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いけすかないガキを攻略中 ※???視点

「悪いけど……貴族のお嬢様と話すことなんて、何もないから」


 ーーこのスカしたガキが……。


 心の中で悪態ついて、おれは何をしてるのだろうかと、ふと冷静になる。夜中の三時。


 明日から、待ちに待ったゴールデンウィークである。

 普段は休日なんてあってないような仕事をしているので、数年ぶりにまともに休める大型連休だ。ちょうど大きな案件がゴールデンウィーク前に終わったので幻のゴールデンウィークが実現しているのである。

 そのため、今日は夜遅くまでゲームに勤しむことができるのだが……何故おれは乙女ゲームなんてやっているんだろうか。


 虚ろに死んだ目で、液晶画面に映る栗色の髪の男を眺める。


 乙女ゲーム『奏でてメロディー☆プリンス・カルテット』略して『かなメロ』。


 ゴールデンウィーク明けに、このゲームを制作した会社との打ち合わせがある。正直、与信もギリギリな小さな規模の会社であるから、そんな張り切らなくても良いのかもしれなかったが、十年前程にこのゲームの楽曲アルバムのパッケージデザインを引き受けたのがうちの会社で、そのときに営業を担当していた人が、ぺーぺーの新人だったおれを営業として見捨てず育ててくれた大先輩で、恩人とも言える人だった。

 その先輩は女性なのだが、数年前に寿退社をしてしまったため、新たにその会社からお願いしたい案件があると連絡を受けたとき、必然窓口となったのはおれだった。その先輩の後を継いで仕事をするならば、万全の状態で挑みたいのだ。


 まだ先方の担当者とは会っていない。出来る限り良い関係性を構築するためにも、話のタネとしてもゲームをプレイして内容くらいは把握しておこうーーと、こうして夜を徹して乙女ゲームなるものをプレイしれているのだ。


 ……ま、ストーリーとかはさておき、音ゲーとしては面白いな。


 ゲームを買ったときに、うちの会社がパッケージデザインした楽曲アルバムも買ったのだが、普通に曲が良い。すごく良い。普段聞くものはロックバンドばかりだがこういうのもなかなかいいなと、音ゲーフェイズは素直に楽しめていた。音ゲーフェイズを楽しめていたから、こうして六周目までプレイできている。


 さすがに話のタネにするにしたって六周は頑張りすぎかと思ったが、相手方の担当者に「〇〇ルートはプレイしましたか?」とか聞かれて「いや、そのルートはまだ……」なんて答えてみろ。「あー、やっぱり話のタネにちょっとかじったくらいだよな。男だし」とか思われるのがオチである。

 そもそも男のおれが乙女ゲームをプレイしたーーという時点で相手からすれば”営業だから”と一歩引かれた状態になる。いやいや実は妹がいまして、すごい勧められていたんで、良い機会だと思ってーーここまでシナリオはできているのだから、後は内容を頭に叩き込むだけ。そしてできればゴールデンウィーク前にこのいけすかない(巷ではツンデレと呼ばれている)ガキを攻略して、明日から大型連休を満喫しようと画策しているのだ。ロックフェス行きたいし。


「なんで、おれに構うんだよ……!」


 悲痛な表情をした青年が、ヒロイン(おれ)の手を振り払う。

 絶対こいつ、ヒロインの弟だろ。


 今プレイしている『かなメロ』は移植版である。

 恐らく移植版の販売に伴って、新たに楽曲アルバムを販売することになったのだろう。ゲームとアルバム、一緒に出せば良かったのでは? と思わなくもなかったが、制作会社としては、移植版の売れ行きが芳しくないようだったら楽曲アルバムの販売は取り下げる予定だったに違いない。それが、思いのほか移植版の販売数が良かったもので、楽曲アルバムの販売が決定したーーとかそんなとこだろうと思う。


 十数年前に発売された”元の”『かなメロ』はプレイしたことないが、こちらの移植版では隠しルートがふたつ追加されていて、ひとりは隣国の王子、もうひとりがこのいけすかないガキである。



 『かなメロ』は中世ヨーロッパをイメージした舞台の物語だ。

 主人公であるヒロインは、元は平民であるのだが、女神メルディスの加護を受けたとかで、とある男爵家に引き取られるーーという設定である。そして生き別れになった双子の片割れがいるというのだが……まあ十中八九こいつだろうな。


 実の弟と結ばれるっていうのはどうなんだ? 乙女ゲームならアリなんだろうか。


 ツッコミどころは満載なのだが、乙女ゲームにそれを言ってはおしまいなのかもしれない。


 ポチポチと、好感度の上がりそうな選択肢を選んでいく。

 デザイン会社の営業、こちとら十年選手である。生身の人間でもなければ、ゲームキャラクター攻略への最適解など見え透いている。ちょろい、ちょろい。

 ーーとか。当初甘く見ていたら、案外難しくて頭抱えた。しかしもう六周もしていれば慣れたものである。


 それにしても、この弟ルートではライバル役が出てこないな……。


 王子ルートでは公爵令嬢(その一)。王子の側近ルートでも公爵令嬢(その二)。教師ルートでは魔女。レイラークルートでは辺境伯令嬢。隣国の王子ルートでは王女。


 必ずどのルートでもライバル役が出てきたものだが、この弟ルートではライバル役はいないし、なんというか一番平和かもしれない。


 そんなことを考えながら発生したイベントを眺めていると、突然スマートフォンが震えた。ふとそちらに目をやると、メッセージが表示されている。画面上部には”03:50”と表示されているので、こんな夜中に連絡するなよと微かにため息をついた。


 スマートフォンを手に取り、メッセージアプリを開く。

 写真も送られてきていた。三人の男女がピースして映っている。ひとりは妹で、もうひとりの女性は妹の友人だろう。男性の方は外国人だ。


「見て見て~! ご飯ナウ! イギリス料理も結構おいしいよ~」

「こっち何時だと思ってんだ」

「あれ? ごめん日本って今何時? 寝てた?」

「もうすぐ四時。いや、まだ起きてたからいいけど」

「また徹夜~?」


 ダメだよ! と喋る変な犬のスタンプも送られてくる。眉毛が太い。


「あ、それでね。一緒に映ってるのロナルドっていうんだけどぉ。あ、友だちの旦那さんね。来月、日本でコンサート開くんだってぇ」


 妹からのメッセージを見つつ、テレビ画面もチラリと見る。

 液晶の向こうでは「だって……おれとアンタは……!!」いやそこもう早く言え。ええい、もどかしい。


「それでね、ファゴット? どういう楽器か忘れちゃったけど~。お兄ちゃんもやってたよね? コンサート招待してくれるってー!」


 そのメッセージに、知らず眉間に皺が寄る。


「コンサートホール、赤坂だって言うし、お兄ちゃん会社近いでしょ? 一緒に行かない???」


 眉毛の太い犬が「どう? どう?」と喋っているスタンプが送られてくる。ハマってるのか、このキャラクター。かわいくないが。

 はー……と、深いため息を吐いた。


「考えとく」


 短く返信をして、テレビ画面に目を向ける。


「おれたちは……兄妹なんだよッ!!」


 いやお前が兄かよ。


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