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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第26話:魔王討伐2ー④/人狩りの頭


「クソ野郎っっっ!!」


 一番遠くにいた線の細い男が、悪態をつきながら手のひらをこちらへと向けてきた。

 小声で詠唱をすると、手の先に火種が生まれた。目まぐるしく吹き荒れる火炎へと巨大化していき、火炎球が出来上がった。


 こんな攻撃を食らえば即死だろう。

 あくまでこんな詠唱から発動までが長ったらしい攻撃を食らう鈍間ならという話だが。


「えっ!?」


 魔法を放とうとしていた男は、視界に捉えていた男が消えたことに驚いていた。慌てた様子で辺りを見渡すが、一向に姿が見当たらずに動揺している。


「安達!! 後ろだ!」


「は?」


 男が振り向こうとしたそのとき、文楽はすでに短剣の切っ先を首元に添えていた。下手な行動を起こせばすぐに殺すと言わんばかりの殺意を込めて、短剣の刃先を肌が切れない程度に押し当てる。


 短剣の呪い効果を理解しているのか、男は即座に両手を上げて降参の意を示した。


「こ、降参させてください!」


「今さら何を言っている? それと対人戦で魔法適正が真っ向から戦ってどうする、阿呆か」


 そう言い放ち、文楽は膝の裏側を脚で蹴って相手を地面に跪かせる。そのまま悪さをする両手を塞ぐために、両方の肩を短剣で切りつけた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」


 鋭い痛みのあとに、腕が呪いで爛れ落ちていく。

 あまりの痛みに男は悶絶しながら地面に倒れ込んだ。


 魔法適性が強いなんて神話、この世界には存在しない。

 詠唱がある魔法は発動までのラグがあり、強い敵との真っ向勝負には向かない。こういった場合は搦手で相手を翻弄し、本命の攻撃を隠し持っておくべきだ。つまり心理戦を仕掛けなければ、魔法適性などただの木偶の坊でしかない。


 魔法適性は集団戦において最大火力を発揮すること、中距離ないしは遠距離から搦手で相手を殺せることに秀でた適正だ。こんな鈍間な戦い方など、愚策過ぎる。


「残り四人」


 顔を上げると、残りの四人は陣形を組んで対抗手段を構築していた。

 円形の盾を持つ男を最前線に置き、その後ろには剣を持った男、そのさらに後ろに弓矢を持つ男が矢をつがえている。先ほど女性は最後方で鞭のような武器を握りしめている。

 対モンスター戦では、それなりに通用する陣形だろう。


 勝てないと判断して陣形を組んだことは称賛できるが、作戦が甘すぎる。


「みんなで殺るわよ! 魔王を倒したときと同じ陣形で――」


「魔王ってのはこれのことか?」


 文楽は呪いを解放すると、呪いで王蛇の形を器用に作り上げていた。自分の背後で黒い物体を蠢かせ、彼らの動揺を誘ってみた。


「お、お、お……王蛇!?!? なんで魔王がこんなところに!?」

「ば、馬鹿な!? ぼ、僕たちが倒したはずだ」


「みんな落ち着きなさい! あれは偽物よ!」


「そ、そうですね! 王蛇はあんなに小さくなかった!」

「そうだ! そもそも俺たちは王蛇を倒したじゃないか!」


 なぜだか一致団結しているようだが、彼らは勘違いしている。

 これは正真正銘、魔王【王蛇】の使用していた神話級スキルだ。


 スキル――鹵獲解体、発動。


 文楽は前衛で盾を構えていた男の盾を引き寄せると、上に放り投げた。王蛇の形を成した呪いがそれを食らうように飲み込むと、盾は一瞬で溶けてチリとなっていった。その光景を見て、前衛の男が硬直した。


「嘘だ……あれは、王蛇の範囲攻撃と同じじゃないか」


「ま、待って! 降参するわ!」


 たかが一介の勇者が扱っていいスキルではない。


 そう悟ったのか、一番後ろにいた住吉が武器を手放して無様にも両手を上げていた。その弱々しい声を聞いて、他の三人も躊躇することなく武器を手放して両手を上げる。


「あなたがこんなに強いなんて知らなかったの! ごめんなさい!」


 立場が悪くなれば相手に従う。

 弱者に対しては無慈悲な死を与える主義らしい。


(クソみたいな奴らだな)


 こんなにハラワタが煮えくり返りそうな思いをしたのは、いつぶりだろうか。


 確かにこの世界で生き抜くことは至難の業だ。

 善性だけで生きていける優しい世界ではないのは確かだ。だからこそ、悪役のような方法で楽に強くなることを選ぶ理由もわかる。

 だが、やってはいけない範囲ってのがある。人が人を道楽のために殺していい理由なんて一つもない。選択肢がこれしかないからやる――ならまだ理解してあげられただろう。慈悲をあたえてやっても良かった。


 だが彼らは文楽を殺そうとしたとき、皆が等しく愉快な笑みを浮かべていた。

 弱者を殺すことを楽しむ殺人鬼の顔をしていた。

 どんなに言い訳を続けようとも、彼らの根本にあるのは悪だ。

 何かを言っても、改心するとは思えない。


 全員の身動きを取れなくしたうえで、処分を下すべきだろうか。

 それとも魔王のエサにする方法もある。


 とはいえ、文楽だって人を殺したくて殺そうとは思っていない。

 できれば自分が手を下さない方法を選びたい。人を殺した罪悪感に苛まれるくらいなら、誰かにこいつらの審判を任せたい。


 さて、どうするべきか――そう考えていたときだった。



「私たちのリーダーは、特等勇者なの!」



 その言葉を聞いて、文楽はぴたりと動きを止めていた。


 勇者には大分類がある。

 下等勇者、初等勇者、中等勇者、上等勇者、そして特等勇者だ。

 彼女の言った特等勇者はその最上位であり、たった一人で魔王と対等以上に戦える素養を持っている。つまり、文楽と同等かそれ以上の強さをすでに持っている可能性がある。


 こんなに弱い奴らが魔王討伐1を攻略したことに疑問を持っていたが、これで納得がいった。

 今回一緒に討伐を行う拠点のリーダーは、おそらく化け物並みに強い。


 だが、腑に落ちないことがある。

 それだけ強いのに、なぜ骸騎王スメラを討伐しないで、ここで立ち往生しているのだろうか。目的が他にあるならば、確かめなければならない。


 魔王と戦う前に、不安要素はできるだけ排除しておかなければ。

 死闘中に邪魔されたらたまったものではない。だから小神たちにこいつらを託そうと思ったのだが、運悪く文楽が出会ってしまった。しかも思想が歪んだ奴らのようだ。


「リーダーの名前は『佐々原』と言ったか?」


「ええ、そうよ! しかもこの世界のことについてとても詳しいの!」


 随分と優秀なリーダーらしい。

 元プレイヤーであり、特等勇者として召喚されたエリート。

 さぞ、胡坐を書いてこのゲームに参加していることだろう。


 だが廃人――真の英雄廃人ではない。

 文楽と同じ廃人ならば、勇者狩りによるスキル獲得が悪手であることくらい皆が知っているはずだ。そんな愚かな行為を、廃人がするはずもない。


 とはいえ、彼らのリーダーが誰であろうとその罪は消えない。

 人を殺したことによる最低限の業は背負ってもらう。


「活かすのは一人で十分だろう」


 文楽は足に力を籠めると、瞬く間に彼らの陣営の中にたどり着いていた。

 短剣を薙ぎ払い、三人の片足に傷をつけるのであった。足が一瞬で腐り始め、彼らは痛みに苦しみながら地面に倒れ込んだ。


 たった十数秒の戦闘で六人も戦闘不能にさせられ、住吉は動揺していた。


 さっきまで狩る側だったはずなのに、いつからか狩られる側の弱者に自分がなっていたのだ。

 恐怖で顔を青白く染め、手足を震わせ、死を身近に感じていた。


「だから……その…………」


「案内しろ」


「え?」


「お前らのリーダーの元へ案内しろ」


 短剣を首元へ向け、文楽は真に迫る表情で脅した。



 ◆



「さ、佐々原さん!」


 キャンプ椅子で寛いでいた佐々原の元に、一人の女性が焦った様子でやってきた。

 彼の周囲には三十人以上の勇者たちが控えており、ここまで来れば安心だろうとその女性は思っていた。女性は佐々原の傍で膝をつき忠誠を示すと、獰猛な笑みを見せた。


「何があった? 住吉」


「助けてください! 私の仲間がみんな殺られまし――ぐはッ!?」


 住吉はその言葉を発した瞬間に、吐血していた。

 あまりの苦しさに地面に血反吐のまき散らし、そのままぐったりと地面に倒れ込む。


 不思議に思いながらも、佐々原は顔を上げていた。


「…………お前の仕業か?」


「ああ、そうだ」


 気がついたときには、佐々原の目の前に灰色の外套を羽織る男が立っていたのだ。

 しかもここには三十人もいたというのに、皆の監視を掻い潜ってここに現れた。


 明らかに、こいつは異常だ。


「宣戦布告と捉えていいんだよな?」


「構わない」


 外套の男はそう告げると、静かに腰から一本の禍々しい短剣を取り出した。



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