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幕間:大親分

 薄暗く陰湿な空気が漂う石の廊下を歩く人影が居た。   


 全員がガラの悪い印象を与えるが職業が山賊だから当然かもしれない。

  

 しかし先頭を歩く青年は陰険な表情の他に鼻を突くような異臭を放っていた。  


 それは青年が呪術の中でも悪名高い蠱毒の術を操る蠱毒師だからだ。

  

 蠱毒の術は犬を使う「犬神」や猫を使う「猫鬼」と並び動物を使う古代魔法の一種だ。


 だが人に仇なす邪悪な魔法という事で死体や霊魂を操るネクロマンシー同様に忌み嫌われていた。

  

 ただし蠱毒の術はネクロマンシーとは違う点があり、魅力がある。


 それは新鮮な死体や腐敗した死体、若しくは霊魂を操るレベルで階級分けされたネクロマンサーみたいに階級が無い事が先ずは挙げられる。


 また細かい理論なども特に無いのが違う点だ。


 蠱毒の術は毒性を持った生物さえ入手すれば容易く使い魔を作る事が出来る。


 もっとも最低限の薬学の知識等は求められるが・・・・手に入る力は魅力的だ。


 そんな蠱毒の術を操る者を総じて蠱毒師と言うが、彼等を見つけるのは容易とされている。  


 蠱毒師はあらゆる毒に精通している事から体臭が臭いとされている。  


 そして中には免疫をつける意味で毒を口にする事から何らかの形で体に変化がある。


 例えば目の色が暗くなったり、肌の色がやや紫色になるなど毒の性質によって異なる。


 しかし、それ等は注意深く見れば判るから容易い。


 これ等が蠱毒師の特徴で、青年は見た目からして如何にも蠱毒師と言えたが・・・・蠱毒師を表した言葉として「陰険・陰惨・陰湿」の3拍子は些か当て嵌まらない。


 寧ろ「短気」という言葉を付け足すのが良いと思わせるような台詞を蠱毒師は発した。


 「糞ったれ・・・・あの虚空教の小娘が・・・・あの案内人も・・・・人の心を見透かしたように言いやがって」


 蠱毒師はギリッと歩きながら愚痴を零した。


 それは先ほど石で作った牢に閉じ込めた冒険者の一人である虚空教の聖職者と、パーティーの案内役と言った日雇い労働者の言葉に原因がある。


 「ふんっ・・・・あんな小娘や男に何が解る!!」


 蠱毒師の青年は誰に言う訳でもなく案内人を毒づいたが・・・・自分でも自覚はしていた。


 「人を呪わば穴二つ」という言葉は呪術師の間では自戒の意味を含めて耳に胼胝が出来るほど言われている言葉だ。


 この言葉通り呪術とは「紙一重」の世界を生きていると蠱毒師は思わずにはいられなかった。


 何せ人を呪い殺せば報酬は得るが、その反面で殺された者の家族が自分を殺す為に別の呪術師を雇わないとも限らない。


 また・・・・相手を殺して自分だけ安泰なんて事も無い。


 蠱毒師の青年の知り合いには数年掛かりで親族を殺した呪術師を探し出して殺した者の話が浮かんだ。


 もっとも薬学はおろか魔術に疎い一民草を相手に自分が負ける訳ないと、その呪術師は考えていたようだが結果は・・・・相討ちという形になった。


 『ちぃっ・・・・何の力も無い民草に)られやがって』


 蠱毒師は死んだ呪術師を心中で罵ってから部下に今月の売り上げを尋ねた。


 「あのガキ共のせいで今月の売り上げは先月より大幅に落ちました。ただ秋の収穫で挽回できる予定です」


 「なら良い。大親分も売り上げ低下は予想していたが挽回できると知れば安堵するだろうからな」


 「へい。ですが大親分も大変ですね」


 部下の言葉に蠱毒師は相槌を打ったが、冒険者を捕まえたから一安心すると考えた。

 

 何せ捕まえた冒険者達は3級で、本来なら賊の討伐は出来ない。


 それをギルド側は見て見ぬ振りで依頼した訳だが、これがギルド本部に知られると不味い。


 依頼した過程で命を落とすのは冒険者の実力不足と言われても仕方ない。


 だが、これが本来なら受けられない階級の冒険者に依頼し、その冒険者が命を落としたとなったら話は違う。

  

 こうなるとギルドの落ち度だけでは済まない。


 運が悪いと軍隊が出動する展開にもなりかねないのだ。


 この点を大親分は懸念していた。


 もっとも捕まえたから心配はないだろうと蠱毒師は思った。


 しかし・・・・・・・・


 『あの案内人とかいう野郎・・・・何者なんだ?』


 捕らえた冒険者と一緒に居た案内人と名乗った男。


 最初に目を覚ましたが、ふてぶてしい態度などから肝が据わっていると蠱毒師は印象を持った。


 ただ、先程の言葉などからは・・・・・・・・


 『俺と同じく・・・・闇の世界を生きている気を感じた』


 確証はないが蠱毒師は自分の勘を信じるように大親分と会話が出来る部屋のドアを開けた。


 その部屋に部下達と入るや設置されていた姿見がパァッと光った。


 「大親分、先ほど冒険者を捕らえました」


 蠱毒師は姿見の前に立つ黒いローブで全身を隠した大親分に頭を悩ませていた問題を解決した事を伝えた。


 『ご苦労だった。それで捕らえた冒険者達はどうしている?』


 「牢に収容しています。ただ、気になる男が・・・・・・・・」


 『・・・・日雇い労働者だな』


 大親分が察したように言うと蠱毒師は頷いた。


 「あの男、見る限り肝が据わっている以前に臭いんです」


 『それは私も感じていた。そして調べたが・・・・お前と同じ結論に至った』


 大親分の話を聞いて蠱毒師は案内人と名乗った男が更に臭くなった。


 日雇い労働者なのは確かで、色々と国内外を旅するのも不思議ではない。

  

 ただ、奴が行く所では「不自然な出来事」が毎度のようにあるとなれば話は別だ。


 『しかし・・・・捕らえたなら私としては一安心だ』


 「ハッ。奴等の処分はどうなさいますか?」


 『お前に任せる。ただし・・・・しくじるなよ?』


 「お任せ下さい。それから売り上げですが、秋の収穫で挽回できると思われます」


 『そうか・・・・それなら構わん。他に報告は?』


 「いえ、現時点ではありません」


 『分かった。私の方からは暫く身を潜めておけと言っておく』


 町の方はピリピリしていて来るのは不味いと大親分が言うと蠱毒師の部下達が不満そうな表情を浮かべた。


 『女に飢えているなら冒険者達で解消しろ。ただ、落ち着き次第・・・・私から褒美をやろう』

  

 これに蠱毒師の部下達は色めき立った。


 しかし蠱毒師が睨むと皆、沈黙した。

 

 『・・・・では頼んだ』


 大親分が姿見から立ち去ると姿見は暗くなり、それを確認してから蠱毒師は色めき立った部下達を睨んだ。


 「この馬鹿野郎共が。大親分の前で恥ずかしい思いをさせやがって」

 

 蠱毒師の怒りが込められた声に山賊達は震え上がった。


 「てめぇ等・・・・あの案内人には注意しろ」


 あいつは明らかに臭いと蠱毒師は語った。


 「もし、奴が何か変な真似をしたら構う事はねぇ。殺れ」


 それが俺達の命を助けると蠱毒師は言い、その言葉に山賊達は頷いた。


 「よし。俺は少し休む。お前等は見張り役を決めてから休め」


 以上と言い、蠱毒師は部屋を出た。


 そして残った山賊達は見張り役を決めてから部屋を出た。


 ただ見張り役の山賊達は不平不満を言い合った。


 何せ捕まえた冒険者パーティーのせいで稼ぎは減り、こんな役目もする羽目になったのだから。


 もっとも捕まえる事は出来たし、大親分も性欲を発散するのは止めなかった。


 となれば・・・・・・・・


 『見張り役をやりながら3人の女冒険者を誰から味わうか・・・・・・・・?』


 ゲスな声で話し合いながら部屋を出た。


 しかし・・・・愚かな真似をしたと後に山賊達は身を持って味わう事になる。

 

 それは案内人が蠱毒師に言おうとした台詞を聞けば・・・・解る。

 

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