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竜と傭兵  作者:
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 グオォォォォーー!!!


 僕は走りながらありったけの声を出して吼えた。

 けれど、いつもはすぐ散っていく《鳥トカゲ》は人間に纏わりついて中々離れようとしない。


 崖下を見れば無数の《鳥トカゲ》が雲の切れ間に見え隠れして騒がしく鳴いている。

 どうやら下の森でも騒ぎが起きているようだ。


 駄目だ……興奮しすぎて僕の咆哮では追い払えないんだ!

 そう気づいたけれど、僕の魔力はもう殆ど無いようなものだ。けれど何とかしなければイェシルの仲間が食われてしまう。


 僕はぐちゃぐちゃした思考を振り払うように交戦してる間に割って入った。


 驚愕に見開かれた数人の人間達の目を見てやっぱり皆同じ反応をするのかと少しだけがっかりとする。

 とりあえず人間達に念話を送り、イェシルがいる事を知らせて連れて行って貰わなきゃ。そう思い近づくが、ギラギラと殺気を滾らせて襲いかかってくるばかりで何故か念話が全く通じない。


  『違う!僕は助けに……』


 竜の鱗は硬い。それでも何度も斬りつけられ、次第に鱗が剥がれ傷ができる。

 何やら叫んでいる為、話を理解しようと僕は言語魔法を使った。


  「死ねぇ!! 古の化け物!」

  「殺したら秘石を奪え!」


 イェシルも僕を殺そうとした。

 彼らも同じ目的でここへ来たのだろうか?

 でも血走る狂気じみた目つきに、イェシルとはどこか違う異質さを感じる。


 でも、同じ人間なら皆仲間の筈だ。

 話が通じなくとも、何とかしなくちゃ……!


 しかし、僕を取り囲む一人が手を翳した瞬間、僕の身体が大きな炎で包まれた。


 グオォォッ!!


 あまりの熱さで勝手に喉から声が上がるが、今の僕には防ぐ魔力も残っていない。

 もう身を守るのは黒く硬い鱗だけだ。


 魔法を放った人間は渾身の力で炎を出した為か剣を突き立てて片足を地面につけている。


 その隙を空から淡々と機をうかがっていた《鳥トカゲ》達が人間を狙って一気に滑空してきた。


  『あぶないっ!』


 僕は身を焼く炎を魔力を振り絞って増幅させると人間達の前へと飛びたした。


 ギェッ! ギャ!


 次々に人間に襲いかかった《鳥トカゲ》が炎の中に飛び込み焼かれていくのを視界に入れながら、僕は地面に崩れ落ちる。


 人間達は皆無事なようだ。


 炎で僕を燃やした人間がゆらりと此方に近づいてくる。


  『良かった……無事ッ』


 言葉は最後まで続かなかった。

 焦げて脆い鱗ごと剣で心臓を貫かれる。


  ドスゥゥン!!


  僕の身体が炎を纏ったまま横倒れになった。


  「まったく傭兵を囮にしたのにこの魔獣の数……話が違うぜ」

  「まぁ、竜の秘石は手に入りそうだ。このまま燃え尽きたらくり出せよ」


 何の話をしてるんだろう……?

 でも、守れて良かった……イェシルもこれで帰れる。


  「へぇ……そういう事か」

  「何者だ!?」


 イェシルの声……?


 でももう僕は目を開ける力さえ残ってないみたい。


  「お前……我らが祭司様と国にお仕えする“聖なる僕”と知っての無礼か? その剣を下ろ」

  「死ね」

  「ひっ! ぎゃあぁぁ!!!」



 人間の悲鳴だ。何が起こってるんだろう。

  でも、どんどん声が遠ざかってーー。





  「……。 ……!」


 すぐ近くでイェシルの声を聞いた気がした。


 台地に雲がかかったのか、通り雨が身体を冷やしていく。

 それとともにブスブスと自分の肉の焦げる音と匂いがする。


 無になりかけていた僕の五感がじわじわと戻ってくる。


 何かが口に挟まってる?


 僕がゆっくりと目を開けると、あり得ない光景に戦慄が走った。


  『 イェシル!? な、何……してるの!』


 イェシルは在ろう事か鋭い牙の並ぶ僕の口に腕を突っ込んでいたのだ。しかも閉じている口に無理やりにだ。


 僅かに喉へと流れ込むイェシルの血に慌てて口を開こうとしたが、力がうまく入らずピクリとも動かない。


  「勝手に助けて勝手に死ぬんじゃねぇ!」


 イェシルが苦痛の為か歪んだ顔で叫んだ。


  「お前が行った後、俺の中で訳わかんねぇ魔力が溢れて、身体が言うことをきかなかった。でも、これで……貸借り、無し、だ」


 言うが早いかイェシルは僕の口に入れた腕を捻り、痛みに顔を更に歪めた。


  『イェシル?! やめて! そんな事……』


 まさか、できる筈が無い。

 黒竜の秘術は人間の持たない四大性質の魔力ありきなのだから。


 それなのに、なんでイェシルから流れてくる血に、黒竜の魔力を感じるのだろうか。


 凝縮された魔力は血とともに更に身体の奥深くに流れ込んでいく。炎に焼かれた時よりも高温の中にいるような熱さを感じ、僕はのたうちまわった。


 グォォォオオオーーーー!!!


 天をつん裂くような咆哮とともに、身体から不思議な魔力が溢れ出す。


  「ぐあぁぁぁぁ!!!」


 イェシルが叫びをあげ、腕を引き抜いた瞬間、目の前が弾け金色の光に包まれた。


 みるみるうちに身体を覆う黒い焦げが消し飛んで、下からは輝く金色の鱗が顔を出す。


  気づけば僕の身体は小さくひ弱な黒竜ではなく、金色に輝く大きな竜になっていた。

  見窄らしかった尻尾も長く伸びて、どこから見ても立派な、立派すぎる竜だ。



  『なんだこれ』


 内側からイェシルの声?

 そうだ。イェシルは!?


  『俺……お前の中にいるのか?』

  『僕イェシルたべちゃったの?!』


 さぁぁぁ!っと血の気が引く。

 だってさっきまで僕、腕を咥えてたよね?


  『ちげーよ! 食われてはいない……筈だ。でも、よくわかんねぇ。とりあえず、秘術は成功したのか?』


 僕の中のイェシルの問いかけで、ハッとする。

 僕……そういえば生きてる?

 いや、でもこれはどういう事なんだろう。


 しかも内側にはイェシルがいて、一つの身体に二人が同居してるような感じだ。

 いや、合体といった方がいいのかも。魔力はイェシルと一体化しているようだ。


  『気色悪い。何が合体だ』


 あれ、思考もダダ漏れ?

 気色悪いって…………くすん。


  『おい。前見ろ』


 イェシルの声に真剣さが伴う。

 気がつけば、周りには夥しい数の《鳥トカゲ》が空を埋め尽くしていた。


  『やっぱりおかしい《鳥トカゲ》が逃げないなんて』

  『あ?』

  『小さな僕ならまだしも、いくら興奮してるからってこんな大きな竜を見たら普通は逃げ出すよ』


 話をしている間にもわらわらと集まってくる。


  『とりあえず、こいつらどうにかするぞ。早く飛べ』


 と、飛ぶ??

 僕が?


  『今なら飛べんだろ!』


 思考を読んだイェシルが苛々しつつ僕を叱咤する。


 ごくりと唾を飲んでから深呼吸し、僕は思い切り地面を蹴った。


 不安は最初だけだった。

 空高く駆け上れば、まるで昔から飛べていたかのように自然と翼が動き、長く立派な尻尾でうまくバランスをとった。


  『飛べた!! イェシル! 僕飛んでる!』


 空の上がこんなに気持ちいいなんて知らなかった。


  『浮かれんな。そう簡単には抜けらんねぇぞ!』


 不機嫌そうにイェシルが言うと眼下に広がる森からも無数の鈍色が僕達を目指し飛んできた。

 四方八方、まるで蟻の大群が押し寄せてくるように空が翳る。


  『近づいた所を一気に叩く』

  『うん』


 興奮した《鳥トカゲ》達が目前に迫った時、一体化した魔力が更に高まり、ものすごい速さで魔素が周囲に集まっていく。

 

 僕の周りに無数の小さな光球が浮かび、それが一気に光る線の如く《鳥トカゲ》達へ向かって伸びる。

 それがあたった瞬間に爆発が起こり、僕の周囲は激しい光に包まれ、轟音と爆風が巻き起こった。


  『なんだこれ?』

  『今のは四大性質を全部使った超魔法だよ』

  『竜ってのは何でもアリだな』

  『今の、イェシルも協力してくれてたでしょ? 魔力が高まった気がしたけど』

  『俺はただ倒してぇと思っただけだぞ?』


 イェシルと思念で会話をしていると、耳をつん裂く轟音と爆風が止み、眩い光が消え始める。


 ややあって、煙る視界が薄まると、空を埋め尽くしていた《鳥トカゲ》達は全て消え去り、代わりにキラキラと光の粒が降り注ぐ。


  『何だ?』

  『これは《鳥トカゲ》の核。魔石の欠片だよ』

  『魔石? これが?』

  『そう。知ってるの? 僕等が魔獣を食べるのはこの魔石の為なんだ』


 あたり一面の煌めく粒は全て魔石の砕けた欠片達だ。

 それを浴びながら僕は翼をはためかせ飛んでいく。


  『知ってるも何も、これ集めんのが仕事だからな。でも、俺が見るやつはこんな綺麗なもんじゃねぇ。腐った血みたいにドス黒いやつだ』

  『それは浄化されてないからだよ。魔石は竜の体内か竜の魔法でしか浄化出来ないんだ。淀んだ魔素の塊が魔石で、それを浄化して大地へ返すのが竜の役目。竜なら生まれた時から知っている事さ。それにしても……僕のごはん粉々。久しぶりにお腹一杯になると思ったんだけど、やり過ぎちゃったみたい』


 いつの間にか随分と傾いた太陽が目の前に迫り、眩しさに僕は目を細めた。

 光を反射して金色の鱗の輝きが一層増していく。


 後ろを振り向けば、生まれ育った【マロイ】の地が緩やかに遠ざかっていく。


  『イェシルは、これからどこに行くの?』

  『とりあえずこのまま西に飛べよ。生きてれば奴らも街に戻ってくるかもしれねぇ』

  『奴ら?』

  『あぁ。一緒に来てたけど、魔獣にやられて逸れた奴らだ』


 ふと、あの血走った目の人間達を思い出した。僕はイェシルの仲間のあの人間達を結局守りきる事は出来なかったのだろう。


  『ちッ! あんな奴らが仲間な訳ねーだろ。あのクソ野郎共は俺達を嵌めた・・だ!』


 また僕の思考を読んだらしく、イェシルは不愉快極まりないというように吐き捨てた。


  『敵? 同じ人間同士なのに?』

  『あぁ、俺が殺した』


 

  殺した? イェシルが?

 

 僕にはわからない。

 竜はどの種も仲間だし、基本的に竜同士で争ったりはしない。

 争うのは長を決める時と雌をめぐる闘いくらいだ。でもそれは古く続く仕来りだからで、そこに敵という認識や憎しみのような感情は無い。


  『人間ってのは、自分の欲の為なら他者を簡単に嬲り殺す。知恵だけは一人前の強欲で汚れた醜い生き物なんだよ』


 俺も含めてな。

 そう聞こえた気がした。


  僕は白竜の話で、人間に憧れ会うことを夢見た。

 人間達は同族もそれ以外も愛し慈しむ心を持ち、一生同じ番と過ごす愛情深い生き物である。血のみならず心で繋がる者をとても大事にするのだとも言っていた。

  人間は竜の事を恐れていると白竜は言ったが、心の何処かで人間なら僕を受け入れてくれるのではと期待した。


 あの人間達は、僕を恐れてたし殺そうともした。たしかにイェシルも最初は僕を殺すつもりだったろう。

  でも、イェシルは殺さなかった。その上、こんな僕と話をしてくれたし、命まで助けたじゃないか。


 やっぱり、どうしても僕には人間が汚れて醜いとは思えなかった。


 イェシルが僕の思考を読んでいたかはかわからないけど、それ以降何か言ってくる事は無かった。


 暫く無言が続き、僕は風を切り飛び続けた。


  ふいに、ドクンとひとつ心臓が大きく鳴った気がした。


  『え?』


 その瞬間全身が硬直して羽ばたく事も、息すら吸えなくなる。


  『おいっ!何だ!?』


 急に身体が動かなくなり、僕は空から真っ逆さまに落ちていく。


 ザァァァッ!


 イェシルの声に応える間もなく、僕の身体はまるで砂のように崩れていく。


  『《尾切れの黒》!!』


  視界が金色に染まった時、古の言葉で名を呼ばれた気がした。





  ーーーーけれど、僕の意識はそこでプツリと途切れた。





 ✳︎✳︎





 暖かい……。



 暖かくて、凄く心地いい。

 陽だまりの中にいるみたいだ。


 でも、僕の身体はさっき全部崩れてしまった筈。僕は死んでしまったのだろうか?


 イェシルはどうなったんだろう。

 イェシルも死んでしまったのだろうか?


 すごく心配だけど、僕にはそれを知る術はない。


 次に生まれ変われるなら人間がいい。

 人間と話せる声と触れることのできる柔らかい手が欲しい。

 そして出来たら……もう、孤独にはなりたく無い。




 トクン……トクン……



 心臓の、音?


 そう思った瞬間、何かに力強く引き上げられるように一気に覚醒した。


 最初に目に入ったのは広大な草原に沈もうとしている真っ赤な夕陽だった。

 その次に規則正しい心音が耳をうつ。


 そこで漸く僕はイェシルの胸の上に頭を乗せていたらしい事に気づき、慌てて身を起こそうとした。


 気を失い寝ているイェシルの顔が視界に入ると同時にとてつもない違和感があった。


 イェシルの金剛石の髪が真っ黒だ。

 いや、それもあるけどイェシルはこんなに大きかっただろうか?

 イェシルだけじゃない、目に入るもの全て、こんな大きさだった?


  「ぅ……」


 ふいにイェシルがゆるりと目を開けた。


 瞳の色は前と同じく新鮮な若葉のような緑で僕は僅かにホッとする。

 でもイェシルは僕と目が合った瞬間、酷く驚いたような顔をした。


  「イェシル? 怪我はしてない? 髪の色は……」


 どうしたの?という言葉は続かなかった。

 明らかに自分の喉から出た人間の言葉と声。


 そういえばイェシルは古の言葉で僕の名を呼んでたような。

  もしかして一体となった事で僕も人間の言葉を話せるようになった?

  あれ、何故竜なのに話せるんだろうか?


 戸惑いつつ、喉に手を当てればその感触にまた驚愕した。


 暖かく柔らかい。

 鱗が、無い?


 イェシルの上から退いて穴が空くほど震える両手を見つめる。

 そこには生白い細い五本指に小さな爪がついている。

 それからゆっくり視線を落とせば以前のイェシルよりも明るい金の長い毛が垂れ落ち、白い腹には小さな穴が空いている。その先には二本のひょろと伸びた棒切れのような足が生えている。


  イェシルよりも随分小さく細いが、形は紛れも無い。


  「に……んげん?」


 そういえば、僕は死んだんじゃなかったっけ?

 ぼんやりとだが、死に際に生まれ変わったら人間になりたいとか考えていたような気もする。


 あれ?

 じゃあやっぱり死んだのかな?

 それとも夢を見てるんだろうか。


 僕は折れそうな細腕を伸ばして、ぺたりと白い手をイェシルの頬にくっつけた。


 ほんのりとした暖かさの柔そうな肌は想像よりも少しだけ固い。


  「お前、《尾切れの黒》か?」

  「そう、なのかな?」


 イェシルは僕の顔から少しだけ目線を下げて眉を顰める。


  「雌だったのか」

  「僕、言わなかった?」

  「言ってねぇ」


 イェシルは、何とも言えないおかしな顔をしている。


  「ねぇ」

  「あ?」

  「これって夢、かな?」

  「さぁな。夢ならそのうち醒めんだろ」


 そう言いながらイェシルも僕の頬にそっと手を伸ばし触れる。


 その手はひやりと冷たくて硬い。


 離れていく手を目で追えば、驚きに息が止まった。


  イェシルの破れた服の合間から見える腕から先には黒い鱗がびっしりと生え、形は人間のそれではあるが、五本指の先には鋭い爪が伸びている。

 黒光りする様はまるで、黒竜の腕のようだった。


  「イェシル、腕」

  「夢……じゃねぇな。ついでに、人間でもねぇ。俺も、お前もな」


 イェシルが僕の額をカツンとついた。

 そこに触れれば紛れもなくつるりとした石のような感触がある。

 ついでに尾尻を引っ張られ、「にゃっ!」とおかしな声が出た。


  「人間は額に石なんか埋まってねーし、ましてや尻尾もねぇ。腕に鱗も生えねぇし、こんな力が使える訳がねぇ……」


 イェシルが徐に練り上げ、掌に集めた光球。それは人に有るまじき四大性質を合わせた黒竜の魔法だ。

 それを掻き消してから、イェシルは変わってしまった己の手を見つめていた。


  「僕のせいだ。僕が軽々しく秘術なんて教えなければよかった」


  異形の腕、竜の魔力。人間では無い生き物に僕がイェシルを変えてしまった。

  僕は人間のようになれて戸惑いはあるが、正直嬉しい。

  けど、イェシルはこんな姿望んでなかっただろう。それを思うと罪悪感に潰れそうになる。


  「腕一本なんて安いもんだ……この力があればな」


 しかし僕の心配をよそに、竜の腕を摩るイェシルの目には見た事の無い仄暗い光が宿っていた。


 ぞくり、と訳のわからない寒気に背筋が震えた。



  「シュナ」


 腕から視線を上げ、沈む太陽を眩しげに見つめたイェシルが徐に呟いた。


  「え?」

  「人間の名がいるだろ」

  「僕の……名前?」


 ポカンと馬鹿みたく口が開いてしまった。


  「嫌なら自分で考えろよ。とにかく、人間の言葉じゃねーと呼び辛いんだよ」


 まさか、イェシルが名前をくれるなんて……。


  「シュナ……えへへ。シュナか」


イェシルがくれた名前が嬉しくないわけが無い。僕の不安は忽ち霧散してしまった。


 何だかとてつもない事が起こってしまったけど、僕には今、隣で名を呼んでくれる人がいるんだ。

 もう、あの台地に一匹きりの孤独な竜じゃ無い。


  「何だよ」


 にへらと顔を緩め僕はイェシルを覗き込む。

 案の定、眉間に皺を寄せ凄むような目で睨まれた。


  「僕はシュナ。えっと……イェシル、これからもよろしくね!」

  「まぁ……素っ裸じゃアレだからな。街に着くまでは面倒みてやるよ」


 地平線の彼方に太陽が沈んで辺りを薄い闇が覆う瞬間を何となしに二人で見つめる。


 これから待ち受ける僕達の困難はまだまだ、始まったばかりだった。




 竜に名を贈る事がどうゆう事か……きっとイェシルは知らないのだろうけど、それは僕だけの宝物ひみつにしておく事にしよう。









 おしまい

読んでくださりありがとうございました!

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