科学研究部と小さな金髪美少女
「おい、匠!どこ向かってんだよ?」
鈴木は引っ張る匠の手を振り払う。
「わかんね。部室どこだっけ?」
「なぁ、お前どうしたんだ?さっきからおかしいぞ。何があったんだよ?」
「ちょっとど忘れしただけだ。気にすんなって」
「本当かよ。いつも、科学室でやってんだろ」
「そうだったなー」
匠は笑って誤魔化すが、大分変な奴だと思われている。
科学研究部
ドアを開けると誰かがいきなり飛びかかって来た。匠の頭に噛みつき、後ろに倒す。
「いてててて、やめ、やめて、やめて」
匠の頭を噛み砕くのではないのかと言うほどの勢いだ。
「おっそーい!1年生のくせに、遅いぞー!」
匠は頭を抑え前を見ると、丁度尻餅をついた匠の顔の高さに金髪美少女の顔があった。
「ちー先輩!?」
匠は頭の痛みなど忘れてしまったように驚いている。
「貴様にそんな呼ばれ方された覚えはないぞ。それになんだ、久しぶりに見たかのような表情は?」
匠と鈴木は科研部に入ってまだ3ヶ月程度しか経っていない。当然、そのような呼び方をするのは先の話だ。
「こいつ、授業中に頭打ってから変なんですよ。部室の場所どこだ、なんて聞いてきて」
「そ、そうなのか?匠、そうとは知らずに飛びかかってすまなかったな」
金髪美少女は申し訳なさそうに謝り、匠の頭を撫でる。金髪美少女はそのまま顔を近づけると質問をした。
「匠、私の名前わかるか?」
匠は一瞬黙った後、質問の答えを口ずさんだ。
「近衛千里先輩でしたよね?」
「大丈夫だな」
千里は笑みを浮かべると、科学室の机に飛び乗った。
「貴様ら、我が科研部がどのような状況に置かれているのか忘れたわけではあるまいな?」
科学研究部は廃部の危機に晒されていた。部員は匠たちを入れてたったの5人。目立った功績もなく、生徒会からある条件を出されていた。
その条件とは、人数を増やし部の規模を拡大させるか、なんらかの賞をもらうことだ。
「兎に角だ!我が部に新しい人を呼び込む班と研究結果を残す班に分けたいと思う」
鈴木が手を挙げた。
「近衛先輩、荒川先輩と当麻先輩はどうしたんですか?」
「揚羽と当麻は、委員会の仕事があるらしいから遅れるそうだ」
「わかりました」
「本題だが、入ってくれそうな人を探すのは匠と揚羽でやってもらおうと思う。私と当麻と鈴木は、研究と論文だ。さっそく取り掛かるぞ。匠は校内に残ってる奴らに声を掛けてきてくれ」
「かしこまりました……あっ」
癖というのはなかなか抜けないものだ。
「なんだ、貴様?執事ごっこなら、今度にしてくれ」
「いや、違いますよ。行ってきます」
匠は科学室を出て行った。
音楽室
コンクールに向けた練習が行われている。
「ストップ。篠崎さん、音少しずれてるわよ」
音楽教師が指摘する。
「すみません!」
琴音は謝り、楽譜を確認する。
「また、間違えてるよ。難聴だか知らないけど、吹奏楽には向いてないわね」
心ない言葉がどこかから聞こえる。琴音はヴィオラを担当している。大体の音は聞こえるが、高い音や逆に低すぎる音なんかは聞こえづらいのだ。そのせいで細かい部分でのミスが目立ち、一部の先輩から煙たがられている。
「もう一回。4小節目から」
校内を歩き回る匠を誰かが呼び止めた。
「進藤君」
呼び止めたのは凛だ。
「お前か。質問に答える気になってくれたのか?」
「質問にならいつでも答えるわ。答えられる範囲でね。それよりも、私はあなたに忠告をしにきたのよ」
「なんだよ忠告って?」
「あなたは過去の記憶を持っている。でも、未来を変えることはできないし、してはいけない。あなたの行動で未来が変わることはない。私が言いたいのはそれだけよ」
凛は振り向き去ろうとする。
「待てよ。言いたいことだけ言っておさらばか?お前の忠告を聞いたんだ、質問に答えてくれるよな?」
「いいけど、あなた何かしていたんじゃないの?」
「あー、いいや。確か、誰も見つからなかったんだよな」
結論から言うと、新たに科研部に入部するものはなかった。が、千里たちの努力が実り、なんとか廃部は免れたのだ。凛の言うことが正しければ、匠が探そうと探さまいと部の存続という過去の結果は変わらないだろう。
それよりも匠には訊きたいことがたくさんあった。
「取り敢えず、俺の質問に答えてくれるってことでいいんだよな?」




