第36話 ~夕日~ #3
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親族の面々が部屋から出ていく。
ヒースフレア=バーキンは諸々の書類をまとめると椅子から立ち上がり、
振り向いたところにミサキがいた。
「専属メイドがいる生活を当たり前だと思うお嬢様には、
父親の不器用な愛情なんてわからないわよね」
余裕の笑みを浮かべる女性に、ヒースフレアは応える。
「ミサキ=アイマリース様お久し振りです。
妹の事ですね」
「お父様との会談の際には、顔を合わせた事はあるけれど、
こうして話すのは初めてね」
「ええ」
ヒースフレアは無表情に相槌をうつ。
「立派な跡継ぎにと期待されて、父親の仕事を手伝って、
不自由な青年時代を送った人の心も私には解らないけど」
ヒースフレアが、ミサキの金色の瞳を真っ直ぐ見つめる。
ミサキも相手の赤い瞳を、勝気な瞳で見つめる。
「行方不明をいい事に、妹の後を付け回した男の心もね。
愛情かしらね。
それとも妹を試したのかしらね」
「何のことですか」
2人はお互いの視線を逸らさずに話す。
「お父様を殺した犯人もまだ見つかっていませんね。
私の優秀な部下を貸しましょうか。
彼らならすぐに犯人を見つけるかもしれません」
「………」
ミサキは、ヒースフレアの赤い瞳孔の奥に、
冷酷な青い炎を見た気がした。
「しかし、その優秀な部下の一人を取られました。
その落とし前もきっちりつけないとね」
ミサキの言葉にヒースフレアが笑う。
「私達は商人でしょう。
犯人探しなんて仕事は商人の仕事ではありません。
それと、優秀な部下の引き抜きなんてどこの世界でもある事です」
その笑顔は冷たくて心のないものだった。
「それでは」
視線を逸らし、ミサキの脇を通り過ぎるヒースクリフ。
その背中をミサキは冷たい目で睨みつけた。
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傾いた陽で、黄金色に染まる廊下を走るルコリー。
遠くで何かが破壊される音が聞こえる。
戦いの音が聞こえるのはサユはまだ無事だという証拠だ、と自分に言い聞かせる。
彼女がまだ生きている事を切に願い、ルコリーは走る。
しかし、疲れた足と重い胸がもどかしい。
「なっ!?」
エントランスホールに出た。
2階から見下ろすホールは血の海だった。
黒い背広の男の骸が数体転がっている。
強引に入館したモミジの仕業だ。
そして階下に彼女がまだ潜んでいる可能性を考える。
もしかすると既に背後に。
振り返るルコリー。
生き残った黒服の男が、帰る親族を裏口へ誘導していた。
不平不満を言う親族達の為、誘導は一向に進んでいない。
彼らに紛れて裏口からいけば安全だろう。
しかしいつ外へ出られるかわからない。
かといって目の前の大階段を使って降り、無事に玄関までたどり着けるか保証はない。
もし今この瞬間にサユが斬られたらと思うと、気が気でない。
早く側に行って、あの小憎たらしいバカ丁寧な喋りが聞きたい。
魔法で話して、背中がムズムズしたい。
そうだ、私なら。
ルコリーは横にある扉を急ぎ開けた。
十角形の部屋の、門に一番近い部屋だった。
窓に駆け寄る。
そうだ、私なら。
私の声なら。
絶対届く。
いや届かせて見せる。
私達が勝ったと。
ルコリーは、オレンジに染まる曇りガラスを開けて、
光あふれる外に首を出した。
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全ての騒動が終わった城内、人々の興奮と喧噪と混乱が収まるにはまだ少し時間が必要だろう。
それらを見下ろすように、太陽を背にしてシルエットだけをはっきりと浮き出す10の影が、タウチットの城壁の上に並ぶ。
「楽しい余興だった。
出来た弟子のおかげでガッポリ儲けられたしな」
真ん中の大柄な女が笑う。
「へっ、師匠途中であきらめてたじゃねーか」
「全く、ミサキさんの仕事もあるのにいきなり召集をかけて、いい迷惑です」
「お前はいつもマジメやなあ。
けどサユちゃんまた強くなったなあ」
「半分死にかけじゃなーい。ニャハハハハ!」
「いつも師匠の周りを嗅ぎまわっていたあの男、これで片付いた?
どーなの?」
9人の弟子がそれぞれ思うところを口に出し、会話を始めた。
その中の一人が切り出す。
「それよりモミジの裏切り、どう処断されますか」
大柄な女はマントを広げて歩き出す。
「しばらく捨て置け」
「は?」
弟子の9人が声を揃えて驚きの声を上げる。
「人の恋路を邪魔するのは、一番野暮だ。
しばらく恋に溺れさせるといい。
帰るぞ、いや飲みに行くぞ」
誰もいなくなった城壁の影が伸びていき、城国の街を夜へと誘っていった。
<終>
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本作は「転生犬語 ~杖と剣の物語~」の10年後のお話です。
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にて連載中です。
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