楽しいお買い物と冒険者ギルド
武器が揃えばお次は防具。着替えやら下着やら、必要なものを揃えねばならない。
「ご主人さまはあっちのお店ね。他はこっち」
「いや、全員あっちでよくないか?」
あっちは、そこそこ小綺麗な服や。こっちは、明らかにボロい古着屋。
「ご主人様、気持ちは嬉しいのだが今は節約するべきだ。それに俺達は有事の際には獣化する。服は千切れるからな。安物がいいんだ。変に良いものにして獣化した時に服の首部分が千切れず首が締まって死にかけた……なんて話もある」
「よしわかった!そうしよう!!あ、なら私も古着でいいよ?」
まさかボロい服の方がいい場合があるとは思わなかった。しかし、毎回破くのもどうなのかしらん。最初から獣化するのは……お腹空くのか。どっちもどっちなのね。
「ご主人様は設定があるでしょ。貴族のお嬢様は古着なんて着ないわぁ。それに、あっちのお店はいい服があるのよぉ」
よくわからんが、ゲルダに引っ張られて小綺麗な服屋に連れて行かれた。
「ほらほらコレ!コレとかコレとか!すごく似合いそう」
「似合っても予算がな……」
確かにとてもいい服ばかり。どちらかというと和服やチャイナ風なので親しみやすくもあり、ファンタジー感がないので小面さんともマッチしており着てみようかなとも思えるのだが……お高い。
「私とカイがすぐたんまり稼ぐから平気よぉ!ご主人様にはイイモノを着てもらってぇ、私達が稼ぐのぉ!」
「じゃあ稼いでくれたら着るよ。生活費を切り詰めてまで服を買いたくないし」
ゲルダがブーブー言っていたが、とりあえず三着購入した。
「はい」
「はい??」
ゲルダに紙袋を一つ渡す。
「それはカイとのデートで着てね」
せっかくなので、私が見立てた服も購入した。ゲルダも気に入っていたようなので文句はあるまい。
「ご主人様好き!!」
「はいはい」
ご機嫌でじゃれてくるゲルダ。服一枚でチョロ過ぎやしないだろうか。まあ、機嫌が悪いよりはいいか。
「んー……着て歩きたいけどぉ……んー。我慢!」
「せっかくだから着たら?」
「これから狩りに行って稼がないとだものぉ!ご主人様、私とカイがこれからたーくさん狩って、稼いでくるわぁ!汚したりしたくないから今度!お金を稼いだら、ご主人様と着てお出かけするのよぉ!さっきの可愛い服もぜーんぶ買っちゃうんだからぁ!」
ここでやる気があるのはいいことだと止めなかったことを、私は後悔することになるのだが……今の私は知る由もないのだった。
「うん?まあ、稼げたらね」
ついでに布地も購入した。ちょっと実験してみたいのだ。幸いなことに、裁縫はそこそこできる。刺繍も得意だ。店に裁縫道具セットもあってよかった。ゲルダが値段交渉してくれたから、布も含めて割安で買えたしな。
「約束よぉ!あ、カイー!」
「……買えたか」
「もちもちぃ!使った分は稼がないとぉ!冒険者ギルドへゴーよぉ!」
「……ご主人様、それでいいか?」
「私はかまわない」
冒険者ギルド……ちょっと興味あるな。わくわくしつつついて行った。
冒険者ギルドは、なかなか立派な建物だった。中に入ると屈強かつ凶悪そうなオッサン達がたくさんいる。ゲルダとカイを見て何やらヒソヒソしているやつが気になったが、二人はそれをシカトしてカウンターに並ぶ。私もそれについて行った。
「あっ!?お、お久しぶりです!」
カウンターの受付嬢が顔見知りだったらしい。ん?ということは二人の本名を知っているのではないだろうか。
「うふふ、久しぶりねぇ。こちらのレディの登録をしてもらえるかしらぁ」
「は、はい!」
何かを察したのか、受付嬢はそれから黙々と作業をした。ええと……この用紙に記入ね。
「あ、代筆いたしますか?」
「大丈夫」
なんでかこっちの字を書けるのよね。召喚特典ってやつ?便利でいいけど。名前と……得意武器?弓なんだけど書きたくないから短剣にしておこう。
「はい、受領いたしました。ではカードをお作りしますのでこちらに血を一滴お願いします」
「はい」
焼いて消毒された針で刺し、血を一滴水晶玉に垂らす。すると、水晶玉からカードが出てきた。すごいな。これ、どういう仕掛けなんだろ。
「おお……」
カードには私の名前と剣士と書かれていた。更に銅ランクと書かれている。ゲルダ、カイ、ジャン、スノウは何故か私のカードに血を垂らした。カードに所属奴隷として、それぞれの名前が刻まれる。
貴族なんかはこうやって奴隷を登録してランクを上げるそうだ。手柄の横取りだよなぁと思うが、奴隷だから仕方ないのだそう。奴隷の手柄は主人の手柄。私のためになるなら嬉しいとゲルダが笑った。うう……なんか申し訳ない。
「これで登録完了ねぇ。カイ、ガンガン稼ぐわよぉ!」
「あ、あの……おわかりとは思いますが依頼は銅級からのスタートとなります」
「ああ。だが『たまたま』初級の採取先で大物を仕留めることはあるよな?」
おお、カイが悪そうな笑みを……!そして、二人はジャンに私を任せて走り去っていった。だ、大丈夫なのかなぁ。心配ではあるが二人はもう見えないほど遠くに行ってしまったので諦めて別の用を済ませることにした。
ちょっと切りが悪いですが、今回はここまで!




