教室サウナ事件
教室を出ると、偶然通りかかった教師に呼び止められる。
「お前らもう下校時間だぞ。さっさと帰れ」
「すみません先生。すぐ帰ります」
凛は匠の手を引き、昇降口まで逃げる様に歩く。
「お、おい。ここまでくれば大丈夫だって」
「そうね」
凛は匠の手を離した。
「早く下校しないとまた先生に怒られるわ」
「わかってるよ」
二人は靴を履き替えると正門へ向かった。正門を出ると琴音が待っていた。
「琴音?どうしたんだ?」
琴音はこちらに気がつくと一瞬笑顔を見せたが、すぐに不機嫌そうな顔をする。
「真中さんと帰るの?」
「用があったから話してただけだ。別に一緒に帰るつもりじゃ…」
「私先帰るね。また明日」
琴音はそのまま帰って行く。
「待って、おかあ……いえ、篠崎さん。あなたは勘違いしているわ。本当に用があったから話していただけよ」
「別に匠が誰といようと匠の自由なんじゃない?ただ、私が連絡したのにも気付かないで真中さんと話してたんだから、それほど重要なことだったんでしょ」
「えっ、まじか」
匠はポケットの中から携帯を取り出した。ガラケーだった。匠は心の中で、ガラケーかよ、とツッコミを入れる。懐かしのガラケーの操作方法を思い出しながらメールを確認する。
「本当だ。悪かったよ。気が付かなくて」
「知らない」
琴音はまだ怒っているようだ。
「進藤君、あとは任せるわ」
凛は匠の耳元でそう呟くと帰って行った。
「あっ…」
残された匠は頭を掻きながら考える。
「わかったよ。お前、駅前の売店のシュークリーム好きだっただろ?あれで勘弁してくれ」
琴音は駅前に売っているシュークリームが好きだった。外はサクサク中はとろーり、理想のシュークリームだ。
「2個」
「ん?」
「2個で勘弁してあげる…」
「太るぞ」
「そういうこと言うの!?折角、許してあげようとしたのに!もう、知らないからね」
「冗談だって。わかったわかった。2個な」
「やった」
琴音は嬉しそうにステップを刻む。
「俺、金持ってんのか?あっ、おい、待てよ」
沈みかけの夕日で染まった空は、何の変哲も無い現実そのものだった。
1-3教室
事件は起きた。登校した匠と琴音が教室のドアを開けると、そこはサウナだった。
「あっつ!」
教室の中は外気温と殆ど変わらない、蒸し風呂状態だった。匠は近くで干上がった鈴木に状況を確認する。
「鈴木、なんだここは。いつから教室がサウナになったんだ?」
「さぁな。朝来たらこれだ。周りを見てみろ。みんな干物みたいになってるぜ」
教室にいる者は口々に暑いと言う。教室の温度計は37度を示していた。
「そう言えば、こんな事あったな。エアコンがぶっ壊れてたんだっけ?」
「なーんで、匠がそんなこと知ってるの?」
「あ、いや、そんなところなんだろうなって思っただけだ」
「ふーん」
8時半になり授業が始まる。担当教師はドアを開けるやいなや露骨に嫌な顔をする。
「お前らー、生きてるかー?正直、先生この中で授業するのが本当に嫌なんだが、やめてもいいか?」
「いや、やれよ」
男子生徒がツッコミを入れる。
「じゃあ、斉藤、適当に繋いでおいてくれ。先生は涼しい職員室にいるから」
教師はそう言うと、教材を持って教室を出て行った。
教師が出て行くと途端に生徒たちは下敷きで仰ぎ始める。
「みんなちょっといいか?」
そんな中一人の男子生徒が立ち上がった。学級委員長の米沢だ。成績は上の中。スポーツはそこそこできる。なんとも中途半端なやつだ。しかし、彼が学級委員長に選ばれたのには理由がある。厚い人望だ。結果に結びつかないことが多いが、真面目で誠実な性格がみんなの信用を勝ち取ったのだ。
「委員長なにー?」
クラスの誰かが言う。
「いや、悪いんだがジャンケンに負けてプール掃除がうちのクラスになったから、それだけ伝えようと思って。以上だ」
場が静まり返る。
「…………以上だ、じゃねーよ!何さらっと爆弾投下してんの?てか、いつジャンケンしたの?しかも、負けちゃったんじゃん」
「まぁ、落ち着け斉藤。そんな悪い話でも無いさ。プールは掃除しなきゃならないが、その代わり明日の3限の時間を使っていいそうだ」
「いや、授業が一時間潰れるだけって」
「それがそうでも無いんだよ。思い出してみろ。明日の3限はなんだ?」
「あ?そりゃ……!?」
「そう言うことだ。明日の3限は1年生全員で校庭の草むしりだ。この炎天下の中校庭で草むしりするのと、冷たい水の中でキャッキャウフフするのどちらがいいのか、男子諸君が分からないはずがない!そうだろ!?」
「うおおおおおお」
男子生徒が一斉に立ち上がる。
琴音は苦笑いだ。
「匠は嬉しくないの?」
琴音は隣の匠に話しかける。
「キャッキャウフフがか?」
「匠もスケベなこと考えてたの?」
「な、そうじゃねーよ。バカ」
匠は恥ずかしさを隠す。




