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下等勇者のはかりごと~泥啜る不断の努力とゲーム知識で、魔王を凌駕する~  作者: 笠鳴小雨


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第10話:魔王討伐1ー③

「あ、あの……その…………」


 バツ悪そうに、トトコは下を向いていた。


 だが、文楽は何も言わなかった。

 ただひたすらに使えそうな武器や武具を確認しているだけで、トトコを気に掛ける余裕が無いように見えた。と思ったらあぐらをかきながら布の切れ端で武具を拭い、状態を確認しては、武器を内蔵の内壁へ次々と刺していく。最後にそれらをロープで括り始めた。


 数分間の沈黙が続く。

 ひと通りの準備を終えた文楽は、ゆっくりと立ち上がった。


「待たせたな、トトコ。魔核の回収の進捗を聞かせてくれ」


 自信に満ちた瞳を見て、トトコは決心がついたようだ。

 肩に掛けたポシェットのようなバッグをゴソゴソと漁ると、白い魔核を徐に取り出した。


「か、回収はできました……ですが、今は事情がありお渡しすることはできません」


 魔核を取り出して見せてきたということは、トトコに反旗を翻すような意思は無い。

 それどころか、渡したいが、渡せない――という意思を感じる。


「確かめたいことがある、魔核を少し貸してくれ」


「触るくらいなら問題ないです」


 トトコはそう言って、両手で持っていた魔核を少し前に差し出した。


 文楽は躊躇せず、魔核へ手を伸ばす。

 中心が仄明るく発光し、外殻で覆われた心臓のような部位はリズムよく鼓動を鳴らしている。

 触れると柔らかさがあり、少し押し込んでみればゴム球くらいの弾力が感じられた。


 それだけの情報で、文楽は全てを理解した。


「――そういうことか。所有権が俺に無いんだな?」


「そ、その通りです。この魔核の所有権は我らにありません。触っただけでよくわかりましたね……ゲームでは質感までは再現されていないはずでしたが」


「システムが保護している存在は、鬼子のように一切の手出しができないからな」


 そう言いながら、トトコの額に手を近づけて不意にデコピンをした。

 トトコは反射的に目を瞑るも、痛そうなリアクションは一切見せなかった。それどころか文楽からしたら、壁のような無機質な何かにデコピンをした感覚だった。

 トトコに触れる――というよりかは、触れる前に見えない壁に防がれたという表現が一番近いだろうか。トトコは何かのシステムに保護されている存在なのだ。


 クラッツォの魔核には適度な弾力があった。

 指の力で僅かに凹ませることもできた。


 ここから推測したのは、トトコと違って魔核はシステムに保護された存在ではない。

 前にトトコはこう言った――回収はしておきます。ただ……システムが許可するまでは、我が保管しておきます。


 要するに、魔核の所有権はシステム以外の何者かにある。


「いまの所有者は――そうだな……上位鬼子『ルルッゾ』ってところか?」


「――ッ!?」


 トトコは、豆鉄砲を喰らった鳩のように目を丸めていた。

 ほんの数回の会話のやり取り。たったのそれだけで文楽は所有者まで言い当てたのだ。


 鬼子と一括りに言っても、その個体数はトトコでさえ把握できない数がいる。


「な、な、な、なんで我の上司の名前を知っているのですか!?」


「出る杭を打つような悪趣味な鬼子は、ルルッゾくらいしか思いつかないからな。相変わらず小者な鬼子だ。どうせその魔核も、ルルッゾが嫌がらせでもしてきたんだろう」


「そ、その通りです。システムからの許可は下りましたが、最初の所有権は我の上司であるルルッゾ様に譲渡されました。何度か交渉はしたのですが、まだ所有権を譲渡してもらず……」


「トトコも上司運の無い奴だな。俺も無いから言えたものではないが」


 自嘲するように文楽は笑った。

 すぐに真剣な眼差しに切り替える。


「その所有権を強制的に解除できる方法がある」


「た、確かに方法はありますが……下っ端の我ではどうすることも――。所有権は持ち主が破棄ないしは譲渡、または上位の存在による上書きしか解除方法はありません」


「いるだろ。ルルッゾよりも上位の存在が」


「ど、どこにでしょうか?」


「ここだ」


 文楽は優雅に内臓の壁へと歩いていくと、魔王を挑発するかのように二度壁を平手で叩いた。


「……え」


「こいつに所有権を上書きしてもらおう」


「………………って、魔王じゃないですか!?!?」


 にやり、と文楽は口角を上げる。

 その瞳は邪悪そのもの、腹黒く悪だくみをしている悪魔のような表情をしていた。


「で、でもどうやって上書きするんですか? 我には方法が分からなく……」


 説明するように、文楽は手に持っていた短剣を見せた。

 B級武器【罪被の短剣】――魔王の腹の中で手に入れた武器だ。


「B級アイテムは魔王討伐クエスト15を超えなければ手に入らない。そして、アイテム所有権の保護機能は魔王討伐クエスト10で解放される。つまりだ、これほどランクの高い武器の所有権はどんなに馬鹿だろうと自分の所有物として保護するはずだ」


「そ、そうですね……勇者の皆さまから見れば、鬼子のようなシステム的上位存在から上書きされる、ないしは自分から譲渡することでしか武器を奪われないようにする機能ですから。そうでもしなければ強い武器やアイテムの取り合いになり、拠点キャンプで勇者同士の抗争が起きてしまいます。それを阻止するのが所有権の保護機能の役割です」


「そこだ。たとえば所有者が死んだとしても、その所有権は放棄されない」


「そ、その通りです」


「だが、俺はここで拾ったB級武器をこうして所有できている」


「つ、つまり……魔王が所有権を上書きし、破棄したってことですか?」


「正解だ。魔王【王蛇ダ・オヌ】は呪いの塊のような存在だ。体内に充満する呪いが自然と武器の所有権を上書きする、そこに魔王の意思は介在しない。だが、王蛇ダ・オヌは武器やアイテムに興味などないので、すぐに放棄する。そもそも所有権の枠は有限だからな。喰った武器全てを所有物にするわけにもいかない」


 トトコは全て納得した。

 自分が契約した男は本気だ。


 彼は魔王すらも利用して、この戦いに勝とうとしている。

 どこまで深く、遠くを見据えて戦っているのだろうか。


「す、すごいです……我は魔王を使うなんて一度も考えたことありません」


「俺が何回このゲームを繰り返してきたと思う? この世界では魔王を討伐することを目的としているが、それだけ続けていてもクリアなんて一生できない。魔王でもなんでも、使える物は使って強くなる――これが正解だ」


 平然としている彼を見て、トトコは安心と同時に尊敬を覚えていた。


 魔王の腹の中にいるって状況だけで、本来はパニックになってもおかしくはない。

 普通ならばここから出る方法を模索することだろう。

 それどころか彼は、魔王の腹で今よりもずっと強くなろうとしている。


「我はあらためて思いました。シシバ様と契約を結べたこと、鬼生の転換期だったと思います。我は一生ついていきます」


「いい心がけだが――だが、魔王を利用するこの方法にはデメリットもある」


「えっと……」


王蛇ダ・オヌの呪いで、完全に所有権が切り替わるまで五十時間はかかる」


「ほぼ二日じゃないですか。それまでこうして待っているのですか?」


「何言ってる、ここは魔王の腹の中だぞ? 今は何事もなく立っていられるが、そろそろ俺がここに来てから八時間は経過する頃だ。起きるぞ、王蛇ダ・オヌが――」


 文楽が言った、次の瞬間だった。

 足元の地面が、大きくうねり、二人は大きく態勢を崩す。


 文楽は咄嗟にトトコの服を引っ張り上げ、小さな体を持ち上げていた。


「魔核をよこせ」


「は、はい!」


 魔核を受け取るや否や、文楽はトトコを宙へ大きく放り投げた。

 魔核を抱えたまま急いで壁際へと走っていき、事前に準備をしていたロープに手をかける。そこで魔核のとっかかりにロープを括り付け、それを自分の腹囲に巻き付けて、何があっても失くさないように工夫する。


「シシバ様!?」


「お前は鬼子様なんだ。あとは優雅に人間様の無様な姿を外で眺めてな」


 トトコは咄嗟に転移渦を召喚し、なんとかその縁にしがみついていた。

 脚をじたばたさせて、なんとか転移渦の中に入る。


 完全に転移する前に、慌てて振り返った。


「の……のちほど食料を持ってきます!!」


「頼んだ」


 次の瞬間、どこからともなく津波のような体液の波がどっと押し寄せてきた。


 その荒波に文楽はあっという間に飲み込む。それでも必死にロープを登り、水面から顔を出した。大きく息を吸って、気がついたときには再び津波が文楽を飲み込む。


 次は重力の方向が九十度回転し、文楽のいる位置が天井付近に変わった。

 そうしてすぐに百八十度回転し、文楽は地面に叩きつけられる勢いで波に叩きつけられる。

 それでも必死に体液中でロープにしがみつき、登り、水面から顔を出して息を吸う。


 トトコは荒波で必死に足掻く契約勇者を見て、不安に思っていた。

 だけど、彼を信じると決めたからには――自分は自分の役割を全うしようと決意した。

 早々にこの場を退散して、労うための物資調達に向かうのであった。



 ◆



 再び、王蛇ダ・オヌが睡眠に入ると荒波がおさまった。

 文楽は満身創痍といった表情で、柔らかな床に体を預けていた。


「シ……シシバ様、食糧を持ってきました」


「助かる」


 心身疲れ果てた様子の文楽は、疲れで食も進まないのか、ゆっくりと貰った堅いパンを食べ、水で無理やり胃に押し流していく。最低限の空腹を満たすと、再び横になる。


「また食料を頼む。さすがに疲れたから少し休む」


 そういった数秒後に、文楽は小さな寝息を立てていた。


 拠点で休まず訓練を続けて四十六時間、そして魔王の腹で動き続けることおよそ二十四時間。

 約七十時間休まずに動き続けた文楽は、すでに限界を超えている。

 魔王との本格的な戦闘に備えて、今は少しでも休み取ることを選択した。


 それから八時間後、再び王蛇ダ・オヌが活動を始めた。

 文楽はもう一度ロープにしがみつき、荒波に十五時間以上耐え続けた。



「ついに、か」



 魔王の体内にやってきて、約三日。

 

 今まで陶器のように冷たかった白い魔核が、お湯ほどの熱を帯びていった。

 魔核の所有権が消滅し、魔王へと上書きされ、魔王が所有権を放棄したのだ。


 これで魔王【王蛇ダ・オヌ】を倒す材料が揃った。


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