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食後には、百人の天世人序列一位であった「女たらしハクサン」の話しも聞かされ、噂話の全てが「ラディッシュへの僻み」の交じった「伝言ゲーム」と、面白おかしく付け加えられた「話の尾ひれ」と知り、誤解は解けた。
しかし誤解は解けたのだが、その代わりラディッシュの料理の虜となった彼女は、
≪アタシもアンタ達に付いて行くさぁねぇ♪≫
「「「「「「「…………」」」」」」」
そして現在に至る。
ため息交じりのドロプウォート。
ゲンナリした気持ちを切り替えようと思ってか、手綱を引くラディッシュに、
「それでラディ、行き先は決まりましてですの?」
すると彼はバツが悪そうに笑いながら、
「実は、その、まだぁ……」
「まっ、まだぁ?!」
「だっ、だってぇ、復興中のアルブル国も気になるし、エルブの王様から頼まれたフルールとカルニヴァの王様への報告もあって、どれを優先すれば良いのか……」
悩む横顔をニプルウォートは「くくっ」と愉快そうに笑いながら、
「まったくぅアンタらしぃ、生真面目な「お悩み」だねぇ~」
微笑ましく思って居ると、背後の荷台から、
『行くならフルールかカルニヴァにしておくれでないさぁねぇ』
「「「?!」」」
イリスである。
チィックウィード達とカードゲームに興じながら、さも当たり前のように提案する彼女に、ニプルウォートは少々ムッとした顔して、
「頼まれもしてないのに憑いて来といてぇ、好き勝手言ってんじゃないさ」
皮肉を以て不服を口にしたが、彼女は手札から目を離す事も無く、
「憑いて来てとは御挨拶さねぇ~行き先は決まって無いんだろぅ? だったらケチケチすんじゃ無いさぁねぇ」
「ウチはそう言う事を、」
言い合いに発展しそうになった途端、
『分かりましたわ』
ドロプウォートが打ち切る声を上げて淡々と、
「カルニヴァかフルールに致しましょう。ラディも、それで宜しくて?」
「う、うん。僕は「理由付け」があるなら、何処が先でも構わないよ」
「決まりですわね」
彼女は笑みを浮かべて頷くと、荷台の仲間たちに、
「では「フルール国」と「カルニヴァ国」と、」
どちらが良いか問おうとするより先、
『『フルールッ!!!』』
熱の入った答えを返したのは、パストリスとカドウィード。
二人の御目当ては言うまでも無く、
≪同人誌!≫
それが分かる「同類のドロプウォート」は、
「当然、そうなりますわよねぇ」
苦笑したが、そんな彼女の横顔をラディッシュ越し、
(…………)
黙して見つめるニプルウォート。
何かしらの危惧を抱いた表情で見つめたが、ドロプウォートは視線に気付く様子も、素振りも見せず、
「因みにイリィは、何故にアルブル国へ行きたくありませんの?」
すると彼女は手札を一枚抜き出し、ゲームを普通に続けながら平然と、
「追っ手を撒いたばかりの国だからさね、今行くと、ちぃ~と面倒なのさぁねぇ」
『『『『『『追っ手ぇ!?』』』』』』
ギョッとするラディッシュ達であったが、ニプルウォートはここぞとばかり皮肉と嫌味と、からかいを交え、
「キッシッシッ。盗みでも働いてぇ追われてるかぁい?!」
笑いながら問いに、ゲームに没頭中であったチィックウィードが流石に手を止め、無垢な瞳で、
「そぅなぉ?」
首を傾げると、イリスも幼子に不審者扱いされては黙って居れず、
『おっ、お馬鹿を御言いで無いさぁねぇ!』
慌てた様子で振り向いて、
「アタシぁ歴きとしたぁ! お……」
「「「「「「「お?」」」」」」」
集まる視線の中、何かしらの言葉を飲み込んだ彼女は、
「お、おぅ……おぅさぁ「旅人」なのぉさぁねぇ!」
その物言いは、誰が、どう見ても不自然で、その場の取り繕いとしか聞こえず、彼女の立ち振る舞いが気に入らないニプルウォートは追及の手を休める事なく、
「普通の旅人に追ってが掛かるモンなのかい?」
「うっ、ウッサイさねぇ! 長旅の間には、そのぉ、色々あるのさぁねぇ! ほっ、ホラぁオマエがグチグチ言うせいでぇ、またぁチィに負けちまったじゃないさぁねぇ!」
「「「「「「…………」」」」」」
気遣い、不審、危惧、それぞれが黙して思う所がある中、
『パパ、オシッコ、なぉ!』
唐突な声を上げたのチィックウィード。
一先ず馬車を止めての小休止となり「チィ坊の介助に」と、そそくさと体よく離席するイリス。
ラディッシュとターナップも離席し、二人となった御者台でドロプウォートが静かに本を読み耽っていると、
『まさかアンタが従うとは思わなかったさぁ』
虚空を見つめるニプルウォートのボヤキに、
「…………」
彼女が言わんとしている所が分かるドロプウォートではあったが、あえて話をはぐらかす様に、本から目を離す事も無く恍けた物言いで、
「何をですのぉ~?」
「何をって」
少し苛立ちを滲ませた物言いで振り向き、
「アイツが、アルブル行きを渋った事にさ」
しかしドロプウォートは本を読みながら平然と、
「アルブル国の復興状況確認と、フルール、カルニヴァ両王への報告は、私達にとって同じ重さの話。ならば事情が過分に付与されて重きを増した方に舵を切るは、当然の選択で、何の不思議が?」
するとニプルウォートは真剣みを増した表情で、
「本当に……それだけかい?」
「それ以外に何がありましてぇ?」
「…………」
見返りもしない返答に、一拍置いてから、意を決し、
「アンタ、ラディの事をもう、」
『僕がどうかしたの?』
(ラディ!)
不意な帰還に驚くニプルウォートの一方で、
「何でもありませんわ、ラディ♪」
ドロプウォートはニコリと笑って本と閉じながら、
「単に女子話を、していたダケですわぁ」
「えぇ?!」
(しまったぁ! 女子の話に首を突っ込むなんてウザイって思われちゃう……)
気弱なラディッシュは自身の名前が出ていた事を気にしつつも、
「あ、うん、そぅなぁんだぁ。あはははは♪」
笑って、その場のお茶を濁した。




