第十章:冒険者の反撃
私は優しい息吹を感じつ目を覚ました。
目を開けるとヴァルターさんと目が合いましたが、その近すぎる距離に瞠目します。
何せ、後もう少しという所で・・・・く、唇・・・・同士が・・・・い、いえっ!
触れ合って・・・・・・・・!!
いえ、私の思い込みかもしれません。
だってヴァルターさんは私が目を開けると直ぐ身を引いたのですから。
「おはよう。気分はどうかな?勇敢な眠り姫」
ヴァルターさんは私に優しく声を掛け、私は顔を真っ赤にしながら答えました。
「体の何処も・・・・痛く、ありません」
「そいつは良かった。俺の薬学も馬鹿にしたもんじゃないな」
私の答えにヴァルターさんは愉快そうに笑いましたがボリス達は自分達の立場に絶望している感がありました。
ただ私が無事に目を覚ました事は心から喜んでくれましたが今の状況を考えれば・・・・・・・・
「さぁて眠り姫も目覚めたし・・・・依頼を遂行するか」
ヴァルターさんは私達に軽い口調で語り掛けますがボリスが言いました。
「武器は無いし、魔法も使えない上に縄で縛られているんだぞ?無理だ」
「諦めの早い男は情けないぞ。男なら・・・・これ位はやりな」
ヴァルターさんは言葉と共に縄をボリスに投げ付けました。
『!?』
これには全員が目を見開きましたがヴァルターさんは驚く私達を他所に鍵穴まで行くと指で確認したのでしょう。
「安っぽい鍵だな。まぁ、これ位なら見張り役が来るまで余裕だ」
そう言ってヴァルターさんは襟の後ろから薄い金属の棒を取り出し、鍵穴に差し込み何やら作業を始めました。
「お、おい、おっさん。逃げるのか?」
「言っただろ?マダム・アンナは冒険者として依頼を遂行すると言ったんだ。なら案内人の俺がやる仕事も同じだ」
私を蠱毒師の元へ案内するとヴァルターさんは言いました。
「・・・・フフンっ。楽勝」
ヴァルターさんは鍵穴を開けると悠々と牢から出ました。
「ちょいと先を偵察して来るから待って・・・・ほぉ、飢えた犬が群れで来たか」
ヴァルターさんの眼が今までにないほど冷たくなったのを見て私は息を飲みました。
ですが横から見る顔は、まるで獲物を見つけた猛禽のように鋭かったです。
「・・・・・・・・」
ヴァルターは無言で暫し立っていましたが、一瞬で姿を消したので私達は瞠目しました。
もっともヴァルターさんが消えて間もなく山賊達は現れました。
飢えた犬のような眼差しで私、モニカ、マリさんを見て。
ただヴァルターさんの姿が見えない事と、鍵が解かれているのを見て慌てましたが・・・・・・・・
「っ!?」
山賊の一人が眼から生気が失われるのと同じくヴァルターさんの冷たい眼が私達には見えました。
何処から出て来たのか私達には見えませんでしたが、山賊達は仲間が一人やられた事に今も気づいていません。
ですが既に事切れている仲間を今も生きている山賊が見て漸くヴァルターさんの姿を確認しました。
もっとも・・・・その時には手遅れでした。
何故ならヴァルターさんは残った2人の喉に棒状の剣と短剣を刺したのですから。
棒状の剣と短剣を刺された2人は瞠目しましたが武器を手にする暇もなく・・・・またたく間に事切れました。
「町に来た、お前等の仲間にも言ったが・・・・婦女子は優しく扱え」
冷たい口調でヴァルターさんは言いながら事切れた山賊達を牢に入れ、左脚に巻いていたゲートルを結び直しました。
ただ、ゲートルを巻いていた部分には革の鞘があるのを私は見ました。
『あそこに隠していたんだ・・・・・・・・』
そしてゲートルを巻いていたからちょっと膨らんでも誤魔化せたと知り、私はヴァルターさんの用意周到に感心しました。
ですが奇妙な短剣とも思いました。
ヴァルターさんが持つ短剣は片方がヘラ状になっているからです。
首を傾げる私とは別に短剣を見てマリさんは確信したようにヴァルターさんに言葉を投げました。
「陰の者だったのね・・・・・・・・」
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陰の者と聞いて私はヴァルターさんを改めて見ました。
この陰の者とは闇の世界を生きる人間を指しますが、その中でも常人には真似できない技術を持った人間を特に指します。
それがヴァルターさんとマリさんは言いましたが・・・・・・・・
「ちぃっと呼び方が違うよ。マドモアゼル・マリ」
ヴァルターさんは短剣で私の縄を切りながら訂正するようにマリさんに言いました。
「俺は騎士になりたくてね。"陰の騎士"と言ってくれ」
「・・・・それなら陰の騎士。貴方の目的は・・・・いえ、止めておくわ」
マリさんは言葉を途中で止めて別の言葉を言いました。
「陰の者が依頼内容などを言う訳ないもの。そうでしょ?」
「あぁ、正解だ。それでマドモアゼル・マリ。君はどうする?」
ここから逃げるか・・・・・・・・
「マダム・アンナと共に依頼を遂行するか。逃げるなら自力で頼むよ?」
「・・・・冗談のセンスが無い騎士ね。アンナは依頼を遂行するんですもの・・・・仲間として、やるわ」
「私だって、やるよ」
マリさんに続いてモニカも言いました。
そしてボリスもやると言い、山賊の装備していた短剣を手にしました。
「なら御案内いたしましょう」
ヴァルターさんは恭しく頭を下げると牢のドアを開け、先頭で前に出ると山賊達が来た道を見ました。
「見張り役が来たから売り上げ等の事を話した筈だ。その後は各自の時間に時間になっている筈だから・・・・確実に始末していこう」
仕事は「素早く、そして正確に」が一番とヴァルターさんは言いながら暗い道を歩きました。
ただ慎重な足取りで、しかも無音の足使いで進むヴァルターさんに私達は付いて行くのに必死でした。
更に曲がり角で止まり、慎重に顔を覗かせて確認する辺りは経験値が違うと思い知らされます。
ですが私は経験値を積めば良いと思いながら後を追い掛けます。
ヴァルターさんは無音で、しかも素早く走りますが一度は忍び込んだのでしょうか?
迷いが無い足取りで進み、然る粗末な木製のドア前で足を止めると耳を当てました。
その様子を私は固唾を飲みながら見守りましたが。ヴァルターさんは静かにドアを開け、中を確認してから私達を手招きしました。
中に入った私達は自分達の装備が色々な装備と乱雑に置かれている光景を目の辺りにしました。
「これって・・・・・・・・」
モニカは山賊が使うには上等な装備を見て目を丸くしますがヴァルターさんは自身の装備を身に着けながら説明しました。
「君等より以前にやられた冒険者達の装備さ。大体は2級に進級したばかりのルーキーだ」
「・・・・馬鹿にして行ったらやられたという訳ね」
マリさんは自分の装備を身に着けながら使えそうな道具を手にしました。
「まぁ、今までランクが低い仕事をしてきた反動さ。しかし・・・・今日で奴等も終わりさ」
ヴァルターさんは小型で円型の盾「ラウンド・シールド」を左手に装着しながら言いました。
そして次に槍を手にしました。
槍は何の変哲もないロング・スピアーです。
「坊や、愛剣を大事にするのは解るが・・・・生き残る事を考えなよ」
ヴァルターさんはボリスが愛剣の長剣を背負うのを見て助言と言える言葉を投げます。
「・・・・解っている。使うのは、こいつだ」
ボリスはヴァルターさんを見ずに「棍棒」を手にしました。
棍棒は、握る箇所に滑り止めの布を巻いただけの代物です。
「そいつの頭にも・・・・布を巻けば血止めと滑り止めの効果があるぜ」
「ふんっ・・・・ありがとよ。おっさん」
ボリスは鼻を鳴らしつつヴァルターさんの助言を聞き入れ棍棒に布を巻きました。
それで皆の準備は終わり・・・・私達は改めて山賊退治をする為に部屋を出ました。




