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12.騎士団長の疑念

「そもそも、なぜマレイどのにだけチーレムターの呪いが無効なのか。そこらへんを考えて見たことはありませんかな?」

 多くの女性は、ああ(、、)なっているというのに、とマルクスはサーシャ達を指さして、マレイの姿とを比較させた。

 たしかにあちらにはガチムチのおっさんが居て、椅子の上には可愛らしい姿のマレイが居る。


「オジに聞いたところだとイマイチ理由はわからないみたいだな」

「ほう、オジ殿をもってして不明とは。けれどなにか言ってませんでしたかな?」

 ふむ、とマルクスは探るような視線を向けてくる。

 そう言われると、オジはなにか言っていたような気がする。


「そういえば、マレイだからこそやも、とか言ってたかな。大賢者の後継だからなんか呪い耐性があるとかそういうことか?」

 いや、なんとも言えないか、とふと思ったことを誠二は言葉に乗せる。

 マレイが呪いから逃れている理由としては、たしかにそれがもっともらしいような気もする。

 たいてい、この手のバッドステータスの耐性が強いのは強い精神力を持っている魔法使いや賢者というのが一般的だ。


「そう! それなのです。我らもそうなのではないかと最初は思ったのです、ただ……」

 そこでマルクスはわずかに首をかしげる。


「ならば、なぜマレイどのは自分だけはノーカウントになるそれを解呪のきっかけとして使わぬのか」

 根本的に誠二どのの呪いを解かずとも、彼女と同じような状態にすることで、身近な相手だけは呪いから解放されるはずではないか、とマルクスは言った。


「それには魔法のセンスとか魔力とかが影響するんじゃないか?」

「ふむ。しかしながら勇者どの。先ほど彼女につけていた魔封じの紐は魔力を制限するもの。それをつけていても呪いを克服できるというのであれば、それは常時発動型(パッシブ)ではなく、瞬間発動型(アクティブ)なのではないですかな? そしてそれはマレイどのの力を持ってすれば、出来たはずだ」


「ちょ……マルクス騎士団長。まさかマレイはあたしたちの姿だけならすんなり治せたって言いたいの?」

 騎士団長の言いぐさに、今度こそ初めて聞いたことなのか、サーシャが困惑まじりの声を向けた。


「いや、あくまでも仮定の話だよ、サーシャ。マレイどのだけに呪いがかからない。その理由はなんなのか。突き詰めて考えて見ただけのこと」

 さて、マレイどのはその理由をご存じなのかどうなのか。

 まさか、大賢者の後継と言われたものが、理由はわかりませんというのかどうか。


「だからあと十二日。時間をもらえば、誠二の呪いは解いてみせるとさきほどから言っているだろうに」

 何を言い出すのかと呆れ混じりのマレイの声に、マルクスは大げさな身振りをしながら答えた。


「実はすぐにでも解けるのではないですかな? そんなに待たなくても。そもそもこの呪いは本当に魔王の残したものなのだろうか?」

 さあ、みなさんよく考えて頂きたい、とマルクスは言った。

 サーシャやティナも、何を言い出しているのかわからないようすで、マルクスに視線を集中させていた。


「わしは勇者どのにかけられた呪いが、実はマレイがかけたものじゃないかと思っているのだよ」

「はぁ?」

 堂々と話を続けるマルクスの言葉に、その場にいたものすべてから、何言ってんだこいつと言わんばかりの声が漏れた。

 サーシャやティナもその言い分には理解が追いつかないようで、訳がわからないという顔を浮かべている。


「まあ、わしから見れば、この状況で一番得をしているのはマレイだ。勇者どのを一人独占できる好待遇。もっとも恋敵を蹴落とすのに有利な状況と言える」

 さすがに勇者どのも、中身が大事といったところで、見た目がごつまっちょのおっさんでは、愛を育むなどできますまい? と言われて誠二はうぐっと息をのんだ。

 サーシャもティアも、基本悪いやつじゃない。

 むしろ、こちらに来てからいろいろ世話になった相手だ。

 しかしながら、その中身を好きになれば外見などどうでもいい、とまでは誠二は言えない。

 そんな達観など、まだ若い誠二に持てるはずはないのだ。


「マルクス騎士団長。さすがにそれは無理がある。動機だけで犯人扱いされては困ってしまうよ」

 まったく、なんて馬鹿なことを言い出すんだい、とマレイは呆れ混じりの声を上げた。

 

「さて、ではできたかどうかを検証しましょう。魔王との戦いを思い出していただきたい。誠二どのは必勝の加護を持つが故に魔王と一対一の決戦となったとのこと。ならばそこで仕掛ければなにもかも魔王のせいにすることが可能ではないかな?」

「そりゃそうだけど、魔王が呪いの言葉吐いて倒れたあとに発動してるんだが?」

 あのときの戦いのことを思い出して、誠二は確かに最後の断末魔の台詞を、苦さとともに思い出していた。

 彼らの平穏を終わらせてしまった自分に向けられた確かな憎悪。

 それが呪いという形になって表れているのは間違いがない。


「そもそも、一人で魔王と戦うように作戦を練ったのは誰ですかな?」

 けれどもマルクスは誠二の言葉を無視するように言葉を続けた。


「それもそうね……騎士団長が言うとおり、あのときの布陣はマレイが取り仕切ってた。でも、討伐を終えた誠二に一番に駆けつけたのはあたしだったわよ」

「そんなもの、いかようにも隠れられましょう。大賢者の後継なればこそ」

 サーシャが部屋を訪れた後にマレイが顔を出したと資料にはあります、とマルクスは言い切った。


「どうですかな? 呪いをかけたのがマレイであり、全部自作自演。ゆえに、チーレムターの呪いを再現することもあの短期間でこなした。そして解呪するためにはあと十二日欲しいと言ってるものの、この状況を少しでも長くするための方便」

 実は今すぐにでも解けるのではないですかな? と言われてさすがにマレイも呆れから一周回って、頭にきているようだった。


「ひどい言いがかりもあったものだね。ああ、確かに君がいうように、今の僕ならその仕掛けはできるだろうよ。チーレムターの呪いのことも知ったし、魔法陣だってかける。魔石を用意しておけば百年続く呪いを付与することだってできるだろう」

 しかも、キーワードを対象が言うかどうかわからないというところで、魔力コストはだいぶ抑えられている術式だ。


「でも、あのときの僕はこの術式を知らなかったし、魔王と一対一で誠二が戦ったのだって、そうじゃなかったら僕らの誰かが死んでたからだ」

 そうだろう、ミリィと話をふると、ショートパンツのおっさんは、腕組みをしながら、うむと肯いた。


「拙者もマレイが仕掛ける余裕はなかったと思うでござるよ。作戦だって変な思惑が入る余地はないでござるよ」

 さすがにマルクスどのの妄想がひどいでござる、とミリィはうんうんと肯いた。


「必勝の加護は俺を勝たせるためになんでも起こす。それでこいつらを失ったらどうしようもない。マレイじゃなくても考えつくし、旅にでてから最後はそうしようって方向になってたんだ。いい加減言いがかりはやめてもらおうか」

「言いがかりなどとは滅相もない。ただわしはマレイが呪いにかからない理由がひっかかるだけです」

 いくらなんでも大賢者の後継だから、というだけの理由では弱すぎると彼は首を横にふった。

 何か秘密があるのではないか。そう思いこんでいる彼は追及の手を緩めない。


 そして、それに煽られた人間もまた、なぜこの状況が生まれているのか。そこに作為があったのではないかと思いこまされてしまっている。


「だったら、マレイだけが大丈夫な理由ってなんなのよ!」

「それは気になる。というかこちらを呪いの対象外にしてくれる術があるなら、早く使ってもらいたいです」

 根本的な呪いを解くのより、そっちのほうがステキですとティナは両手を胸のあたりでくんで言った。

 指毛がもさりとしていたが、さすがの誠二もその視覚情報をシャットアウトする。


「……そんな方法なんてないよ」

 姦しい友人たちからの追及に、マレイは疲れたような声を漏らした。

 何を言っても聞いてもらえない。そんな空気が確かに出来上がっていた。


「まだそんなことをいうの?」

「マレイさまだけがいい目を見るなんてひどすぎます。我々は抜け駆けしない約束をしていたではないですか」

 誠二はみんなの勇者。だから一人だけいい目を見てはならない。

 ほぼ暗黙の了解になっていたそれを、この状況がひっくりかえした。


「ならば、ここで心臓をささげてもらうのが一番ね。友情を裏切ったのはあんたが先なんだから」

「そうですそうです。マレイさまは責任をとる必要があります」 

 だからこそ、サーシャとティナは過激なほどマレイを責めていた。

 抜け駆けなどあってはならないことだ。


「ちょ、いくらなんでもあんまりだろ。マレイは12日あればなんとかするっていってるんだから、あと12日まってやってくれよ」

「誠二はやっぱり、マレイの味方なのね。やっぱりこんなおっさんより、可愛い子の味方をするんだ」

 チーレムターの呪いさえなければ負けないのに! とサーシャはキレ気味でマレイを睨んだ。


「君たちは、どうしたって僕だけが呪いにかかってないことが許せないんだね……」

 友情は気づくのに難しく、築くのに努力がいり、壊れるのは一瞬というけど、まさにそのとおりか、と、マレイはぐったりと椅子に体重を預けた。

 このままでは、それこそサーシャたちは攻撃してきそうだ。

 そして、誠二。彼はきっとマレイ(じぶん)を守ってくれる。


 そうなったらどうなるだろうか。

 十中八九、サーシャたちは負ける。負けるだけなら、まあいい。

 サーシャとの一対一なら、おそらく誠二の加護は発動しないで済むだろう。

 けれどもここには騎士団長のマルクスもいる。ティナの戦闘能力は無視しても、はたして必勝の加護を発動せずに勝つことはできるだろうか。


「わかったよ。どうして僕だけがチーレムターの呪いが効かないのか、答えよう」

 やれやれ、と降参したように手をあげるマレイは、誠二の顔をちらりと見た。

 ああ、終わりだ、というようなあきらめ混じりの顔だ。


「やっぱり、なにかからくりがあったのね!」

「マレイさま……そうまでして勇者さまを……」

 それに対して、女子二人は気炎を上げた。

 疑惑が確信に変わったとでも言えばいいだろうか。


「それで? マレイどの。その答えとは?」

 ミリィも興味があるらしく、話してくれるなら、と質問の声を上げた。

「答えはもうだいぶ前から目の前にあったのだけどね。言われてみれば、ああと納得できるはずだよ」

 なぜ、呪いが発動しないのか。

 魔法抵抗力が高いとか、そんな話だったらどんなによかっただろうか。


「僕に呪いが効かないのは、当たり前なんだよ。だって僕は、ティアと同じく男なのだから」

「へ?」

「え?」

「はぁーー!?」

 ほれ、納得したでしょうと肩をすくめるマレイとは反対に、皆はその発言に衝撃を受けていた。

 誠二が驚くのは、まあまだわかる。二年一緒にいて気づかないのはそれだけ異性としての距離感をある程度保っていたからだし、そもそもマレイは男にしては、その……いろいろな部分が華奢だ。

 いくら後衛職だといっても、男には思えないスタイルだったのである。 


 けれども、長年一緒に育ってきたであろうサーシャたちまで知らなかったということも、誠二にとってはショックだった。当然、他のメンバーにとってもその事実は衝撃的なことには違いなかった。


「ふははは、吐いた。吐いたぞ、マレイ。これでお前は次代の大賢者の権利を失った!!」

「はい?」

 そんな沈黙の中、一人だけ異なる反応を示すものがいた。

 騎士団長のマルクスは、一人にまりと暗い笑顔を浮かべながら、そう宣言したのだった。

きゃー、マレイさんったらなんてことを言い出すのかしらー!

え。知ってた? そ、そーっすか。

というわけで、魔王の呪いは盤石でございました。

瀕死でここまでのことを成し遂げるとは……魔王さんの「チーレム万死!」はすごいなぁ。


そろそろお話も終盤にさしかかってきてます。次話は明日の朝公開予定です。


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