった。突然、彼女が私達に攻撃を仕掛けてきたのだ。背後から奇襲を仕掛けられた事で対応が遅れてしまい、危うく怪我を負うところだったが何とか回避する事が出来た。狂気じみた表情は彼女のデフォルトであったが、真剣な任務の最中にドッキリ的奇襲を仕掛けるのは彼女らしくない。私は彼女に向けて投擲(とうてき)ナイフを刺す。人間にぶつかっても透過する特殊素材の武器の為、彼女に刺してもすり抜けていく筈―――しかしナイフはしっかりと目の前の彼女に刺さっていた。これは本物の塩崎にこじゃない。異形が彼女に成り代わっている。疑念は確信に変わった。にこの偽物はそのまま黒い煙となって消失したのだが、完全に仕留められたとは言い切れない。私達は本物のにこを探して山道を行くことにした。そして太一と合流するに至った。


 太一は共に行動していた新人隊員の羽田(はねだ)ひよりが成り代わりの被害に遭ったらしく、彼女を守ってあげられなかった事を強く悔いていた。

「正直、梓までやられていたら俺……どうにかなってたと思う。お前が無事で本当に良かった」

 太一の言葉には重みがあった。彼の言葉を聞いて私は少し心苦しくなった。

「太一……」

 すると私達の間に割って入る様に亮が口を開く。

「あの、二人とも見てください!山頂です!」

 視界を遮るほどに濃かった霧が段々と晴れ、私達は山頂に辿り着いた。


 山頂には木造の猟師小屋らしき建物があり、その扉の前に先に到着していた残りの班員達がいた。しかしこれが全員ではなく、大事なメンバーが1人欠けていた。副班長の夕暮佳子(ゆうぐれ かこ)である。

「……佳子ちゃんは?」

 私のその問いに班員達が悲し気に目を逸らす。口を開いたのは後輩の湯川豆吉郎(ゆかわ とうきちろう)だ。

「夕暮副班長も奴らに攫われました。見る限り、ひよりさんと塩崎先輩もやられたみたいっすね」

 彼に続く様に群生圭(むれおい けい)が言う。

「3人も欠けるとは、かなり痛いですね……塩崎君がやられると言うのは私的には想定内でしたけど」 

 貴方の通達の通りにしたらそうなったのよ、と言いたげに私は頷く。さらに、亮が無事だった事を知った伊川瑠美(いがわ るみ)が彼女に抱き着いて泣きながら言った。

「うわああ、亮様あぁ!無事で、良かったぁ!!」

「あはは…瑠美さん……ご心配をおかけしました」

 そう言って優しく頭を撫でる亮に「はわっ、イケメン……♡」と小声で呟く瑠美。そんな光景を見て私は微笑ましくなったが、それでも終始表情に影を落としていたのは有栖川英二(ありすがわ えいじ)だった。彼の相棒である佳子が囚われの身となった事が、相当心に堪えたのだろう。再会の喜びを分かち合う束の間の休息と行きたい所だが、敵に捕らわれているメンバーもいる以上、長く停滞するなんてできない。私は咳払いをすると、大きく手を叩いて言った。

「はいはい、そこまで!」

 私の声を聞いた一同は一斉に私を見る。私は続けて言う。

「皆、聞いて。私達の目的はこの山を根城にしている異常生命体を倒す事。そして…異常生命体に攫われた佳子ちゃん、にこちゃん、ひよりちゃんを助ける事!」

 そして木造小屋を指差して続ける。

「多分この小屋が奴の住処だわ。今から突入する。皆、気を引き締めていくわよ!」

「了解!」

 班員達の返事に笑顔を見せると、先頭に立って小屋の扉を開けた。

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