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高槻良子先輩






「……あれ?」


「どうしたんだい、晶くん?」


「いや、あそこ……」


ジャックのお墓があった路地裏から表通りに出ると、

先に帰ったはずの有紀ちゃんの姿がまだあった。


その向かいには、

有紀ちゃんよりも頭一つほど大きい女の人の姿。


その表情や親しげな接触を見る限り、

たまたま道を聞きましたという感じではないらしい。


ただ、一見して明らかに年齢が違うだけに、

何だか奇妙な組み合わせに見えた。


誰なんだろう、あの女の人は?


「あー、高槻先輩だ。

間違いない」


「ひょっとして温子さんの知り合い?」


「ここ三年くらい会ってなかったんだけれどね。

まさか、こんなところで見るとは」


……あの高槻先輩って人も、

温子さんのゲームセンター繋がりなんだろうか?


学園の外の温子さんはあんまり知らなかったけれど、

年上の知り合いが多いんだな……。


「でも、安藤さんもあの人と知り合いだとは

思ってもみなかったなぁ」


「一応、先輩はうちの学園のOBらしいけれど、

意外なところで繋がってたとは」


世の中は思ったより狭いなぁと、

温子さんが苦笑いを浮かべる。


と、こちらに気付いたのか――


温子さんの先輩は有紀ちゃんと別れ、

手を振りながら小走りにこちらへと近づいてきた。


「おー、マジで温子だ。

久し振りじゃねーかこのヤロー」


「お久し振りです、先輩」


「まさか、街中でばったりとはねー。

これってもしかして、運命ってヤツ?」


「かもしれませんね。

変なところで繋がってたみたいですし」


「変なところ?」


「安藤さんですよ。

さっきまで話してたでしょう?」


「あー、そうそう。そうね。

安藤のヤツとはちょっと前から知り合いでさー」


「つーか何?

温子たちもアイツと知り合いだったわけ?」


「まあ、私たちが知り合ったのは、

今さっきなんですけれどね」


「私たちって……もしかして、

そっちの子って温子の連れなのか?」


「ええ。友達です」


軽い紹介に、

どうもと頭を下げて答える。


と――


「……おいおい、マジかよ」


どうしてか温子さんの先輩は、

鳩がアームストロング砲を食らったような顔をしていた。


「あ、分かった!

アタシを騙そうと思って嘘ついてんだろ?」


「そこの連れ(キミ)はエキストラで、

温子に雇われたんだ。違うか?」


「そんな嘘をつく意味が

どこにあるんですか……」


「じゃあ、アタシが気付いてないだけで、

実はすげー時間が経ってるとか……?」


謎の横ステップで、

僕らを中心にぐるりと回っていく高槻先輩。


「……温子と最後に会ったのって何年前だっけ?

五十年くらい前?」


「三年ですよ。

先輩はお変わりないようで何よりですね」


「……嫌味なのは相変わらずなのな」


「でもよー、それ以外の部分は

変わりすぎだろーちょっとさー」


「普通の人は成長するものです」


「いやいや、お前の成長する方向はそっちじゃねーだろ。

なに血迷った方向行ってんだよ」


「先輩の変な期待を押しつけないで下さい。

私は、今の自分に満足してますから」


「ふーん。ほーう。

つまんねーの」


「……ま、これはこれで、

いじりがいはあるけどな」


温子さんの先輩が不敵な笑みを浮かべて、

僕の顔――というか上から下までじろじろ眺めてくる。


何か、嫌な予感がするんだけれど……。


「そこのエキストラ改め彼氏くん」


「先輩、晶くんは

彼氏とかじゃなくて友達で……」


「あー、はいはい。で、彼氏くんの名前は?

フルネームでよろしく」


……ABYSSに狙われている現状、

知らない人に名前を教えたくはなかったんだけれどな。


まあ、温子さんも隣にいるし、

嘘をつくわけにもいかないか。


「え……っと、笹山晶です。

先輩の名前は?」


「高槻良子だ」


……なるほど。

温子さんの先輩だし、覚えておくか。


「そんじゃ晶、早速だけどさぁ。

温子とはもうヤった?」


――ぶっ!?


「そ、そんな関係ではないです!

私たちは!」


「そ、その通り!」


いきなり何を言い出すんだこの人は!?


「おいおい何だよ、

まだ押し倒してねーのかよー」


「あ、もしかしてアレかな?

単純にどうすりゃいいのか分かんない感じ?」


先輩が笑顔を浮かべる――

『警戒しないでお姉さんいい人だから』とでも言いたげ。


けれど、そこから漏れ出る謎の胡散臭さを前にしていると、

まるでお婆さんを前にした赤ずきんの気分になってくる。


つまり、“何か変だぞ”と。


そんな心の隙間を突くように、

いきなり高槻先輩に肩を抱かれた。


「な、何ですか?」


漂うバラの香りと、頬を撫でる髪の毛のくすぐったさに、

思わず声が上擦る。


けれど先輩は、僕の反応なんかお構いなしに、

息のかかる距離まで顔を近付けてくる。


「いいかい晶、おねーさんからアドバイスだ。

温子にはとりあえず押せ! 押せ! 押しまくれ!」


「な、何を言い出すんですか先輩!?」


「脈がないなら速攻でブッ殺されるけど、

脈ありなら温子(コイツ)は絶対されるがままだ」


「でもって、晶には脈ありと見た!

成功率百パーだから殺される気で押し倒せ!」


「えっ!?」


反射的に温子さんの顔を見る。


と、怒りに顔を赤らめた温子さんから、

決死の視線が飛んできた。


『まさか本気にしないよね晶くんともあろうものが』

とでも言いたげ。


それに『いえいえ滅相もございません』と、

手も足も出ない亀を体現するべく首を竦めて返す。


と同時に、温子さんに引っ張られ、

高槻先輩から引き剥がされた。


「先輩……もう帰っていいですよ?

というか帰りましょう。すぐに。今すぐに」


「おいおい、お楽しみはまだまだこれからだろー?

いいとこだったのに邪魔すんなって」


「いいところも何もありません!

晶くんに変なことを吹き込まないで下さい!」


「あれー? でも、お前らって別に、

付き合ってるわけじゃないんじゃねーの?」


「それは……でも、友達としても、

さっきみたいに(そそのか)すのはおかしいでしょう?」


「まして、私が何て言うか……その……

い、いやらしいみたいな言い方して!」


「え、だって事実だろ」


「えっ」


「晶くん!」


「ごめんなさい」


パブロフの犬並みの素早さで頭を下げる。


と、それがおかしかったのか、

高槻先輩が腹を抱えて笑い出した。


「いやー、晶いいキャラしてるわー。

おかげで温子がいい手玉だよ」


「ったく……どうして先輩(あなた)って人は、

そう人をからかうんですか」


「バーカ、んなもん

面白いからに決まってんだろ」


オラオラ、と高槻先輩が温子さんの頬を指でつつく

/うざったそうに温子さんに払い除けられる。


……この人がどんな人なのか、

大体分かった。


真ヶ瀬先輩と同系統というか、

周りを引っかき回さないと気が済まないタイプか……。


「よし、んじゃテンション上がってきたことだし、

今からゲーセン行くぞ、ゲーセン!」


「え? いや、私は……」


「何だよ、まだ時間あんだろ?

前は閉店までずっと遊んでたんだし」


「え、温子さんがっ?」


イメージと違い過ぎて、

『本当なの?』と温子さんの顔を窺う。


「……うん?

何のことだか分からないかな?」


寸分の隙もない、

鉄の笑顔がそこにあった。


その鉄壁としか例えようのない表情のまま、

温子さんが高槻先輩をぐいぐいと道端へ押していく。


「おいおい、何だよ温子?」


「少しお話ししたいことがあるんです。

ちょっとだけ付き合って下さい」


引くことを知らない横綱ばりの力強さで、

小道へと寄り切りを決める温子さん。


そうして物陰で始まる、何かの論争。


聞いちゃいけないんだろうと判断し、

耳を閉ざしてコーヒーの残りをずずずっと啜る。


それがちょうど空になったところで、

ようやく二人が笑顔で帰還した。


「何を話してたの?」


「んー、ちょっと最近の世情についてかな。

ですよね、先輩?」


「あ? 温子が廃ゲーマーって話だろ?」


「わーっ! わーっ!」


「廃ゲーマー? 温子さんが?」


「違う! 違うんだ晶くん!」


「さっきのは配芸真亜(はいげいまあ)と呼ばれる謎の団体の話で、

社会問題化してきて困るねってことだったんだよ!」


「いやいや、温子がゲーセン通いしまくってたから、

それをバラさないようにして欲しいって話だろ?」


「だから、打ち合わせでそういうこと言わないって

約束したじゃないですかっ!」


「あれ、そだっけ?

ごめーん忘れてたー!」


「嘘です、絶対わざとです!」


ああもうこんな人を信用するんじゃなかった――と、

温子さんが膝に手をついて俯く。


ゲームセンターの前でも様子がおかしかったけれど、

それを隠そうとしてたのが原因だったのか……。


「あの、温子さん……?

別にゲーマーであることを隠す必要はないと思うよ」


「というか、僕は気にしてないし。

趣味は人それぞれだからね」


温子さんが顔を上げる。


「ありがとう……やっぱり晶くんだ」


「こんな悪魔のような先輩じゃなく、

最初から晶くんを信じてればよかった」


いや、そんなにしみじみと

褒められるようなことでもないような……。


「よーし。不幸な事故で晶にバレちまったことだし、

今からゲーセンだな!」


「それに比べてこの人は……」


「何だよ、別にいいだろ。

アタシのおかげで悩みが一つ消えたんだから」


「それよりゲーセンだゲーセン!

今日は閉店コースで行くぞ!」


「行きません。制服姿で夜遅くまでゲーセンなんて、

問題になりかねませんし」


「はぁ?

なに委員長みたいなこと言ってんだよ」


高槻先輩の言葉に、二人で顔を見合わせる――

自然と笑顔になる。


『実はその通りなんです』というのは、

思っていたよりもずっと気分がいいものらしい。


「……何だよお前ら?

なに笑ってんだよ気持ちわりーなぁ」


「いえ、委員長みたいなというか、

まんま委員長なものですから」


「正確に言えば、私が副委員長で、

こっちが委員長ですけれどね」


そう紹介すると、先輩は『マジで?』と仰け反った後、

深い皺の刻まれた眉間を押さえて大きな溜め息をついた。


「いや。あの温子がなぁ……」


「何ですか、しみじみと」


「一日にゲーセンを十カ所もハシゴしてた

あの温子がなぁ……」


十カ所も!?


「してない! してないぞ晶くん!」


「お小遣いあげるよって言ってきた親父から、

逆に脅して金を巻き上げてた温子がなぁ……」


そんなことしてたのっ!?


「だからしてない!」


「ふっふっふ、どーよ。

このギリギリありそうなラインを攻めるアタシのテクは」


「最悪です!

変な話を捏造するのはやめて下さい!」


「いやー、あんまりお前らが仲睦まじいから、

妨害したくなっちゃってさー」


「今日もどーせデートか何かの最中なんだろ?

このスケベどもが」


「残念ながら、

先輩の下世話な想像は全くの的外れです」


「切り裂きジャックのお墓参りに

行ってきたところなんですよ」


そう説明すると、

先輩は『あーはいはいなるほどね』と手を打った。


「死んだ時も話題になったけど、

未だに墓参りに人が来るとは、感慨深いもんだねぇ」


しみじみと頷く高槻先輩。


……この辺りの人にとっての切り裂きジャックは、

本当にヒーローみたいなものなんだろうな。


今もこうして忘れられずにいるところを見ると、

有紀ちゃんが興味を持つのも分かる気がする。


「まーでも、何で今さらジャックなんだ?

……もしかして、偽物の絡み?」


「ああ、やっぱり先輩も、

偽物だと思ってましたか」


「そりゃあね。本物を知ってるなら、

誰だって噂のヤツが偽物だって思うさ」


「しかも、今度のジャックは人殺しだ。

本物と違ってね」


人殺し……?


「それは……初耳ですね。

峰打ちして回ってたはずじゃないんですか?」


「そりゃまあ、峰打ちもやってるんだろうさ。

でも、だからって殺してないとは限らないだろ?」


……それは確かに。


「つーか一応、

お前らの学校でも犠牲者は出てるんだぜ」


「確か二人死んでるはずだけど、マジ知らない?

ちなみにどっちも男子生徒な」


「いえ、私は全然。

晶くんは?」


「僕も全然。

というか、それって本当なんですか?」


「おう、もちろんマジもんよ。

噂だけどな」


「……だとしたら、

それは噂が間違ってると思います」


「実は昨日、生徒会の仕事で、

ここ数年の生徒のデータ整理をしたんです」


「死亡者とかも見てみたんですけど、

生徒が死亡したなんて記録はありませんでした」


「それは確かな記録なのかい?」


「打ち合わせで使えるレベルにはね」


「でもそれってさぁ、別に一次情報から

入力されてるわけじゃないんだろ?」


「学園の資料から入力したっていうなら、

その大本が改竄(かいざん)されてたら記録に残らないからね」


それは……その通りだ。


データベースより以前に揉み消されているかどうかは、

僕らじゃ判断できない。


「だからアタシは、

その噂を信じるね」


「切り裂きジャックは人殺しをしていて、

かつそれを上手いこと隠蔽してる――って」


隠蔽……か。


その言葉を聞くと、

真っ先に思い浮かぶのはABYSSだ。


でも、ABYSSが人助けをしているわけがないし、

切り裂きジャックと単純に結びつけるのは無理があるか。


というかそもそも、

噂が真実かどうかも分かってないか。


でも、火のない所に

煙は立たないとも言うしな……うーん。


「晶くん、深く考える必要はないよ。

この人はね、ホントどうでもいい嘘ばっかりつくんだ」


「思考実験としてはいいかもしれないけれど、

考えても答えが存在しない可能性があるから」


「おいおい、人を嘘つきみたいに言うなよなー。

アタシは正直村の住人なんだからさー」


「“狼と少年”は知ってますか先輩?

その調子だと、誰にも信用されなくなりますよ?」


「バーカ、いいんだよそれで。

どこまで本気か分かんないのがアタシのキャラなんだ」


「……先輩は数年後、新興宗教の教祖か、

詐欺師か、占い師にでもなってそうですね」


「あ、その中の一つは既に達成済みだわ。

実はアタシ、この街のカリスマ占い師だし」


「初耳ですけれど……」


「そりゃそうだ。

温子の前では初めて言ったからな」


温子さんと顔を見合わせる

/目で分かる共通の思考――“絶対嘘だ!”


「お前ら、今、絶対嘘だと思っただろ?」


「はい。思いっきり」


うわー、温子さんばっさり。


「相変わらずお前は

先輩への敬意がないのな……」


「いえいえ、敬えるような先輩でしたら、

喜んで敬いますよ」


「よーし分かった! そこまで言うなら、

今からアタシがお前らを占ってやるよ」


「とりあえずお前からだ晶!

そのまま動くなよ」


止める間もなく『はぁぁぁ……!』と両手を突き出し、

謎のポーズで目を細める先輩。


あの……大変申し上げにくいのですが、

物凄く胡散臭いです。


手相を見るとかなら、

まだそれっぽかったのになぁ。


そんな僕の内心も知らずに、

高槻先輩が得意気に歯を見せる/鼻を鳴らす。


「晶って、今、

“誰か”のせいで何かに悩んでたりしないか?」


いきなりそれらしいことを言われて、

少しだけドキリとした。


でも……分かってる。

昼間に会った、黒塚さんと同じ類の悪ふざけだ。


『本当に僕の心が見えるのか?』と思わせるための、

誰にでもフックのかかる占いの常套句だ。


「ふむ……若干不吉な未来が見えるね」


「もしこのまま、その悩みの種を放置すれば、

晶の身には不幸が降りかかることになる」


……これも常套句。


不安を煽って、

救済を求めさせるための言葉だ。


だから――ABYSSに狙われているという、

今の僕の状況にマッチしていても不思議じゃない。


先輩の性格を考えれば、

とてもとてもそれらしい悪ふざけ。


それだけの話だ。


「その悩みを解消するために、晶は――」


そこまで言ったところで、

先輩が言葉を切った。


「……先輩、どうしたんですか?」


疑問に思って声をかける。


と――返ってきたのは、

戸惑いと不愉快の混じった先輩のしかめっ面だった。


「いや……どうして

こんな結果が出たのかなって思ってさ」


「どんな結果だったんですか?」


不穏な先輩の様子が気になったのか、

温子さんが眼光鋭く先輩を窺う。


それに、先輩はふぅと深い溜め息をついて、

物憂げに口を開いた。


「悩みを解決するためには、

誰か一人を殺さなきゃいけない」


「誰かを……殺す、ですか?」


常套句――

もちろんそんなはずがない。


商売としてやっている占い師は、こんな極端な、

しかも教唆と取られかねない言葉は口にしない。


明らかに、

僕のためだけに用意した言葉だ。


それも、

絶妙に急所へと突き刺さるように。


「……先輩。ちょっと冗談にしては

悪質じゃないですか?」


「アタシに言われてもねぇ。

占いの結果なんだしどーしようもねーだろ」


「あと、もう少し細かく言うと、

晶が誰を殺せばいいのかはちょっと分からない」


「それは晶の悩みの原因になってる“誰か”かもだし、

切り裂きジャックかも知れない」


「それどころか、もしかするとアタシかも知れないし、

そこにいる温子かも知れない」


「――ああ。

大穴としては、晶自身もあり得るか」


僕自身……か。


「まあ、信じるも八卦信じないも八卦ってね。

晶は信じるか? この占い」


「……信じません」


冗談が過ぎて、

笑い飛ばせなかったけれど――


とりあえず、

それは無いなと思った。


ABYSSとの問題を抱えている現状、

誰かを殺す状況に陥るかもしれないのは分かる。


けれど、仮にそれをやるとなれば、

対象は一人なんかじゃ済まないだろう。


ABYSSは五人。


なら、僕が人を殺すに当たってあり得る数は、

ゼロか五のどちらかだけ。


……唯一の例外としては、

僕自身を殺すケースか。


これなら確かに一という数で終わるんだろうけれど、

あいにくと僕に死ぬ気はない。


だから、信じない。


「えー、何だよ。

せっかく人が占ってやったのによー」


「いやー、さすがにそれを信じたら、

僕は犯罪者になっちゃいますからね」


「いーじゃんかよ、アウトロー。

かっけーじゃん」



「先輩、晶くんに

余計なことを(そそのか)すのはやめて下さい」


「余計なことってなんだよ、温子。

アタシは助言してやってるだけじゃん」


「それが余計なんです。

晶くんも信じなくていいからね?」


「大丈夫だよ、信じないから」


「おいおいおいおーい。

人様の飯の種を随分言ってくれるじゃねーか」


「よーし。んじゃお返しに、

温子と晶の将来について占っちゃおっかなー」


「っ!?」


「えーと、どれどれ……?」


「わ、私は先に帰ります!

晶くん、また明日!」


「あ……うん。また明日」


『先輩もさようなら』と、ついでのように言い残して、

温子さんはどたばたと去って行った。


「あっはっは!

いやー、マジで面白くなったねアイツ!」


「……先輩と温子さんって、

ホントに仲がいいんですね」


「いやぁ、そうでもないさ。

あんだけ真っ赤な温子の顔なんて、今日初めて見たよ」


「そうなんですか?」


「ゲーセンで知り合った頃のあいつは、

基本的に無表情だったもん」


「温子とアタシと片山ってヤツでよく(つる)んでたけど、

温子が笑ったのなんてほとんど見てないし」


ああ……多分、知り合った頃の

温子さんみたいな感じだったんだろうな。


今の佐倉さん以上に近寄りづらくて、

ほとんど誰とも関わろうとしなくて……。


そう考えると、

今の温子さんとは確かに全然違うよなぁ。


「アイツが変わったのって、

やっぱ晶のおかげなんだろうねー」


「いや……そんな、

買い被り過ぎですよ」


「いやいや、アタシにはできなかったことなんだ。

買い被りだとしても、礼を言っておくよ」


「ありがとね」


単純なお礼――


なのに、どうしてか

そう聞こえない自分に違和感があった。


さっきまで散々、

ネタと嘘を言われたせいだろうか。


何か、裏があるんじゃないかと

疑ってしまう。


そんなことをしているうちに、

高槻先輩は『じゃあね』と笑って――


ひらひらと手を振りながら、

夜の街へ悠々と歩いていった。


その姿があまりに自然すぎたせいか、

あっという間にその姿を人混みの中で見失ってしまった。


……夜のお仕事でもしてるんだろうか?


何というか、

普通の会社員とは雰囲気が違う気がする。


掴みどころがないというか、

浮世離れしてるというか。


まさか、本当に占い師をしてるなんてことは

ないとは思うけれど――


「……不思議な人だな」


あの人とまた会う時は来るんだろうか。




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