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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第25話:魔王討伐2ー③/人殺しの罪


「それかお兄さん……私たちの仲間になりませんか?」


 両手を後ろで組んで、前のめりになりながら撫で声で言っきた。

 周りを囲む勇者たちは、くすくすと笑い声をあげている。


 どうやら彼らは言葉遊びがお得意なようだ。


「さっきの投擲凄かったですねぇ! あれはなんというスキルですか? 中距離系はうちにも少ないので、ぜひ仲間になりましょうよ! 正確には拠点は別なので同盟ですね! どうですか?」


 気味の悪い笑みを浮かべながら、彼女は手を差し出してきた。


「私たちは殺した相手からスキルを得る方法を知っているんです! そうやって私たちは強くなり、ここまで生きてきました。魔王討伐1もおかげで難なくクリアできました。これも全部佐々原さんのおかげ――」


 言葉を遮るように文楽は背中を向けていた。そのまま公園から出ようと歩き始める。

 そんな文楽を静止するために、体格のいい若い男性が目の前に立ちはだかった。


「住吉さんが話ている最中でしょうよ。ちゃんと聞きましょ? ね?」


 不敵な笑みを浮かべながら、その男は槍の切っ先を文楽の喉元に向けてきた。

 話を聞かねば殺す、話を肯定しなければ殺す。まさに極悪そのもとのだな、と文楽は考えていた。


 背後から住吉という女性がやってきて、文楽の肩に手を置く。

 覗き込むように顔色を窺うと、肩から手を外し、周囲を優雅に歩き始めた。


「不安な顔ですね。それでは具体的に話をしましょうか。私たちはすでに何度もこのクエスト2に参加しています。そして気がつきました、あの魔王は今の私たちでは倒せない。そこで私たちのリーダーである佐々原さんが言ったんです。生きるために、必要なスキルを手に入れるまでじっくりとこのクエストを進めていこうって。実際、そうやって私たちは地道にクエスト1を攻略できました」


 饒舌に話し始めた住吉は思い出にでも浸っているのか、恍惚とした表情をしていた。

 麻薬で脳内快楽物質を過剰分泌させているのではないかと疑えるほどに、彼女は頬を赤く染めている。


 そんな住吉が、ふと真面目な表情に戻る。


「ただその必要なスキルってのが、努力ではどうにもならない天性のものらしくて……そのスキル持ちが現れるまで私たちはここでずっと待っているんです。魔王と戦わず、かといって暇を持て余すわけにもいかないので勇者狩りをしています」


 少し間をおいて、住吉は獰猛な笑みを浮かべていた。

 さも自分の考えは正しくて、他の考えなど受け入れないといった自信に満ちた声だった。


「どうせ魔王に殺される人たちなので、死ぬ前に私たちがスキルをもらってあげてるんですよ! その方が彼らも本望でしょ? 知ってますか? とある条件さえ整っていれば、スキルを獲得するのは勇者殺しが一番手っ取り早いって。そうして私たちはここまで強くなったんです。見てください! 彼らは皆スキルを三つ以上もつ精鋭です。どうですか? 私たちは頼もしいでしょ? 一緒に魔王を討伐しませんか?」


 いま一度、住吉という女性は文楽に手を差し出してきた。

 ここまで真実を話したのだから、この手を取らなければ殺すという殺意を込めた、ある意味脅迫と同義の行動だった。顔は笑っているのに、目が笑っていないのは、なんとも不気味だ。


 それらの内容を聞いて、文楽は思わずため息をついていた。


「お前の自家発電はこれで終わりか?」


「はあ? いまなんと言って――」


「俺には時間がないんだ。そんな与太話に付き合ってる暇などない」


 その言葉が癪に障ったのか、住吉のこめかみに血管が浮き出る。


 なかなかに短気な性格をしているらしい。

 まあそれもそうだろう。こんな無駄で、阿呆で、無意味な人狩りを繰り返す勇者なんてどうせすぐに詰むことになるのだから。そんなことも知らないなんて、可哀そうだ。


 結局のところ、努力した奴が最後に笑っていられる世界なのだから。


「じゃあ、あんたのスキルは私たちがいただくことにするわ!」


 女性は片手をあげ、戦闘の合図を仲間たちに出す。

 彼らは一斉に武器を構えると、容赦なく殺意を文楽へと浴びせてきた。じわじわと距離を詰めてきて、本当に殺す気で逃げ道を塞いできたのだ。


「俺に人殺しの趣味などないのだが……戦わなきゃダメか?」


「ええそうよ。私たちを侮辱した罪を償いなさい!」


「侮辱したのはお前だけのつもりだったんだが……勝手に主語を『私たち』に変えないでくれるか?」


 挑発された住吉は、耳まで顔を赤く染めあげた。

 それを見て、なぜか仲間たちが鬼の形相になっていた。相当お怒りの様子だ。


 不自然なほどに、奴らは住吉という女に感情移入をしているようだった。

 だがその理由には薄々気がついていた。彼らが住吉を見ている目が、尊敬や仲間意識ではなく、異性を見るような瞳だったからだ。じろじろと嘗め回すような、男のクズがしているような視線を彼女に浴びせていたのだ。そして彼女もまた、それを拒んでいない。


 彼らの関係を推測するには、十分な情報だった。


「どうやらビッチ様に彼らはご執心のようだな」


「ビ、ビ、ビ……ビッチですって!?」

「瑠璃子ちゃんは僕たちに施しをくれたんだ! ビッチなんかじゃない!」

「彼女は女神だ! こんな薄汚い世界にいる女神様なんだ! 平等に優しくしてくれるんだ!」

「ビッチはお前だろ! さっきから瑠璃子様に色目を使いやがって!」


 こんな戦場に性欲なんてもの持ち込むな、と文楽は呆れていた。

 それにしてもたかが性欲一つで、平和の世界で生きてきた凡人が人を殺せるほど人格が急変することがあるだろうか。数多の戦場を駆け抜け、血や死をなんとも思わなくなるには、それなりの時間がかかるだろう。


 文楽だって、いまだ死や血に抵抗感を感じているというのに。


「適性は妖術師か? おまえ」


 図星だったのか、住吉は真っ先に武器を構える。


「ッ!? みんなこいつは危険だわ! 始末するわよ!」


 状況が悪くなればすぐに好戦的になる。

 まさに脳みそが足りていない人間の典型例だ。


 彼らのその行動を見て、急に怒りが込みあげてくる。

 身勝手な理由で、一体何人の勇者たちが殺されてきたのだろうか。

 殺された中には才能のある勇者もいただろう。無念に殺された勇者もいただろう。


「クズだな」


 思わず文楽は、喉元に突き付けられた槍の柄を握り潰していた。


「は、離せ!」


 掴まれた自分の槍を、押しても引いてもびくともしない。

 槍持ちの男性は文楽の握力に驚き、慌てふためいていた。

 無抵抗ですぐに殺せそうだった相手が、圧倒的な力を見せつけてきたのだ。


 ぎゃんぎゃんと喚く声に怒りが湧き、槍を握力でへし折っていた。

 その光景を見て、傍に来ていた連中は一歩あとずさる。


「お前らは今までに何人殺した?」


 折れた槍を殴り捨て、文楽は尋ねた。


「それがどうしたってのよ!」


「……何人殺した?」


「お、覚えてないわよ! 雑魚なんて何匹殺しても問題ないでしょ! どうせすぐに死ぬんだから、有効活用されてありがたいと思いなさいよ!」


「じゃあ地獄で思い出せ」


 文楽は怒りに任せて、体内に仕舞っていた呪いを解放していた。

 止め処なくあふれ出てくる呪いの塊を見て、全員が動揺し、逃げ腰になる。


 これでいい。

 こんな奴らを野放しにするのは危険だ。

 誰かが、正義の鉄槌を加えなければいずれ世界のノイズとなる。


 心を鬼にしろ。


(これは俺が殺したいから殺すのではない。今ここで殺しておかないと、このあとの魔王討伐に支障をきたすから……殺すだけだ)


 静かな動作で流れるように、短剣で槍持ちの男性の腕を斬りつけた。

 瞬間的に腕が壊死していき、持っていた槍を落としてしまう。


「あ……ああッ!? なんだこれぇぇぇぇぇぇ」


 壊死どころか、その腕は溶けるように崩れ落ちていった。


「こ、この野郎ぉ!」


 もう一人傍にいた男性が、復讐の思いを込めて剣で襲い掛かってきた。

 文楽は身体強化された拳で、その男の鳩尾に一発攻撃を食らわせる。


「ごフッ!?」


 肺から一気に空気が押し出され、少し遅れて血反吐を吐いていた。

 容赦なくその男の髪を持ち上げると、文楽は耳元に短剣で切り込みをいれる。


 耳が腐り落ち、男は痛みのあまり地べたで暴れまわる。


「――残り五人」


 短剣を握りしめ、文楽は彼らへ殺意を向けた。


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