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ページの切れ端  作者: 歌瑞
撃ち抜いたのは
13/13

【congratulations】

【congratulations】初出20121003


おめでとう!



「ルダーさん!」


 人ごみのなか、待ち合わせ場所に佇む長身を見つけて、わたしは彼のところへ駆け寄った。


 彼に知って欲しいことがある。そうして、一緒に喜んで欲しいことがある。

 逢えたらいちばんに告げたかった。


 こちらが抱く願いのとおりに、彼は喜んでくれるだろうか。


 ほんの少しの不安とたくさんの期待とをないまぜにして、テンションの高くなったわたしを、ルダーさんはちょっと訝しげな顔で迎えた。


「ルダーさん、あのね…     」


 どきどきしながらくちびるにのせた言葉に、彼はミント色の瞳を見開いて驚いた様子をみせる。

 それからすぐに破顔すると、さっと腕が伸びてきて大きな手がわたしの両脇をすくい上げ、ぐんと高く持ち上げた。



 ───congratulations!



 回転まで加えられて、ぐるぐる視界がまわる。眼下にはわたしを見上げる人々の顔が横へ横へと流れてまたあらわれて、その視線が突き刺さってくるようだった。

「る、ルダーさん降ろしてっ」

 まわりに人が、人がたくさん、何事だろうって表情でこっちを見てるううう!!


 ばたばた抵抗するわたしを軽々と掲げたままの彼は、周囲の視線なんかまったく気にしなかった。

 唯一気にしてくれたのは暴れるわたしのことだけで、両脚をぎゅっと抱くように拘束される。

 支えを上半身から下半身へと急に変えられて、わたしは慌ててルダーさんの両肩に手をついてバランスをとった。


 いえあの、降ろして欲しいんだけれどもっ!


 こんなに高く持ち上げられたままじゃいつまでも注目を浴びてしまう。

 そのことにうろたえて視線を泳がせるわたしの、腰骨のあたりに何かが触れた。ちいさなリップ音を伴って。


 はっとして見下ろせば、そこからくちびるを離してゆっくりこちらを見上げるルダーさんの瞳とかち合った。

 爽やかなミントの葉っぱ色した瞳が、とろりとした水飴でコーティングされてるみたいに、まろやかな光をたたえてわたしを見つめている。


 今、何をされたのか───考える前に、かん高い口笛の音が響いた。

 通りすがりの、赤の他人であるはずの人たちが、歓声をあげて囃したてはじめる。

 なぜか拍手まで送られてしまって、頬がぐんぐん熱を持って火照っていくのが自分でもわかった。


「な、ちょ……、る、ルダーさああぁん!」


 抗議の意味を込めて広い肩をばしばし叩けば、彼はまた綺麗な顔を綻ばせた。


 ───ほんとにもう、この人は!

 何もかもわかっててそういうことするんだから───!



 周りの人たちが寄せる関心に、厭味なものは何もない。

 茶化しながらも、そこにあるのは『何だかわからないけどイチャついてるカップルに幸あれ』という祝福だ。


 喜んで欲しかった。一緒に。

 いつのまにやら周囲まで巻き込んで、こんなことになるとは予想もしていなかったけれども。

 向けられる暖かい気持ちにちょっぴり泣きそうになってしまったのはたぶんルダーさんのせいなので、あとで絶対仕返ししてやろう、と心に決めた。







受験受かったかた、内定決まったかた、そのほか嬉しいことがあったかたに贈りたい『おめでとう』と

某所でつぶやいた『高い高いされるミハル』と

診断メーカーで出た『腰にキス』をまとめてつっこんでみました(´∀`)

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