千里の過去8
科学室
「くそー、中々面白い考えが思い付かない」
匠は頭を掻きむしりながら苦悶している。椅子に座り、何かの資料を机に広げ睨めっこしていた。
「何のことだ?」
匠かふと顔を上げると、目の前には千里が立っていた。
「ちー先輩!」
匠は驚いた表情を浮かべた。
「なんだ、びっくりするだろう。」
「それはこっちの台詞ですよ。あ、あの…」
匠は少し気まずそうに言う。
「この間はすまなかったな。感情的になってしまった。」
「いえ、俺の方こそ無神経でした…」
「いいんだ。私も残り少ないここでの生活を楽しもうと思ってな。それより、匠は何しているんだ?」
千里は不思議そうに覗き込んだ。
「確か2週間後にコンクールがありましたよね?その準備を」
「何故、貴様がそのことを知っている?日程はまだ言っておらんぞ」
千里の懐疑的な眼差しが匠に突き刺さる。
「あっ!いや、多分そうかなって。ほら、時期的に…ね?」
「怪しいな…お前、この間からずっと変だったが何を隠している?」
「な、何も隠してませんよ。」
匠は千里と目を合わすことができない。
「はぁ、貴様は本当に嘘をつくのが下手くそだな。まぁ、言いたくないことなのだろう、聞かんでおいてやる。」
千里は振り向き、匠に背を向けた。
「すみません。」
「いや、貴様のそういうところ嫌いではない。」
千里は囁くように言った。
「えっ?」
「コンクールはこの学校での最後のイベントだからな、私のためにも頑張ってくれ。私はちょっと職員室に用があるから、また後で戻ってくる」
千里は出て行った。
2時間ほど経ったのだろうか。外は少し朱く染まっていた。5時に鳴る下校のチャイムで匠は我に返った。
「もう、こんな時間か。久しぶりに時間も忘れて何かに集中していたな。」
匠は椅子から立ち上がり背伸びをした。
「そう言えば、ちー先輩遅いな。後で戻ってくるって言っていたのに。」
「私ならここにいるぞ」
声がした方を振り向くと、千里は隣の机に座っていた。
「わっ!いつからそこに!?」
「驚きすぎだ、あほんだら。30分前くらいからずっといたぞ。私に気が付かないくらい集中していたのだろう。何がお前をそこまでさせるんだ?」
「うーん。ちー先輩じゃないですかね?」
「私か?意味がわからないぞ」
「わからなくていいですよ。これは、俺のためでもあるんで」
「わからんやつだ」
そうこうしていると、見回りの先生がやってきた。
「お前ら、そろそろ下校しろよ。鍵も閉めて職員室に返しに来ること。いいな?」
「分かりました。」
「だそうだ。匠帰るぞ。」
「はい。」
1-3教室
「おーおー、匠どったの?急に勉強にでも目覚めたのかい?」
「琴音か。部活動だよ。実は2週間後にコンクールがあるんだ。」
「コンクール?」
「あぁ。『パラレルワールド』について調べてるんだ。」
「難しいことやってるんだね」
「まぁな。でも、俺はこれに賭けてるんだ。」
「何かあったのかい?」
琴音は匠の尋常じゃない決意のようなものを感じ取った。
「ちょっとな。」
「言えない?」
「ごめんな。」
「ううん。いいんだよ。でも、いつだって私は匠の味方だからね」
「ありがとな。何かあったら相談するよ。」
「そうするがよい」
琴音は、少し得意げに言う。
「なーに偉そうに言ってんだ。このぉ」
匠は琴音の顳顬をグリグリとする。
「痛い痛いー。」




