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千里の過去7

その夜、匠の携帯に一本の電話が来た。当麻からである。

「もしもし?どうしたんですか?」

「夜分に悪いな。ちょっと、千里のことで相談があってな。いいか?」

「大丈夫ですよ。」

「そうか。よかった。実はな、荒川とも話したんだが、どうにかしてあいつの転校を見送れないか考えていたんだ。科研全員で千里の家に行ってみないか?」

「直談判でもしに行くんですか?」

「あぁ。何か俺たちにできることはないか聞きに行こう」

「でも、それは家庭の事情じゃ…」

「進藤の言いたいことは分かるが、やってみなければわからない、そうだろう?」

「そんなのちー先輩は望んでいないんじゃ…」

「じゃあ、お前は千里が転校して行くのをただ見ているだけだって言うのか!?お前はたった数ヶ月の関係かもしれない。でも、俺と荒川はずっと一緒だったんだ。相談もなしに、いきなり転校だなんて納得いかないだろうが!」

当麻は柄にもなく、電話越しに強い口調で言う。

「当麻先輩…」

「悪い、俺らしくないな…お前が乗り気じゃないなら鈴木に言うのはやめておくよ。この件は俺と荒川でなんとかする。夜遅くに悪かったな。おやすみ。」電話は一方的に切れた。

「当麻先輩、あなたの気持ち痛いほどわかりますよ。だからこそ、俺は別の方法でちー先輩を止めるんです。あなたの方法では、ちー先輩を怒らせてしまう。結果は変わらないんです。」匠は立ち上がり、窓を開けた。

「りん!いるか?」匠は隣のアパートに呼びかける。

「うるさいわよ。何時だと思っているのかしら?」向かいの窓が開き、凛が顔を出す。凛の部屋には意外にもぬいぐるみやクッションなどが置いてあり、いかにも女の子の部屋のように見えた。

「お前、可愛いとこあるんだな」

「なんのことかし…」凛は自分の部屋が丸見えであることに気が付き、顔を真っ赤にして窓を閉めた。

「あっ…」

すぐに窓が少しだけ開き、凛が怒ったような顔で匠を睨みつける。

「いや、悪かったって」

「何の用かしら。早く要件を言ってくれないかしら。」

「まぁ、そうだな。ちー先輩のことなんだけどさ、なんかいい案ないかなって」

「あなた、あれだけ息巻いていたのに何も考えていなかったの?」凛は呆れた顔をしている。

「いや、その通りなんだけどさ、気持ちが先走っちゃって。」

「あほ。私は知らないわ。近衛千里が転校するのは事実なんだから」

「なー、頼むよ。お前だけが頼りなんだ。俺が先に何が起きるか知っているなんてお前以外は知らないし、信じてもくれないだろ?」

「当たり前じゃない。そもそも、あなたの記憶の世界なんだから、登場人物はあなたの記憶通りの行動をするの。」

「本当にそうかな?」

「どういうこと?」

「いや、だってさ、確かに起きてることは俺の記憶にあることだ。でも、一つ一つの言動とかって明らかに俺の反応によって変わってると思うんだよ。つまり、この世界での先輩であったり、琴音の言動や行動っていうのは俺の言動や行動によって多少の変動があるってことだ。だったら、 それを積み重ねれば結果にも影響を及ぼせるんじゃないか?」

「仮にそうだとしても、あなたにそれができるの?」

「やってやるさ。りんもいるしな!」匠は眼を輝かせている。

「勝手に私を含めないで。私はお母さんがいなくなった真実を知りたいだけなの」

「分かってるよ。俺だって知りたいんだ。俺の前からあいつがいなくなった訳を。でも、目の前の後悔をみすみす放置するわけにはいかない。お前の気が変わってくれることを期待してるよ。また明日な。」匠は窓を閉めた。

「変な人」凛は少し微笑んだ。





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