EP6 地獄
「貴様如きが本当に適合者なのか、我が判別してやる。死んでも恨むのはよせ」
「…わかりましたー」
宵の威圧を柳に風と受け流す零。その態度が、火に油を注いだ。
「気に食わない。お前には……特別に厳しいのをくれてやろう」
宵が不気味に口角を吊り上げ、零の胸元に掌を当てる。
「あ?……ん……ッ!?」
瞬間、視界が消えた。心臓を直接万力で締め上げられるような激痛。肺から酸素が奪われ、生暖かかった室内が瞬時に極寒の地へと変貌する。
「んぁ……ぐ、あぁっ……!」
膝から崩れ落ちる零を、宵はゴミを見るような冷徹な眼差しで見下ろした。
「適合者は体内に霊の因子を宿す。我が送る波動に適合者は耐えられるが、適合者ではない人間は【死】を待つのみだ。さあ、貴様にあるかな?」
宵の手から、家鳴りを引き起こすほどの波動が叩き込まれる。
死の淵。霧がかった視界の奥で、零は必死に宵を睨みつけた。
(……ふざけんな、こんなところで……ッ!)
脳内で、何かが「プツリ」と弾けた。
直後、肺に冷たい空気が流れ込む。五感を麻痺させていた重圧が、嘘のように霧散した。
「……ん。なんだ、急に楽になったな」
膝の泥を払い、けろりとした顔で立ち上がる零。
その異常な光景に、今度は宵が絶句する番だった。
(この強さの波動を送れば適合者であっても無事ではいられぬ…だが…)
この少年は立っていた。更に、負けん気と宵を睨みつけている。
「テストはこれで終わりか?大したことなか…」
「口を開くな」
宵は風の速さで取り出した剣の先を零に向ける。
「ぬぁっ!何すんだてめ…!!」
「適合者だとしても霊と契約できぬのなら意味はない。さあ来い。ここからが本番だ」
宵は剣先を床に立てて、契約霊を呼び出す。
「神霊【テュポーン】我とこの未熟者を地獄に送れ」
「はぁ!?地獄何言…」
刹那、零の足元の影が、底なしの沼のように深く、暗く広がった。
迎えるのは先程までの生暖かい空間とは大違いの極寒の空間だった。
「地獄がどーのこーのってここが本当に地獄なのか…?」
独り言をボソボソ呟く零の前に巨体が現れた。
「うぉ…なんじゃこれぇ!!」
宵は一歩、二歩と後退りする零を軽蔑するような視線を送った。その傍らで、宵は拳を震わせ、苦々しい表情でその「巨大な存在」を見上げていた。
「なぜだ……。なぜ貴様ほどの霊が、この未熟者のために現れる。私の呼びかけにさえ、一度も応えなかったというのに!」
宵の声音には、隠しきれない焦燥と嫉妬が混じっていた。
そんな宵の様子を気にも留めず、零は恐る恐るその巨体へ歩み寄る。
「お前そんな強い霊なのか?」
「――ズズ、ズズズ……」
巨体は言葉を返さない。ただ、地響きのような唸り声が、零の魂を直接揺さぶったのであった。




