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チートな俺っ子カメラ係、ダンジョンで拾った亜人少女にめちゃくちゃ懐かれる  作者: モコナッツ


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この手を、君に差し出したい

 時間にすると、ほんの数分だったと思う。

 けれど少女の手を握ったまま呼吸を整えていたその時間は、ずいぶん長く感じた。


 目を開けて、少女の方を見る。


「あぅ」

「うん……もう大丈夫。ありがとう」


 握られた手を離すのになんとなく迷いがあったが、もう片方の手で頭を撫でる。

 少女はびくりと肩を揺らしたが、すぐに力を抜いて、くすぐったそうに目を細めた。


 洞窟には、先ほどの戦いが嘘のように静寂が広がっている。


 オークの死体はすでに消え、ダンジョンの魔素として還元されていた。

 正直助かる。今はこれ以上、考えたくなかった。


「悪いな彼方。嫌な思いさせちまって」


 宗平が少女の隣に座る。大方、俺の邪魔にならないように近くで見守ってくれていたんだろう。


「ううん、宗平たちのせいじゃないから。むしろ俺の方が二人に迷惑掛けちゃってゴメン。はあ……絵里のメンタル、見習いたいな」


 親指で向こうにいる絵里を指す。

 カメラの前でドロップアイテムを自慢している絵里を見ながら、宗平は苦笑した。


「多分、二宮は彼方の弱ってる所を配信で見せたく無いんだと思う」

「そうなの? 別に気にする事ないのに」

「お前は気にしなさすぎ」

「そっすか」

「そうだよ。彼方はもうちょっと、自分に目を向けた方が良いと思うけどな」

「何それ」


 少女の頭を撫でながら、俺は苦笑した。宗平も絵里も、俺に対して少々過保護が過ぎる。


 二人がBランクで俺だけDランクなのはおかしいとか、このパーティの真のエースは俺だとか、煽てるのも程々にしろっての。

 さっきだって二人が注意を引いてくれたから、勝てる盤面を作れただけだ。


「そんな事よりこの子どうする? まさかこのままここに放置して帰る気じゃないよね」

「とりあえず連れて帰ったら良くない? な、たぬ子も俺たちと一緒に帰りたいよな?」

「あぅ?」


 少女が首を傾げる。


「勝手に名付けんなし……。後、そろそろ配信止めない? 冷静に考えたら、これって結構センシティブ案件だろ」

「ふむ……それもそうか。じゃ、二宮にも話して一旦締めてくるわ。彼方はたぬ子を頼む。勝手に動くなよ」


 もしかして、このままたぬ子でゴリ押そうとしてるのか?


「?」

「あぁうん、心配しなくていいから大丈夫だよ」


 怪訝な瞳で見つめる少女のケモ耳を触ると、首を低くして気持ちよさそうに目を閉じた。


 それにしても……帰りたい、か。

 この子に帰る場所はあるのだろうか。


 そもそも何者で、どうしてこんなダンジョンの奥に一人でいたのか。両親はいるのか。俺たちの言葉をどこまで理解しているのか。

 考えようとすれば、いくらでも考えられた。

 でも、一つだけ確かなことがある。


 ここで考えていても、答えは出ないって事だ。


 程なくして、宗平たちが戻ってきた。


「お待たせ、配信切ってきたぞ」

「早かったじゃん。自分で言っておいてなんだけど、あんだけ同接いてよく荒れなかったね」


 宗平が渋い顔をする。どうやら完全に何事もなく済んだわけではないらしい。


「そのことなんだけど……一応、彼方の体調不良って事にしておいた。体調悪そうにしてたのは本当だしな」

「そうなんだ。全然良いよ、気にしないで」


 本心からそう言ったのだが、絵里は頬を膨らませる。


「良くないよ! 彼方が倒したのにさ、攻撃が見えないせいでいっつも私の手柄にされるんだから! ……まぁ、本人の希望だから甘んじて賞賛は受け取るけど」


 言いたい事は分かる。

 ただ、褒められるのは満更でもなさそうだ。


「ごめんって。お詫びにオークのドロップは二人で分けていいからさ。そんな事より、この子の事なんだけど……」


 自然と三人の視線が少女へ向いた。

 少女はびくりと耳を震わせたが、逃げようとはしない。

 俺の服の端を掴んだまま、宗平と絵里の顔を交互に見上げている。


 先ほどよりはかなり落ち着いているようだった。

 大豚の脅威が去ったからか。それとも、俺たちに危害を加えるつもりがないと分かったからか。


「確認。外に連れて帰る、って事でいいよな?」

「当たり前だ」

「賛成ー」


 返事は早かった。

 三人とも分かっていた。

 ここに放置してこの子が生き残る、そんな可能性はゼロに等しいと。


「よし、じゃあ次。この子を連れ帰った後はどうする?」


 ピタリ、と意見が止む。


 洞窟の中に、妙な沈黙が落ちた。

 遠くで水滴の音だけが聞こえる。


 そう。

 問題はここからだ。


 外に出した後どうするのか。

 その扱い次第で、きっとこの子の未来は大きく変わる。

 俺たちはみんな、それを分かっていた。


「やっぱり……警察に保護してもらうのが一番現実的じゃないか?」


 最初に口火を切ったのは宗平だった。

 いかにも彼らしい、まともな意見だ。


「でも、こんな所に一人でいたんだ。家族がいるか分からないし、そもそも人間扱いされるかだって分かったもんじゃないだろ」


 そう言って少女の頭に手を置くと、彼女は安心したように少しだけ俺に体を寄せた。


 このもふもふの耳と、多分尻尾も本物だろう。

 言葉も通じるか怪しいのに、警察が普通の人間として扱ってくれるかなんて、信用できない。


「じゃあギルドに相談してみる? ほら、新種のモンスターとか素材とかもギルドに提出すれば調べてくれるじゃん」


 今度は絵里が言う。探索者としては自然な発想だ。ダンジョンで見つけた未知の存在。ことダンジョンの迷子に関しては警察よりギルドの方が詳しい、というのは間違いない。


「でもその結果、モンスターって事になったらどうなる? 解剖されたり、よくて実験施設送り……とかになったら? そんなの絶対嫌」


 絵里はその言葉を聞いて、ハッとしたように顔を顰めた。嫌な想像をさせてしまったのかもしれない。


「じゃあ、彼方はどうしたら良いと思うの?」


 二人が俺を見た。


 俺だって正解なんか分からない。

 だからこういう時はいつも、自分の心が向く方を選ぶのだ。


「俺の家で一緒に暮らす」

「それ、一番良いじゃん!」


 絵里は一瞬で乗った。俺は絵里のそういう所が好きだ。

 一方で、宗平は渋い顔をしている。


「一番良い……のかなぁ。なんか色々まずい気がするけど」

「勿論、この子の本当の家族が見つかったり、もっと良い方法があれば話は別だよ。でも今の所、警察やギルドよりはよっぽど良いと思わない?」

「うーん……」


 少なくとも俺の目の届く場所にいる限りは、この子がこれ以上危険な目にあったり、お腹をすかせる事はない。


「じゃあ二対一で決まり!」

「大丈夫なのかこれ? 事案にならないよな……」


 ぶつぶつ呟いている宗平を無視して、俺は少女をできるだけ怖がらせないように、目線を少し下げた。


「そういう事だから。君もそれで良いよね?」

「あぅ?」

「……まぁ確かに、たぬ子の幸せを思えばその方が良いかもな」

「ちょろい……」


 でもなんだかんだ言っても、少し嬉しそうだ。もしかしたらこの決定に一番安心しているのは宗平なのかもしれない。


「でもさー。この子狸っていうよりはモルモットっぽくない? ほら、仕草とか動きがさあ。おー、よしよーし」


 絵里がしゃがみ込んで、少女の前で手をひらひらさせる。

 少女は一瞬だけ身を引いたが、絵里が無理に触れようとしないと分かると、じっとその手を見つめた。


「モルモット?」

「うん。昔飼ってたんだー。なんかこのビクビクしてるけど懐っこい感じとか、可愛くてさあ」


 そう言って絵里が懐かしそうに目を細めた。

 その顔はいつも配信中に見せる笑顔とは少し違っていた。


 モルモット。


 言われてみれば、確かにそんな感じがする。大きな音にびくびくして、怖がりだけど妙な人懐っこさもある。

 宗平には悪いけど、たぬ子よりずっとしっくり来た。


 自分の話をされていることは分かるのかもしれない。少女の丸い耳がぴくりと動く。


 どこかでこの子には家族がいて、そこで両親からつけてもらった、本当の名前があるのかもしれない。


 でも、今は俺たちがこの子を呼ぶための名前がいる。

 おはようとおやすみを言うための名前。

 おかえりとただいまを言うための名前。


 今は俺が、君の居場所になれたらいいと思う。


「……決めた。じゃあ、君の名前は今からモルルだ」

「あう??」


 少女——モルルは、きょとんとした顔で首を傾げた。

 自分の名前だとは分かっていないのかもしれない。でも響きは気に入ったのか、耳だけが小さく揺れた。


「え、たぬ子は?」

「女子にそんな名前付けるとか、サイテー」

「ひでえ」

「まぁまぁ。モルルの方が可愛いじゃん。後、戸籍とか取った時にギリ人間の名前でも行けそうでしょ」

「キラキラネームだろそれ」


 宗平が不満そうに言って肩をすくめる。

 それを見て、絵里と俺は顔を見合わせて笑った。


 モルルは俺たちのやり取りを不思議そうに見ていた。

 でも、気のせいだろうか。さっきまでより少し表情が柔らかくみえた。


 うん。


 帰ろうモルル。

 俺たちの家に。



いつもお読みいただきありがとうございます。


少しでも刺さるものがあれば幸いです。


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