第九章:山賊の頭
私は夢を見ました。
その夢は私がパーティーを抜け、一人で冒険者を続けている内容でした。
夢の中で私は少し背も伸びて顔立ちも大人びいていましたから成長したのでしょう。
そして私は色々な土地などを旅しました。
アガリスタ共和国、クリーズ皇国にも行った私は・・・・そこでギルドからの依頼をこなしました。
何時も一人でしたが夢の中の私は生き生きしていて、自信も持っていたのが今の私とは違います。
ただ私は何か追い求めるように旅した場所で情報収集をしていました。
その情報とは・・・・ヴァルターさんの情報でした。
『・・・・ヴァルターさんとは夢の中でも別れたんだ』
私は夢の中でも別れる運命となっていると知り落胆を隠せませんでした。
ですが夢の中で私はヴァルターさんとの再会を夢見てか、旅した場所で情報収集を何時もしました。
そんな私の思いが実を結んだのでしょう。
「然る土地」でヴァルターさんと再会しました。
ヴァルターさんも年を取っていましたが、今と大して変わらない姿をしていました。
ただヴァルターさんの格好は変わっていました。
藍色と紺色の鎧を着て、腰には反りの浅い片刃の湾剣を差し、槍を持って馬に乗っていたのです。
それを見て私は確信しました。
真の主人に会えて騎士になれたんだと!!
騎士の姿をしたヴァルターさんは成長した私を見て温かい笑みを浮かべて言いました。
『立派な冒険者になったね?マダム・アンナ。そして・・・・7年前より美人になった』
ヴァルターさんは馬から降りると私の背中まで伸びた黒髪を撫でてくれました。
『マダム・アンナ。俺と茶を一杯ご一緒してくれませんか?』
片膝をついて私の手を取って誘い文句を言うヴァルターさんに私は頬を染めました。
生まれて今までヴァルターさんみたいに扱われた事がないからです。
そして成長した夢の中でも同じだったから尚更です。
ですが夢の中の私はヴァルターさんの誘いに頷きました。
『なら俺の愛馬に乗って行こう』
そう言ってヴァルターさんは私を横抱きにして馬に跨り何処かへ馬を走らせたのです。
茶を飲む場所はお洒落な茶屋で、私とヴァルターさんは茶を飲みましたが・・・・・・・・
ヴァルターさんは自分で言っていたように女性と愛を育むのが趣味です。
凡そ女性の立場から言わせれば「だらしない男性」と言えますが・・・・・・・・
やっぱりヴァルターさんは女性にモテました。
ヴァルターさんを盗み見したり、熱い視線を向ける女性達を見ながら私は茶を飲みました
ですが表情に出ていたのでしょう。
『可愛いね・・・・・・・・』
ヴァルターさんは茶を飲みながら私を見ながら笑いました。
『女性にモテるのは騎士として光栄だけど・・・・俺も嫉妬するよ』
見てみなとヴァルターさんは言い、私が周囲を見ると何人かの男性が私に熱い視線を向け、ヴァルターさんに嫉妬の眼差しを向けていました。
『君も男にモテるね。妬いてしまうよ。しかし・・・・勝利の女神は俺に微笑んでくれている』
私がそうだとヴァルターさんは言い、私は頬を染めました。
『これ位で赤くなるとは・・・・ベッドの中ではどんな表情を浮かべてくれるのか、楽しみだよ』
この言葉に私は狼狽しましたが、ヴァルターさんとなら・・・・・・・・
『君が如何に返事するかで予定変更も考えていたけど・・・・良い返事が貰えそうだ』
ヴァルターさんの微笑に私は小さく頷きました。
するとヴァルターさんは私の手を取り、口付けを落とす寸前で止めました。
『マダム・アンナ。今夜は最高の夜を過ごそう』
これに私は再び頷きましたが・・・・頭から水を掛けられて目を冷ましました。
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目を覚ました私は自分の体が縄で縛られている事に気付きました。
それはボリス達も同じです。
「漸く目覚めたな。小娘」
私は頭上から声がして顔を上げました。
頭上にはガラの悪い男達を従えた青年が立っていましたが鼻を突くような異臭を放っていました。
服装も暗く、目付きも陰険そうでしたが異臭から・・・・私は直感しました。
「貴方が・・・・蠱毒師ですね」
「あぁ、そうだ。そこの男と同じだな?」
直ぐ気付いたと蠱毒師の男は縄で縛られているヴァルターさんを顎で指しました。
「貴様が俺の使い魔を倒したそうだな?」
蠱毒師の男は私がヴァルターさんに声を掛けようとするや髪を掴んで無理やり私の顔を自分に振り向かせました。
「おい、婦女子を乱暴に扱うなよ」
ヴァルターさんが蠱毒師に批判的な言葉を投げましたが蠱毒師は鼻で笑いました。
「ちょっと強い位で粋がるな」
蠱毒師はヴァルターさんを黙らせると異臭を放つ口を私に問い掛けてきました。
「さぁ答えろ。あの蜂を倒したのは・・・・お前か?」
「そうです。貴方・・・・がっ!?」
私は言葉を途中まで言うと大きく跪いていた体を折りました。
モニカの悲鳴とボリスの怒声が同時に鳴り、マリさんが詠唱する声が小さく聞こえましたが・・・・・・・・
「ここは魔法封じの壁で出来ているから無駄だ」
蠱毒師はマリさんを嘲笑いながら私を立たせると腹に何度も拳を打ち込んできました。
腹を殴られ私は体内に有る全てを吐きそうになりました。
ですがグッと堪えて蠱毒師を睨み上げます。
「生意気に睨みやがるか。面白れぇ・・・・これはどうだ!!」
蠱毒師は腹だけでなく体中のあらゆる所を殴ってきましたが、怒りに任せた攻撃ではないと私は気付きました。
『この男・・・・"拳法"の使い手だわ!!』
しかも、かなりの使い手なのは私の軟弱な体が証明しましたが・・・・・・・・
「どうだ?俺の拳は・・・・・・・・?」
蠱毒師は勝ち誇った笑みを浮かべながら倒れる私の顔を足で踏み付けながら問い掛けてきました。
「確かに・・・・ぐっ・・・・痛い、です。でも・・・・貴方の、ふ、ぅ・・・・拳法は"外家"しか、鍛えていないです」
私は痛みに耐えながら蠱毒師に言いました。
この外家とは虚空教の開祖ディアマント・シャーストリ様がクリーズ皇国から持ち返った武術を表す単語です。
外の家---つまり外見を強固にした剛力を操る者を言い、反対に呼吸法などで内面を鍛えて柔軟な力を用いる者を「内家」と称しますが、あくまで表面的な技術を表しただけに過ぎません。
ですが蠱毒師は私の言葉の意味を理解したのか鼻で笑いました。
「"外だけでなく内も鍛えてこそ武なり"と言いたいのか?フンッ。如何にも虚空教らしい台詞だな」
「貴方みたいに・・・・力に溺れ、罪科も無い・・・・ッ・・・・生物を己の欲を叶える人間に・・・・ッ・・・・言われたく・・・・ありません」
私は虚空教にも伝わる武術を学んだ先輩が語った言葉を引用し、蠱毒師に説教とも言える台詞を発しました。
しかし、蠱毒師は私の先輩が説いた教えとは反対の道を歩んでおります。
そんな者の末路は・・・・決まっています。
「貴方は、必ず・・・・自己の力で、破滅しますっ!!」
「・・・・"人を呪わば穴2つ"と言うからね」
ここでヴァルターさんが私の言葉に呪術師達が自戒の念を込めて言ったとされる言葉を言いました。
「そんな事にはならねぇよ。ただ、お前等は暫くしたら死ぬ」
これは事実と蠱毒師は宣言しますが・・・・・・・・
「それなら・・・・ふぅ・・・・私も、宣言・・・・します・・・・」
私は痛みに耐えながら蠱毒師を睨みながら宣言しました。
「貴方は、私が・・・・くぅ・・・・倒しますっ!!」
「ケッ!そんな体でやれるもんなら・・・・やってみろ!!」
おらっと蠱毒師は止めとばかりに私の腹を思い切り蹴りました。
それに私は耐え切れず大きく体を仰け反らせ、涙さえ流してしまいました。
ですが・・・・・・・・
「・・・・俺も宣言してやるよ」
ヴァルターさんの声が何時になく冷たくなったのを私は感じ取りました。
対して蠱毒師は何を宣言するのかとヴァルターさんに問います。
そこには自分がやられる訳ないという自信に満ち溢れていましたが、そこへ部下が来て耳打ちしました。
「・・・・野郎共。行くぞ」
「大親分」に定期連絡すると蠱毒師が言うと部下達は牢から出て行きます。
「せいぜい仲間とお別れの挨拶でもしておけ」
一人ずつ嬲り殺すと蠱毒師は言いながら牢を出ました。
蠱毒師が出て行くと牢には鍵が掛けられて辺りは薄暗く静寂に包まれました。
ですがボリス達が直ぐ私の所へ来て傷の具合を尋ねてきました。
「だ、い・・・・じょう・・・・ぶ・・・・です。どうやら・・・・はぁ・・・・手加減したようですから・・・・・・・・」
「・・・・確かに、手加減した打ち方だったね」
ヴァルターさんは冷静な口調で私の言葉に相槌を打ちましたが、ボリスは噛み付きました。
「おっさん!何で、そんなに冷静なんだよ?!」
「坊やみたいに怒れと言うのかい?生憎だが・・・・そんな”無駄な真似”はしたくない」
「ちょっと幾ら何でも酷いじゃない!こんな目にアンナは遭ったのに!大体アンナを口説いたのに・・・・・・・・」
「あぁ、口説いた。しかし・・・・俺が出ても奴は直ぐアンナを同じようにした。君達がやっても同じ結果だと思うよ」
「だからって・・・・・・・・」
「・・・・アンナ、先ずは眠りなさい」
口喧嘩をするボリスとモニカ、そしてヴァルターさんを無視する形でマリさんは私に話し掛けてきました。
ですが私はヴァルターさんを呼びました。
「何かな?マダム・アンリ」
ヴァルターさんは直ぐ私の声に来てくれました。
「先ほどは・・・・ありがとう、ございました・・・・・・・・」
体中が悲鳴を上げますが私はヴァルターさんに礼を言いました。
「何の事かな?」
「・・・・人を・・・・呪わば・・・・穴2つ・・・・その言葉で、私は痛いのを我慢できました・・・・私も・・・・戦えました」
「なぁに・・・・あんな野郎に負けるほど君は弱くないさ。それより今は眠りな。奴等は数時間は来ない筈だ」
「どうして・・・・分かるんですか?」
「奴等が言っていた大親分との定期連絡は文字通り定期的に行っている筈だ。つまり・・・・”売り上げ”の報告などがあるんだよ」
売り上げ・・・・・・・・
「それ等を報告して、今後の事を話し合うのに1~2時間ほど掛かるのさ。それまでは来ないだろうから・・・・これを飲んで眠りな」
ヴァルターさんは後ろ手に縛られていた手を私の方に向けて何かを見せました。
それは薄紅色の丸い粒でした。
「俺が拵えた回復薬だ。これを飲めば・・・・それ位の傷なら直ぐ治る」
口を開けてと言われて私は痛む口を無理やり開けました。
すると口の中に回復薬が投げ込まれました。
「ゆっくりと噛みな。そしたら直ぐ眠くなる」
言われるままに私は回復薬をゆっくり噛みました。
噛むと直ぐ熟していない果実のような味が口内に広がると同時に睡魔が襲い掛かり私は直ぐ意識を手放しました。
ただ、ヴァルターさんが「頑張ったね」という台詞は聞こえました。




