15.解呪とタノシミな日
城に戻ってからも、誠二達が行うことはそれなりに多くあった。
まずはマレイの治療と、食事だ。
出迎えてくれたティアは、姉様がすみませんと大変気落ちした様子で給仕をしてくれた。
すでに共振の加護の力で何があったのかは、大部分わかっているようだった。
誠二も久しぶりに自室から出て、皆と一緒に食事をとった。
ここまで来れば、ミリィのおっさん姿にもかなり慣れたし、申し訳なさそうにしている姫様のこともなんとか気遣えるくらいの余裕もできたのだ。
服装や仕草などよく見れば、それぞれの個性がでているなというのはわかる。
姫様は優雅に少しずつスープを口に運んでいるし、ミリィはがつがつと飯をかき込む、というような感じだ。
マレイはというと少しばかり落ち込んでいるところはあるのだろうが、ティアの手前それを表に出すような事はしなかった。
今回の誘拐事件と大賢者の件は別問題だし、ただでさえ泣き出してしまいそうなティアの前で、弱気な姿は見せられないという判断からだ。
急遽伝えられた、大賢者の後継の資格剥奪。
これが意味するところはそれなりに大きい。
もちろん後継者としての見習い期間ではあったものの、それはある程度内定されていたということでもあった。
宮廷内での発言力だってそれを根拠としてかなりのものがあったし、宮廷魔術師団だって立場は同僚であっても一目置かれる存在という扱いだったのだ。
それが取り消されたとなれば、なにかしらの不都合があったのではないか、と関係者は考えるものなのだ。
事情を知っている上層部は問題はないにしろ、城に勤める者達の中にはマレイの事を失脚したと思う者だっているだろう。
ティアの同僚たちのメイドさんなどは絶対に噂をするに決まっている。
それを言ってしまえば、ティナやサーシャのこともしばらくは噂話としてああだこうだと言われるに違いない。
これから三人はしばらく肩身の狭い思いをしなければならないのかもしれない。
そもそもが勇者のお世話というものが城の同僚達の中では人気があるものだった。
そこで選ばれたティア達に羨望と嫉妬が向けられたのは当然のことだった。
そういう意味では、ティアにも無遠慮な噂は流れるだろうし、マレイとセットになってしばらくは噂をされるに決まっている。
「ところで、オジどの。マレイは大賢者の後継が失格ということだそうでござるが、そうなったらどうなるでござる?」
外にぽいでござるか? とミリィがオジに声をかける。
少しスープで口の周りがべたべたになってるのは、まあ仕方ない。
「ほっほ。勇者どのはどうなると思いますかな?」
オジはナイフでずぶりと、ビフテキをさしながら食事を続ける勇者に質問をむける。
「大賢者の資質がないってのはわかった。でも、大賢者じゃなければ生きていてはならないわけではないよな?」
「そのロジックですと、確かに、わし以外の人間に生きる余地はなくなってしまいますからな」
さすがは勇者どのです、とオジは分厚い肉を食いちぎった。
どこからどうみても、お年寄りという印象しかないというのに、その姿はまだまだ現役続行という感じだ。
「なら、考えられるのは、大賢者の後継としての再教育か、それ抜きで宮中での仕事をさせるか、だ」
ちなみに、俺の呪い解かないで放逐とかさせたら、加護の力全開にして、この国ぶっ潰すから、と誠二が言うと、ほっほ、怖いのうと、オジは軽く流した。
「勇者どのの言うように、マレイにはしばらくチーレムターの呪いを研究してもらうつもりですじゃ。これでも養い子ですからな。大賢者にならんから、いーらないっ、なんてことはなしですじゃ」
「それなら、まあ、安心は……できねぇけど」
まあ、信じはする、と誠二は答える。
大賢者は、おちゃらけたじじいだけれど、今はその言葉の真偽を判定することはできない。
そんな誠二の反応を、オジは愉快そうに見守っているようだった。
「ええと……それと、マレイはその……男の子、である、ということだが。そこらへんはどうするつもりにござる?」
服装とか、もろもろ、とミリィは彼女にしては珍しく、言いにくそうに問いかけた。
聞いてもいいのだろうか、という思いがあるのだろう。
「それは、僕の好きにしていいって。それで、今更服装の趣味を変えようっていう気もないし、このままでいいやって思ってるんだけど」
おかしいかな? とマレイは困ったような顔を浮かべながら言った。今は室内なので三角帽子は無しだ。いろいろなことが暴露されたところで、マレイの栗色の髪がふわふわでゆるく三つ編みされているのに変わりはない。
いきなりおっさんの見た目になったりはしないのである。
「拙者としては、今まで通りというのが一番しっくりでござるが。その……世間的には?」
「それも僕に一任されてる状態かな。別に女の子のふりをしなくてもってさ」
大賢者になるときか、もしくは後継から外れるときには、そこらへんも告知するとかなんとかで、とマレイは少しばかり首を傾げる。
実際に、そういう事例を目で見ていないのでわからない、というのもあるのだろう。
「それで、マレイはどうするでござる?」
というか、拙者としてはどうにもマレイが男の子だというのが理解できぬでござるが、とミリィは腕組みをしながら、うむむと声を上げる。
それには姫様もうんうんと頷いていた。
「僕としては正直、このままの服装でいいかなって思ってるよ。スカート姿が煩わしいとかはないし。そりゃ冬はちょっと寒いけど、そういうときは炎系の魔法使えばあったかいから」
「……魔法使いはずるいでござるよ……冬でもミニスカは女子の矜持のようなものでござるのに」
寒くても可愛いを求めるでござるっ、とむっちりおっさんはずるいー、とマレイに甘えるようにくってかかった。
絵面的にはけっこう、あれではあるものの。
あまり女子のりをしないミリィとしては、これで、気を遣っているのだろう。
「っていうか、誠二どのはどうしてそんなに冷静にござるか? 見た目かわいきゃなんでもいいとか、そんなことが……」
「そこは、ほれ。俺のいた世界でも、女の子みたいな男子っていたから」
まあ、いっぱいいるわけじゃないし、レアではあるけどと付け加えると、なんとっ、それはすごい世界でござるなっ、とミリィは目を見開いた。
この世界では、異性の服装をするということはそこまで一般的なわけでもない。
ミリィが驚くのも当然のことなのだった。
「っていうか、ティアだっているんだから、そんなに驚かなくてもいいだろうに」
「……言われてみるとそうにござるな。拙者としてはティアがあまりにも可愛すぎて、男の子であるという意識がすこんと抜けてござったが」
はっきりいって、自信失うレベルで可憐にござるぅと、ミリィはへたりこんだ。
こんなに可愛い子が女の子のはずがない、というのを実感できたようである。
「んで、オジに確認しておくが。次の青の月の日までサーシャ達は監禁ってことでいいんだな?」
「まだ、裁判などは行われておりませんがの。マルクスは国家反逆罪ということにはなりますが、サーシャ達はそそのかされただけということもありますしな。そこらへんが妥当かと思いますじゃ」
ま、被害者であるマレイが言うなら、もう少し過酷な罰になるかもしれませんが、とちらりとオジは養い子に視線を向けた。
誘拐までした人間をその程度で済ませてしまって良いのか、という意見はあるにはあるのだが、さすがに一緒に戦った仲間である。
裏切られたという思いはあっても、断罪せよ! というような気持ちにまでは誠二もなれなかった。
もちろん、優先されるのは被害者であるマレイの気持ちなわけではあるが、正直、マレイはまだ誘拐されて心臓をえぐり取られようとしたことよりも、大賢者の後継失格ということのほうにショックを受けている様子だった。
今のところ、サーシャ達の裁判を行うことができていないので、地下の牢屋で拘留中だ。
さすがにサーシャ達とマルクスは別の牢屋に入れられており、彼だけは一人監禁されている状態である。
彼にどういう裁きが下されるのかはわからないが、それに関してはこの国の者が決めるのが妥当であろう。
誠二としては、サーシャとティナの判決がどうなるのか、だけが重要だった。
できれば、きちんとやり直して欲しいと思っている。
「とにかく、せーじ。なるべく早く呪いは解けるように頑張るから、それまではティアにお世話してもらうように」
「えええ、そこは拙者らとも遊んで欲しいでござるよ」
もう、おっさん友達扱いでいいでござるから、とミリィが明るく言った。
さすがに呪いに屈しない強い精神の持ち主である。
「そこはせーじ次第だけど。僕が研究に没頭している間。さぁ、おっさんと男の娘のどっちを取るのかな?」
「ったく。また無茶な二択だな。でも、俺の答えは簡単だ。マレイ。お前も無茶して呪いの研究をしないで、飯の時だけは一緒に食うこと。蒼い月の日までまだ一ヶ月以上あるし、お前が身体壊しちゃしょうがないぞ」
広い視野を持って行くことが大切だ、というとマレイは、いやぁと頬をぽりぽりかいて言った。
「やりたいことは突き詰めちゃうのも一つの真理だよ。僕は早くせーじの呪いが解けて欲しいから」
でも、ご飯だけは一緒に食べるようにするよと、彼女は言った。
そしてそれから十五日後のこと。
「うぉっ。治った! すげーー! ちゃんとみんな元の姿だ!」
城の一室で行われた解呪の儀式を経て、誠二はようやくチーレムターの呪いから解放された。
そばにいたミリィと姫様の姿を見て、うまくいったことを確信し、あぁ、本当に良かったと誠二は涙すらこぼしそうな勢いになっていた。
魔王の城の探索をした直後は、もう呪いを抱えて生きていくんだ、と思っていたものの。
オジの話を聞いた後しばらくしてから、誠二は儀式を受けることを決めたのだった。
それはもちろん、必死に方法を考えてくれるマレイのためという意味合いもあったし、ミリィ達の姿がおっさんのままでは残りの時間を過ごすにしても、と説得されたからだ。
拙者としては、あのおっさん姿もなかなか良いと思うのでござるなぁ、などと言っていたミリィも、実際に呪いが解けた今は嬉しそうな顔を浮かべていた。久し振りな活発系美少女の姿である。
「にしても、さすがマレイどのでござる。健康的な生活を送ってでさえ三日遅れの十五日とは」
「監禁されてたところの地面に描かれていた魔方陣が参考になってね。あれは僕の魔力をごっそりとかき集めて地面に埋められてある石に吸い取らせるってものだったんだけど……だったら、せーじの呪いも元は魔王の魔力の残滓なわけだから、それを集めて吸い出せばいいんじゃないかって思って、時間短縮できたんだ」
成功して良かったよ、とマレイは心の底からほっとした顔を浮かべていた。
さて。大賢者の後継という肩書きがなくなったマレイではあったけれど、彼女の生活は特に変わったことはなにもなかった。
相変わらず宮廷魔術師であることに代わりはないし、自室も見事に本などの資料が散らかっているのも変わらなかった。
一般的な魔術師よりは待遇の良い部屋ではあるのだが、他の宮廷魔術師から不満の声はあがらなかった。
肩書きは消えても、実力は残っているわけで、魔王を討伐した勇者パーティーの一人という名声も十分にそれを助けるのに作用しているようだった。
「僕はいいけど、ミリィがおっさんのままってのはフェアじゃないからね。それに今回の事はせーじが気に病むことじゃないよ」
全部、オジと……僕の判断ミスからきたことだから、とうつむいたマレイの頭を、ぽふぽふなでる。
これはあの日城に戻ってからも落ち込んでいたマレイに、ネガティブな事を言ったら頭なでるからな、という約束をしたから出ていることだった。
世の中にはナデポという単語があるそうだけれど、別にそれを狙っている訳では当然ない。
「悪いのはオジどのということで、決着がついてるのでござるからな。あまり気にしてはいかんでござる」
マレイはちょっとメンタル弱すぎにござると、ミリィは豪快に笑った。
そして、はっ、とそこで何かに気づいて、にやにやとミリィは言う。
「いや、もしかしたらわざと言ってなでてもらってるでござるか?」
「そ、そんなことないよ……っていうかミリィこそなでてもらえばいいでしょうに」
なでて欲しいならちゃんとそう言わないと、とマレイに返されて、いや、それはその……とミリィは口ごもった。
「悪いと言えば……姉様達のことはほんと……すみません」
「おっ、ティアどのもなでてもらいたいのでござるか?」
さすがは可愛いメイドさんにござるなぁと、ミリィがからかうと、うぅとティアは目を伏せてしまった。可愛い。
けれども、ティアがそこまで申し訳なさそうにしてしまうのも、ある意味仕方がないことでもあった。
それほど、ティナとサーシャがやったことは大問題だったのだ。
いくら口車に乗ったからと言って、マレイを害そうとした事実が正当化されるわけでもない。
あの後の裁判では、サーシャとティナの処分が正式に決定された。
誠二の世界では考えられないスピード裁判ではあるのだが、魔法での調査ができるが故のこの早さである。
二人は減給と降格、そして次の蒼の月が出た翌日まで、牢の中で謹慎という扱いになった。
もっと重い罰があってもいいのではないか、という意見も出はしたのだが、愛ゆえに罪を犯したのなら、その愛に対してもっともつらいことを罪とするべき、という意見で、こうなったのだそうだ。
つまり、もうあの二人は誠二に会うことはない、ということなのだ。
送還される日を牢の中で過ごさなければならないのだ。しかもその日がいつなのかを知らされぬまま。
ティアにしてみれば、申し訳なさに加えて、姉から共振を通して届く悲しみの感情に当てられて、つい弱気になってしまう日々だった。
「悪かったこと探しをするのはティアどのの悪いところでござるな。そもそも王様ですら悪かったのだから、この国はみんな悪党ということで、決着にござる」
「みんな悪党って、ずいぶんな開き直りだよな」
ミリィのポジティブさには驚かされるよ、と誠二は苦笑を浮かべた。
ちなみに、王様も魔王討伐を吟味しなかったということで、一ヶ月贅沢禁止令が出されているところだ。
もちろんそれでも旅の最中に食べていた携行食よりはマシなものを食べているそうだが。
「それよりは、今は誠二どのの呪いが解けたことを祝うべきでござる」
たとえば、こんなことをしても、誠二どのは嫌がらないでござるー! とミリィは後ろから抱きついて、思いっきり誠二の顔を二の腕に抱え込んだ。
あまり豊かではない胸が思い切り、誠二の頭に押しつけられている。
「そこは、嫌がろうよ! ってか、せーじ!? どうして無反応……」
「いや、柔らかいけど……こう、これが、あの絶壁だったんだよなぁって妙に、悟ってしまったというか……」
柔らかいっちゃ柔らかいけど、なんというか……思い出されるのは、あの八つに割れた腹筋だったり胸筋だったりで、といまいち誠二の反応は芳しくなかった。
「なっ、んと。誠二どのがまさか……拙者の色香に反応しない……だと」
がーん、とミリィは誠二をはなすとそのまま地面にへたり込んでしまった。
そりゃー、拙者そんなに大きい方ではござらんし、サーシャのようにご立派ではござらんが……と、地面にのの字をかくほどである。
「そこは仕方がないところじゃないかな? せーじはこれで女性経験なんていうのがまったくないんだから」
あ、でもそれなら普通は顔を赤くしながら、やめろー、とか言うものかな? とマレイが首をかしげる。
いまいち女性として生活した時間が長すぎて、男心がよくわかっていないマレイであった。
「では私もここは、アピールをしてみるしかありませんね」
「姫さまはさすがに駄目ですって! 王様に怒られますよ」
いくら勇者さま相手とはいえ、手は出しちゃ駄目です、とティアにたしなめられて姫さまはしょぼんとうつむいた。
呪いにかかってさえアプローチをかけていた彼女は、さすがにすべてのことを知ってからは少し自粛というものを覚えたのだった。
「なら、ティアが迫ってみたらどうでござろう? きっとティアになら、誠二どのもあたふたするのではござらんか?」
あの、おっさんの洗礼を受けていない貴重な人材にござるからな、とのの字を書きながらミリィがはやし立てる。
けれども、ティアは首をかしげながら、どうしてそうなるのですか? と困惑顔をしていた。
「その……男性同士でというのはやはりその……」
天罰が下るというような話も聞いたことありますよ? とティアは恐る恐る言った。
いにしえの時代、この世界にまだ悪魔がいたころのこと。王子の性別を変えて呪いとするような事例はたくさんあったと言われている。どうしてそれが呪いになるか、と言われればこの世界では同性同士がつきあうということがまずないからなのだった。
「どうなのだろうね? たしかに古典だとそういう話は結構あるし、解呪の姫の話の中にだってそういう話はあったけれど……」
んー、とマレイは顎に指を当てて考える。
あのときの、手の感触を思い出してちょっとだけほおを赤らめる。
「どこまでOKなのかはわからないよ。少なくとも触れ合うことくらいはできる」
こんな風に、と誠二の背中に頬を埋めてみる。
温かい。
ああ、人と触れあうのがこんなに嬉しいことだとは。
「なっ、マレイさまっ! いきなり何をやってるんですか!」
「ほぅ、マレイもやっとその気になったでござるか……」
いきなりの賢者らしからぬ行為に周りはざわめきたった。
「知的で冷静なあなたにしては珍しいこともあるものですね」
「だって、今ならフェアでしょうし」
これでも熟考した結果です、とマレイは言った。
「おじぃに言われたことで、一つだけ僕に足りてないことを自覚したんだよ。ちょっと僕は視野が狭かったんだなって。昔からしょっちゅういわれてたんだけどね」
魔術師は視野を広く、何事にも縛られず、冷静に考えろってさ、とマレイは誠二の背中に頬を埋めながら言った。
幸せそうに頬をゆるませながら。
「はははっ、普段できないことをやってみようってことでござるかな」
「んー、ちょっと違うかな。意図して、普段絶対やらないことも、視野にいれて検討しようって話」
さすがに、考えなしになにもかも経験してみようという浅慮は、賢者らしくないでしょう? と、ちらっと誠二の背中から軽く顔を上げて、視線だけをミリィに向ける。
「そうやって見ると、あざとい系女子にしか見えぬでござるな……」
「ストッパーを外したマレイさん……ああ、これはサーシャ達が亡き者にしようとしていたのが、不穏ながらわかってしまいそう」
ああ、あのマレイがこうも、男で変わってしまうだなんて、と姫さまはなぜかハンカチで目尻を拭っていた。涙が出ているわけでもないのに。
「じ、実験の意味ももちろんあるし。ほらっ、ティアもせーじにぎゅってしてもらいなよ」
それで、天罰が来るのかどうか観測したいので、と、いったん誠二から離れたマレイは、ティアの背中をぐいっと押す。
「えっ、ちょ、マレイさまっ! 恥ずかしいの隠すためにこんなのっ、きゃ」
そしてその勢いで、誠二もバランスを崩して思い切り尻餅をついていた。
それこそ、その上にティアを抱える形で。
「も、申し訳ありません。その……すぐ、どきますから」
重いですよね? と身体を支えられる形になったティアは、おろおろと申し訳なさそうにした。
傍目から見れば、メイドさんに押し倒される男子の姿である。けしからん。
「この光景を見ていたら、きっとサーシャたちも、男だからとて侮れんーとか、思っていたんでござろうな」
広い視野にて物事をみれば、真に脅威たるはティアどのではござらんか、とミリィが大爆笑をしていた。
そこに暗い感情は一切ない。素直にみんなが楽しそうに過ごせていることを喜んでいるようだった。
「これも思い出、ってやつかな」
「そうにござるよ。ちょっと拙者らがんばりすぎたし、これくらい充実した余暇ってやつを過ごすにござる」
次の蒼き月の日までは、飽きさせないでござるよー、とミリィはティアの身体を引き起こしながら笑った。
そこにはいつも以上に元気なミリィの姿があった。
やっとのろいがとけたどーー!
ということですが。チーレムメンバーが半減し、そして送喚の日まではまったりでございます。
さすがにここから、タノシミーができる子ではないので。
そんなわけで次話で最終話です。