表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

千里の過去5

『その後のことはよく覚えていない。多分、また泣き疲れて寝てしまったのだろう。私は夢の中で家族3人幸せな生活を送っている夢を見た。そこには、笑顔の両親と屈託無く笑う私もいた。このまま、夢から覚めなければいいとどれだけ願っただろうか。目を覚ましたら、待っているのは私にとって地獄の世界。居場所も何もない。黒く染まった世界。私の心のように…』

「千里ちゃん。千里ちゃん」千里は自分を呼ぶ声に目を覚ました。目の前には、ついこの前家に来た施設の人間である田嶋がいた。

「……」千里は無言で田嶋を睨みつけた。

「千里ちゃん、怖い顔しないで。これから、千里ちゃんは施設に行くことになるけど、すぐに仲良くなれるから。安心して」田嶋は、優しく声を掛けた。

『私は施設の人の話などどうでもよかった。どうせ行くつもりだったからだ。どこにいても同じなら、こんな所から逃げ出したかった。』

千里はベッドから降りると軽く頷き、田嶋について行く。田嶋が母親と挨拶を交わすと、千里に挨拶するように促してきたが、千里は目も合わせなかった。その時、

「ちょっと待って!」血相を変えて現れたのは、千里の母親の姉であり、千里の叔母に当たる菊子であった。

「まさか、こんな話になってるなんて思わなかったわ。どうして、言わなかったの!?」

「どうして、姉さんがここに!?」

「新聞を見て知ったのよ!報道が少し遅れたらしいからすぐには行けなかった。あんた、千里ちゃんをどうするつもりなんだい?」

「見ての通り、施設に預けるのよ。私一人じゃ育てる気力も財力もない。この子を幸せにできないから…」

「甘ったれたこと言ってんじゃないよ!」菊子の堪忍袋の緒が切れた。

「お金がないから幸せにできないんじゃない!あんたがそんなんだから千里ちゃんは、千里ちゃんは…」菊子は泣き崩れた。

「姉さん…」

「あんたには失望したよ。子供のことを第一に考えるのが親だと私は思っていたけどね、もういいわ。千里ちゃんは私が引き取る!施設の人には申し訳ないですけど、この子は私が責任を持って育てます」菊子は真剣な眼差しで田嶋に訴えかける。

「……わかりました。親族の方の意思でしたら話は別です。手続き等がありますので、この後よろしいですか?」田嶋は少し考えた後、了解をした。

「はい。大丈夫です。」

「では、行きましょう」田嶋は菊子と家を出て行こうとする。

「準備があるから千里ちゃんは明日の朝に引き取りに行く。今日は千里ちゃんをここに置いていくから、いいね!?」菊子は振り返り、語気を強めて言った。

「う、うん…」千里の母は勢いに押され、頷く。

『私は明日までの辛抱だと心を決め部屋に籠った。母親とは顔を合わせるのも嫌だった。当時の私は、叔母さんには数回しか会ったことがなかったが、優しくしてもらった覚えがあり、叔母さんが来てくれた時は嬉しかった。でも、その日にあいつが家に来たんだ。』

『私は子供ながら大事にしていた本など、最低限の荷物をリュックに詰めていた。その時、母が何か大声で叫んでいるのが聞こえた。直後に誰かが大きな足音を立てながら二階に上がってきたんだ。私はただならぬ予感を感じ怯えていた』

「このガキ!まだ居やがったのか!」知らない男がいきなり部屋に入ってくるなり、千里を蹴り飛ばした。千里は恐怖で怯え、声も出なかった。

「やめて!この子には手を出さないで!」母親が男を止めに入る。

「うるせぇ!話が違うじゃねーかよ!ガキは今日の朝には施設に入れられるんじゃなかったのか!?」男は激昂し、その顔は鬼のようであった。

「事情が変わったの!明日には居なくなるから、手を出さないで!」

「じゃあ、お前ならいいのかよ!」男は母親の髪を掴み、殴り倒した。

「や、やめ…」声が出ない。今まで体験したことのない恐怖が千里を襲う。

男は千里の母親の顔が腫れるほど殴り続けた後、煙草に火をつけ、勉強用机の椅子に座った。

「あんたなんて生まれてこなければ良かったのよ!」母親は、突き刺さるような鋭い視線を千里に向けた。

『気が付いたら朝だった。気を失ってたのかもしれない。家の中には母もあの男もいなかった。あの男が誰なのか、母とどういう関係なのかもわからない。知りたくもない。私は荷物を背負って一階のリビングで膝を抱えていた。その後、直ぐに菊子叔母さんがやって来て、誰もいないことを伝えると、私をギュッと抱きしめてくれた。昨日は恐ろしくて出なかった涙が一気に溢れ出した。』

「千里ちゃん、どうしたんだい?やっぱり、家を離れるのは寂しいかい?」

千里は菊子の質問に対して、号泣しながら首を横に振った。

「うんうん。いっぱい泣きなさい。大丈夫よ。私がいるからね」菊子は優しい声を掛け、千里を抱き抱えて家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ