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罪の味  作者: しみじみ
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典型的ないじめられっ子が典型的な自殺志願者になりそうなものだけれど、必ずしもそれはイコールにはならない。もちろんいじめを苦に自殺をする学生というのは一定数いて自殺理由としては納得の代物だったけれど、それに関してだけ言えば、いじめ自殺は減ってきている。何故ならいじめ保険なるものが出来たからだ。その存在によって、いじめ加害者が負わされる慰謝料が、この国では珍しいほどの高額になったというニュースが出てからというもの、目に見えるいじめを行う人間は激減した。


 それではいじめはより陰湿になったのかと言えばそうでもない。陰湿なケースの方が、場合によっては肉体的苦痛のいじめよりも責任は重いという判決が出た事例もあったからだ。だからいじめをする側は考えた。バレないいじめってあるのだろうか。その答えが、現在のいじめ現場を表している。


 徹底的な無視。いないものととらえる。その代わり罵詈雑言は浴びない。肉体的苦痛もない。大袈裟な嫌がらせも陰湿な嫌がらせもない。文字通り、相手にされない。


 極めつけはそこに噂話という嘘八百が出回ることになる。いじめ被害者はそれに対して何も手立てが出来ない。だって、なにもされていないから。悪魔の証明とは言ったものだけれど、それよりも質は悪いと思う。目に見えるのにいないように扱われる。それが現代のいじめの姿だ。


 そしてその標的になっているのが一組の泉拓だ。志穂は一組の教室を通り過ぎる時にたまたま彼を見つけた。何者にも相手にされていない彼。うん、標的としては素晴らしい。


 三組の志穂はその日から、泉拓に近づくことにした。東川浩太の読み通りだ。志穂は泉拓に興味を持った。


 まずは泉拓の動きを追う。今時、放課後の動きを追えない中高生など存在しない。SNSが苦手な人でも、授業や将来のことを見据えて活用することが半ば強制的になっている。今やSNSを使えない人間はそのまま使えない人間の烙印を押されてしまう。ましてや、泉拓の場合は学校では透明人間といういじめを受けているのだ。ストレス発散は学校の外でと相場は決まっていた。


 泉拓が出没するゲームセンターへと向かう。志穂は友人との交流は佳奈がほとんどで、その場合でも放課後に遊ぶなどという付き合い方はしていなかったので、こういう所は不慣れだった。何度かケンジと来たことはあるけれど、一人で来たことはなかった。


 拓は格闘ゲームの筐体を陣取っていた。ボタンを連打して、キャラクターを操作している。その様を見ながら、志穂は偶然を装い拓に声をかける。


「最近よく会うね」


 志穂は親しげに声をかける。ここ何日か志穂は拓に声をかけている。勿論事前にチェックをしたうえでの声かけだ。偶然なんてありえない。


 拓はいじめられる前は少ないながらも同性の友人はいた。しかし教室で見ていた限りは異性の知り合いはいないようだった。拓は志穂に声をかけられ、あからさまに動揺していた。戸惑いの色も見える。しかし、その色の中に微かな好奇心が見てとれるのを志穂は見逃さなかった。


「寺門さんもこういうところ来るんだ」


「ううん。普段は来ないよ。普段は」


 最後の言葉を強調。SNSを駆使する出会い方の常套手段。


「あ、ああ。そうなんだ」


 今度は好意の色を隠そうとはしなかった。好奇心から喜びへシフト。そろそろかな、と思いながらも慎重を期すのが志穂の性格だ。


 適当な話題を振りながら拓の反応を窺う。拓は面白いほど志穂の話に相槌を打つ。照れや喜びを全面に押し出して、志穂の機嫌を取ろうとしている様は必死さを越えて滑稽にすらうつる。


 志穂はそんな彼を見て、上手く事が運ぶことを願わずにはいられなかった。純粋に殺すのを楽しむ。そのうえの楽しみ。欲深くなっちゃったな、と思いながら拓の自慢話に大袈裟に反応してみせた。


 布石は充分に打った。志穂は切りの悪いところで話を切り上げる。拓はまだ話したそうにしていた。でもそれでいい。次回を気にならせることが今日の目的なのだから。


「じゃあ。そろそろいくね。今度勉強教えてね」


 拓が唯一自尊心を保てる点は勉強が出来るということ。それを利用しない手はない。


 志穂は控えめに微笑し拓と別れる。拓は名残惜しそうだけれど決して引きとめはしない。異性に慣れてないことが窺える態度。


 ゲームセンターを出て今日の予定を確認する。夜は朱美に会う約束だ。彼女に会ったら自分の計画を話してみよう。朱美はどんな反応をするだろうか。


 時計を見る。まだ時間がある。一人で街歩き。嫌いではない。むしろ好きである。群れを作るのが好きな若者とはよく聞く話だ。でも、志穂はその良さをいまいち理解出来ないでいた。


 一人の気楽さを犠牲にしてまで集団でいることの意味。それについて考えながら志穂は歩き出す。


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