『鬼と氷』 作者:れいさ
商店街。
通行人。
満ちる殺気。
夕暮れ時なこともあり買い出しから帰る主婦、学校から帰宅する学生、会社帰りの大人等々。
その全ての視線が一か所に集まる。
こうも異様な風景が目の前にあってはそうならざるを得ない。
商店街にそびえる巨大な氷壁。
互いに得物を携え睨み合う二人。
そして同じく似た状況になっているであろう氷壁の向こう側。
完全に不意を突かれた。
そう認めざるを得ない。
「そんナにカレシさんがだいじー?それよりサぁ...アタシとあそぼ!!」
そう言い放ち、頭のネジが一本抜けたどころではないような話し方をする氷女が問答無用に切りつけてくる。
相手の得物は双剣。
それもただの双剣ではなく冷気を短剣型に収束した、言わば氷の双剣だ。
「コレ。かっこいいでショ?氷だかラッてかンたんニは壊れなイヨ?」
「ごめんなさい。興味ないわ。それに、どのみち叩き壊す。」
相手は短剣を2本。身軽で読めない動きで翻弄する戦法。
おまけに氷の神憑きとなれば間接的な攻撃手段が無い訳がない。
となればリーチで一方的に攻める。
私は剣を精製する為の詠唱を唄う。
「-汝 暴虐ノ限リヲ尽クス者 ソノ姿ハ正ニ鬼神 禍々シキ御力ヲ我ニ与ヘヨ-」
異空間より一本の剣、もとい刀を取り出す。
「『獄刀 -鬼神-』...塵ひとつ残さない。」
長いリーチと獄炎を纏いし刀身...この刀で捻じ伏せる!
「へェ...アンタの火とアタシの氷、どっちがツヨイかなァ...!」
「その減らず口を二度と聞けないようにしてやるわ...来なさい。」
「じゃ、エンリョなくッ!!」
まずは相手の双剣を前方へ突き出しつつの突進。
一瞬で間合いを詰めて蹴りをつけようってことね。
リーチが長い=懐は弱い、という鉄則通りに間合いが詰められると非常に危険になる。
横薙ぎ一閃、牽制しつつ間合いを取る。
相手も剣撃を交わしつつ徐々に間合いを詰めてくる。
ジリ貧...まででは無いものの、このままではラチが空かないのは事実。
しかし相手も恐らく同じことを考えている。
焦ったら隙を突かれる。
タイミングを見極め一撃で決めるしかない。
「やルナぁ...もうソろソロ疲れテもいいんダヨ?」
「ふん、貴方こそなかなかネズミのように素早く、そして醜いのね!」
強めに刀を振り、一旦退かせる。
...つもりだったが、氷女は氷の柱を地面より出現させ私の刀を上方向へ弾き飛ばす。
「くっ!」
「モぉォラっタァァぁぁ!!」
双剣で直接攻撃してくるのではなく細い氷の針を短剣から飛ばし、確実に攻撃を当ててくる。
弾き飛ばされた刀を無理やり振るが、防ぎきれず右脚のふとももに何本か刺さる。
「うぐっ!!」
激痛と共に冷気が脚を伝わる。
刺さった氷の針から発せられる冷気は一瞬で右脚全体を包み凍らせる。
「はイ!コレでアンタは詰ミ!」
神経が麻痺し不覚にも右脚が地面につく。
「ンじゃ、ゴしューシょーさマァ!!」
双剣を構え、回転斬りで仕留めにくる氷女。
「...ふふっ。」
次の瞬間、氷女の動きはある理由により完全に止まった。
それは彼女自身が動きを止めたのでなく、ましてや見かねた通行人が止めた訳でもない。
私が止めた。
「ナ、なンで...?」
「あら、気づかなかった?この獄刀から発せられていた粉塵に。」
「ふン...じン、ダァ?」
「獄刀 -鬼神-の奥義『鬼神獄炎陣』
刀の軌跡に舞い散る鬼神の獄炎。その獄炎は使い手の殺陣により舞い散り、相手を蝕む。」
「コの、紅い光...コレが...!」
彼女が言い終わる前に鬼神獄炎陣によって彼女の周囲に舞い散っていた獄炎の粉塵は爆破。
「だから言ったでしょう?減らず口を二度と聞けないようにするって。」
氷女の氷の短剣も粉々になり徐々に溶けていく。
「ふん...腕は悪くなかったけれど、相手が悪かったわね。」
右脚に刺さっていた氷の針の冷気が身体中にも伝わり始めたようだ。
顔の血の気が引いていき徐々に思考が止まっていく。
「だって...この、わ、わたし、だもん...。」
目の前を暗闇が襲った。




