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第36話 ~夕日~ #3

**************


 親族の面々が部屋から出ていく。

 ヒースフレア=バーキンは諸々の書類をまとめると椅子から立ち上がり、

振り向いたところにミサキがいた。


「専属メイドがいる生活を当たり前だと思うお嬢様には、

 父親の不器用な愛情なんてわからないわよね」


 余裕の笑みを浮かべる女性に、ヒースフレアは応える。


「ミサキ=アイマリース様お久し振りです。

 妹の事ですね」

「お父様との会談の際には、顔を合わせた事はあるけれど、

 こうして話すのは初めてね」

「ええ」


 ヒースフレアは無表情に相槌をうつ。


「立派な跡継ぎにと期待されて、父親の仕事を手伝って、

 不自由な青年時代を送った人の心も私には解らないけど」


 ヒースフレアが、ミサキの金色の瞳を真っ直ぐ見つめる。

 ミサキも相手の赤い瞳を、勝気な瞳で見つめる。


「行方不明をいい事に、妹の後を付け回した男の心もね。

 愛情かしらね。

 それとも妹を試したのかしらね」


「何のことですか」


 2人はお互いの視線を逸らさずに話す。


「お父様を殺した犯人もまだ見つかっていませんね。

 私の優秀な部下を貸しましょうか。

 彼らならすぐに犯人を見つけるかもしれません」

「………」


 ミサキは、ヒースフレアの赤い瞳孔の奥に、

冷酷な青い炎を見た気がした。


「しかし、その優秀な部下の一人を取られました。

 その落とし前もきっちりつけないとね」


 ミサキの言葉にヒースフレアが笑う。


「私達は商人でしょう。

 犯人探しなんて仕事は商人の仕事ではありません。

 それと、優秀な部下の引き抜きなんてどこの世界でもある事です」


 その笑顔は冷たくて心のないものだった。


「それでは」


 視線を逸らし、ミサキの脇を通り過ぎるヒースクリフ。

 その背中をミサキは冷たい目で睨みつけた。


**************


 傾いた陽で、黄金色に染まる廊下を走るルコリー。

 遠くで何かが破壊される音が聞こえる。


 戦いの音が聞こえるのはサユはまだ無事だという証拠だ、と自分に言い聞かせる。

 彼女がまだ生きている事を切に願い、ルコリーは走る。

 しかし、疲れた足と重い胸がもどかしい。


「なっ!?」


 エントランスホールに出た。

 2階から見下ろすホールは血の海だった。

 黒い背広の男の骸が数体転がっている。

 強引に入館したモミジの仕業だ。

 そして階下に彼女がまだ潜んでいる可能性を考える。

 もしかすると既に背後に。

 振り返るルコリー。


 生き残った黒服の男が、帰る親族を裏口へ誘導していた。

 不平不満を言う親族達の為、誘導は一向に進んでいない。


 彼らに紛れて裏口からいけば安全だろう。

 しかしいつ外へ出られるかわからない。

 かといって目の前の大階段を使って降り、無事に玄関までたどり着けるか保証はない。


 もし今この瞬間にサユが斬られたらと思うと、気が気でない。

 早く側に行って、あの小憎たらしいバカ丁寧な喋りが聞きたい。

 魔法で話して、背中がムズムズしたい。


 そうだ、私なら。


 ルコリーは横にある扉を急ぎ開けた。

 十角形の部屋の、門に一番近い部屋だった。

 窓に駆け寄る。


 そうだ、私なら。

 私の声なら。

 絶対届く。

 いや届かせて見せる。


 私達が勝ったと。


 ルコリーは、オレンジに染まる曇りガラスを開けて、

 光あふれる外に首を出した。


**************


 全ての騒動が終わった城内、人々の興奮と喧噪と混乱が収まるにはまだ少し時間が必要だろう。

 それらを見下ろすように、太陽を背にしてシルエットだけをはっきりと浮き出す10の影が、タウチットの城壁の上に並ぶ。


「楽しい余興だった。

 出来た弟子のおかげでガッポリ儲けられたしな」


 真ん中の大柄な女が笑う。


「へっ、師匠途中であきらめてたじゃねーか」

「全く、ミサキさんの仕事もあるのにいきなり召集をかけて、いい迷惑です」

「お前はいつもマジメやなあ。

 けどサユちゃんまた強くなったなあ」

「半分死にかけじゃなーい。ニャハハハハ!」

「いつも師匠の周りを嗅ぎまわっていたあの男、これで片付いた?

 どーなの?」


 9人の弟子がそれぞれ思うところを口に出し、会話を始めた。

 その中の一人が切り出す。


「それよりモミジの裏切り、どう処断されますか」


 大柄な女はマントを広げて歩き出す。


「しばらく捨て置け」

「は?」


 弟子の9人が声を揃えて驚きの声を上げる。


「人の恋路を邪魔するのは、一番野暮だ。

 しばらく恋に溺れさせるといい。

 帰るぞ、いや飲みに行くぞ」


 誰もいなくなった城壁の影が伸びていき、城国の街を夜へと誘っていった。


<終>

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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面白かったら星5つ、

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何卒よろしくお願いいたします。

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本作は「転生犬語 ~杖と剣の物語~」の10年後のお話です。

「転生犬語」は

https://ncode.syosetu.com/n8862fx/

にて連載中です。

もし興味がありましたら読んで頂けると幸いです。

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