第八話
先輩達から大阪土産、それからわたし達用の戦闘考察ノートを受け取る。お土産に両手を挙げている友達もいるがわたしはこれを読みたい。
「あの、これ、読んでいいですか?」
「ええ、どうぞ。喫茶店にでも行きますか」
「あれ、でも先輩達大学行かれるんじゃ」
「私達で行っとくよ。四季とリセは一緒に行ってあげて」
桐子先輩の案のまま近くの喫茶店に入る。注文を済ませひといき。
「大阪はどうでした?」
「そうですね、正直ほとんど大学の用事にかかわっていたので観光などはできませんでしたが」
飲み物が運ばれてくる。先輩達とわたしの親友が大阪の食べたいもの談義に花を咲かせている中わたしはノートを開く。客観的に調べ記載したつもりではありますが必ず正しいというわけでなく、あくまで参考程度に利用してくださいという前置きがあり、一ページ目。タイトルに伊左治凪とあった。わたしの名前だ。素質スキル、戦闘スタイル、巫女としての能力、あとは性格。四季さんから見たわたしは多少引っ込み思案の節があるが思慮深く心優しく仲間思い、らしい。なんだか照れる。素質スキルは“追尾”。ホーミングといった方が正確で、対象に狙いを定め霊力波を打ち込み攻撃する。恐らくだが範囲内、目視という条件下で発動可能。霊力波のみならず変換攻撃に関しても叩き落とされない限り追い続ける。後衛とスキルからリーダー気質。とあった。わたしが個人的な練習や試験を続け確立していった能力の詳細を傍から見ただけでほぼ理解し文章化。恐ろしい。良い意味でもあるが、多少悪い意味でも。どういうことだろう、見るだけで果たしてこれだけわかるだろうか。
「ご飯だけだよね。あっでも朝はホテルのでお昼はお弁当か」
「げっ勿体ねーなそれ。私ならぜってー外食い行く」
わたしとしても折角だから大阪でしか食べられないものが食べたい。チカちゃんの意見に賛成だ。次のページに近中海悠。性格はやや男勝りで活発、サバサバしているが頭の回転は早め。戦闘中は突っ走る癖があり戦闘を楽しんでいる。素質スキル“拡散”を利用し霊力で生み出した武器、ハルバートを振っている。拡散の調整が可能になったことで攻撃、移動に使用するように。防御にも使用できるとさらに伸びる。
「遊びたいですわ」
賛成とはいえなかった。やはり大学の行事を優先となると無理してできるのは食事くらいなもので、キョウちゃよろしくほっぽって遊びに、というわけにはいかない。ページをめくり左側、キョウちゃんのページ。名前とスキルと。
「遊びにですか、今度皆さんで行きましょうか」
「そいつはいいな、是非だ」
「ですわね!」
「いや待て、でも襲来とか、さすがに全員で行くのはどうなんだ」
ページをめくり、次のページを確認した。
「皆さんが敵の王を倒し、平和を手に入れたらそのときに行きましょう。どこでも好きなところに行きましょう」
「ガンバッた自分へのご褒美ですわね」
「世界平和のご褒美もらえんのか」
「あくまでわたし達からのお疲れ様でした、と受け取ってください」
「是非ですわ」
「あの、四季先輩」
「はい?」
「なんだか、このページって、なんなんですかね」
先輩にノートを見せる。一ページ目が左にわたし、右にチカちゃん。次のページの左がキョウちゃんで右が白紙だった。もう一枚めくると左にサラちゃん。普通に記入していけば二ページ目の右にサラちゃんが入るはずだが。まるで“キョウちゃんとサラちゃんの間に誰かが入るかのよ
「ごめんなさい、ちょっとお借りしますね」
四季さんはわたしの返事を待たずにノートを持った。目線を右へ左へ、ぱらぱらとページをめくっている。
「ごめんなさい、ちょっと寝ぼけていたみたいで、色々と書き間違いがあるかも知れません。恥ずかしいものを見せたくないので、明日またお渡しするでいいですか?」
珍しい。完璧でないところなどなさそうな先輩が。
「先輩でもそんなことあるんですね」
「そんなんじゃないですよ。と、ごめんなさい電話です」
四季さんがノートをかばんに入れ、立ち上がる。店の外に出て行った。
「何?ミスがあったって?」
「うん。なんかわたし達個人の能力とかそういうページでひとつ飛んでた」
「あー、それきっとね、四季の癖なんだけど、開いて書かないほうのページあるよね?そっちに白い紙一枚置いて書くんだよね。それで、ミスかか何かでページめくっちゃって白紙に白い紙乗っけて書いてて、気付かなかったんだと思う」
「へー、あの四季さんがね」
「意外におっちょこちょいさんですのね」
「……意外」
「すみません、お待たせしました。ちょっと早急に大学に行かなくてはいけなくて。ここのお金は置いていきますので、もう少しゆっくりしていてください」
そういいながら財布から四千円を置いた。いつもながら多い。
「あと、ナナ、少しお借りしていいですか?」
「ナナをですか?」
「ふふ、皆さんがわたし達抜きでどれくらい戦ったかを客観的に聞きたいんですよ。五時までには誰かがナナ連れて合流するようにしますから」
「はい、大丈夫です。ナナ」
わたしが髪の毛を揺らすとちびっこ犬妖精があくびをしながら出てくる。寝ていたのか。
「寝てないよ。話聞いてた聞いてた」
「そう、寝ぼけて落ちないでね」
「おいで、ナナ」
いつもよりゆっくりなペースで四季さんのもとに飛んでいく。
「それではすみません、また後で」
「はい、えっと、ご馳走様です」
ふたりは自分の飲み物も飲み切らずに出て行った。置かれたお金を財布に入れておく。
「おいデザート食おうぜ」
ナナを連れて行って、今頃車の中であの子たちはどうだったとか話しているのだろうか。
「大賛成ですわ」
時間はかかって、怪我もあったがすべてクリアした。四季さんのことだ、出現の数、敵のランク、わたし達の動きすべてをきっちり聞いているんだろう。
「ナギ、お前なに食う?」
及第点ですかそうですか。及第点でもいいと思うけど。ってよくないな、先輩達はそんな人じゃない。あの人たちは綺麗で格好良くて強くて、本心でお疲れ様でした頑張りましたねと言ってくれているんだ。良くない良くない。
「……ナギ?」
「ん?あ、ごめん、聞いてなかったや」
「集中しろよナギー、大事な大事なデザートを選ぶタイムだぜ」
「みんなでひとつにしようよ。襲来終わったら先輩達の家でも何か出してもらえるんだから」
「そうですわね、満腹では戦えませんし」
「よし、じゃ候補募るぞ。サラは?」
「……パンケーキ」
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「気付いたみたいね」
「ちっ。嫌な想像というものは」
「ねえ、やっぱり、そうなの?」
不安げなリセの声。当然だろう。心優しい彼女にはできれば知って欲しくなかった。だが。
「ええ。後輩達の“誰か”、お亡くなりになったみたいです」
「恐らく一人、もしかしたら二人」
車を路肩に停めノートを確認する。一枚めくって左にナギちゃん、右にチカちゃん。次のページの左にキョウちゃん。右が、白紙。次のページの左にサラちゃんで右がまた白紙。
「わたしのノートの書き方で考えると、彼女達が六人組ならともかく五人組でもこう書くはずです。別項目について書く場合三枚目の右側は白紙で次に行くはず。白紙に理由がつかない」
「どうして、ううん、ねえ、どっちなの?ナナ」
リセの肩に乗っていたナナが飛びカーナビの上に座った。
「それは教えられないよ。そのための“記憶保護”だからね」
記憶保護。襲来する敵によって犠牲者が出た場合わたし達巫女の精神状態を保つために記憶処理を施しているらしい。犠牲者に関する記憶をまるまる削除し、今まで存在しなかったかのような状態にする。ただ今回におけるノートのように、犠牲者に関する記録は消失するのみで、調整、処理は行われない。
「ああ、ごめんなさい、車出しますね」
「うん、ゆっくりでいいからね。っていうか、大学行くの?」
とっさの電話嘘だったが、後輩達には気付かれただろうか。
「それに関しても、桐子達と後輩達の板ばさみに合わないための理由が必要です」
「なんだろう、適当な理由」
記憶保護に関しての思考も止めたくないが、早急はこちらだ。桐子達にも記憶保護の話ができたら楽だったが、それを知っているのはわたしとリセだけ。
「そうですね、桐子に怪しまれたくないというのが一番です。わたし達も大学側に必要だった、だと勘繰られる可能性が」
「そうだよね、私もそれ考えたけど」
トントンとハンドルを指で叩く。
「わたしが個人的に教授にお話することがあることを忘れていたことにします。そうなるとリセとナナがいることがどうしてとなりますが」
「みんなが食べるご飯の下準備でいいよ。ナナは寝ぼけて四季の髪に紛れ込んだ」
「ワタシそんなにダメじゃないよ!」
「知っていますよ。ごめんなさいナナ。でもそれでお願いします」
「うん、いいよ」
ナナは素直にわたしの髪に潜った。
「それなら、リセを先に家に送りますね」
記憶保護の続きを考えよう。公的な犠牲者の個人情報等に関しては完璧な処理がしてあるようで、例えば出席番号の抜けがあるといったそこからバレるものは無い。ただわたしのノート右ページの、おそらく、消失については処理されておらず、むらがある。処理はナナの世界が行っているらしいが、わたし達に知られないために行っているのにわたし達が気付きそうな綻びがあってはよくないだろう。わたし達がいない状態だったらノートも存在せずあの子達が気づくことも無かったんだろうが。
「そういえば、後輩達には怪しまれなかったでしょうか。電話はまだしも、ノートの不手際について」
「そこはうまいこと言っておいた、大丈夫だと思うけど」
「助かります」
「ナナ。やはり教えてください。犠牲になったのが一人なのか二人なのか、名前や細かいところはいいです。人数もわからなければ、わたし達は哀れむことができない。知ったからには、弔いの気持ちは持ちたいです」
「うーん、これはどうなんだろう。まあ、君達は大人だし、大丈夫か。やられたのは一人。昨日敵幹部が現れて、応戦したんだけど敵も強くてね。最後にその子が全員を守って倒れた。幹部も結構な怪我を負って、それで戻っていったよ」
「そうですか、皆さんを守って」
「……つらかっただろうね」
「今。あの子達には前を向いてもらいます。その気持ちは、わたしとあなただけのものにしましょう。
「……うん」
「じゃあ、気をつけて行ってね」
「ええ。また後で電話します。リセ、気持ちを落とされないように」
ドアが閉まった。大学に車を走らせる。ナナがわたしの髪から助手席へ飛んだ。
「と言っても、無理でしょうね、リセなら」
ハンドルを指叩く。あの時わたしが一人で抱え込んでいれば、わたしの心は少し壊れたかも知れないがリセの心は守ることができた。
「ワタシも二百年くらい生きてるけど、記憶保護そのものに気付いたのはキミが初めてだよ」
「前例が無ければ、今回も気付かなかったでしょうね」
「前例ね。あのノートだね」
わたしが普段からせっせせっせ書いていたノート。わたしが現役だった頃から作っていたもので、今回のように個人個人の能力についての記入が違和感を呼んだ。わたしには“楯の前にわたしとリセの他にいた誰か”の記憶は無い。さらに“確かにわたしはそのノートを記入した”記憶を持っているのに“ノートに書かれた文章に違和感”を覚えている。
「わたしはあのノートを書いた記憶があって、しかしその内容がおかしい。“わたしの認識するわたし”ならそう書かない」
「面白い言い方だね」
「そうですね。ですが」
ノートの違和感の理由を説明付けるにはそれが有力だった。勿論わたしのは記憶の欠如など認められない。
「正直、頭がおかしくなりそうですよ。思い出したくもない」
「でも、キミは知った」
「リセには知っていただきました。が、それ以上は。きっとこれ、いいことではありませんから」
「仲間でも?」
「仲間だからです」
そう、とナナはまたわたしの髪に帰ってきた。
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五時を前にして四季さんと楯さんがやってくる。桐子さんとひかりさんは先に家に帰り、リセさんとともにわたし達の食事を準備してくれているらしい。
「襲来だよ、みんな」
「ようし!車に乗り込めー!」
お会計を済ませ車に。襲来地点へと向かった。
「早速ですね。頑張ってきてください」
「はいっ。行くよ、みんな」
いつもどおりチカちゃんが左、キョウちゃんが右に。少し後ろにわたしサラちゃん。第一陣に辿り着く前に霊力波を放ち中央にいる六体を貫く。
『アシストしてさしあげますわ。どうぞチカさん』
『そのままそっち止めてろ!』
キョウちゃんが重力神楽で右翼の敵を止めている間に左の敵を減らしていく。中央の敵を牽制しつつキョウちゃんとわたしで、取りこぼしをサラちゃんが倒していった。
「次っ、右」
立ち位置を反転、キョウちゃんに左の残った数体を捌いてもらう間に動きが止まっていた右側の敵の頭を撃ち抜き、首を掻っ捌き、妖精体当たりを食らわせる。前回に比べ非常に簡単だった。
『増援来ます。後方発生にご注意を』
「はいっ!キョウちゃんとサラちゃんで増援の迎撃」
『歓迎してやりますわ!』
『……うんっ』
前方の敵を撃ちつつ状況確認。まだ誰も傷付いていない。増援もおそらく一撃で葬ることが可能。昨日は四人とも怪我、というか攻撃をそこそこ受けていたが、この余裕ぶり。急激に強くなったわけはなく、敵が弱くなった。敵幹部が。
「増援数多いね、キョウちゃん場所チェンジで」
『任されましてよ』
敵幹部がきてから敵のレベルが上がるかも知れないという四季さんの見解ははずれたのかも知れない。とろくて特殊な攻撃もしてこない一般兵。何度か現れた大型タイプのも周りを牽制しつつ攻撃を受けないように戦っていけば苦労はしない。
「チカちゃん、いいよ」
『おう!離れな、一発行くぜー!』
先輩達のレベルには達していないにしても、あの幹部相手にある程度は戦えただろうか。ナナに防御を担当してもらって、防衛よりで戦っていく。いや、それは慢心だ、厳しい。背水の陣、肉を切らせて骨を絶つ戦い方をしなければ倒せない。先輩達の初めてがそうだったように。
『ナギ?』
「あっ、ごめん何?」
『増援の様子無し。ボケッとしてんなよ』
「ごめん、ちょっと」
『とんだ怠惰ですわね。ごらんあそばせ私の全身全霊な戦闘神楽を!』
『こいつら相手に全力ってのもどうかと思うけどな』
『……そうかも』
『なっ!サ、サラさんまで!!いいえ、私は本気など出しておりませんことよ!明日から本気だしますわ!』
「それ、ダメなやつだよ」
終わってみれば全員無傷、何の苦労もない地球防衛だった。車に乗り込む。
「さて皆さん、戻りましょうか。お土産用意してあります」
「劇的にイージーでしたわね」
「終わってみればな。昨日の苦労が嘘みてー」
「わたしも思ったけどさ。どうして急に弱くなったんですかね」
四季さんはんーそうですねと顎に手をやった。
「それだけみんなが強くなったってことだよ!オメデトー!」
楯さんからの嬉しいお言葉。そりゃあ、出会った時に比べたら強くなったと思う。
「幹部、そして昨日の強敵と向こうも力を使いすぎてしまったのかもしれませんね。幹部を倒し、こちらが気を抜いているところを刺しにきた敵だからこそ皆さんが苦労した。気を抜いていたわけではありませんが、結果皆さんだけで対処することになりました」
「ま、なんとか撃退はしたけどな。目に見えた苦労は久々だったよな」
「でしたわね」
「先輩もあったんですか?こんなこと」
「そうですね。ありましたね」
四季さんは息を吐き、髪をかきあげてからまた顎に手を戻した。
「四季ちゃん?」
「いえ、なんでもないですよ」
楯さん的になにか気になるところがあったらしい。確かにノートのミスもあった、体調でも優れないのかも知れない。そんな様子は見受けられないが。
「そうだ皆さん。お土産ですがチーズケーキと冷凍ですがたこ焼きになります。もう準備してあるみたいなので戻ったら食べてください」
「あっ、すみません。ありがとうございます」
「チーズケーキ。結局アイスにしておいて正解でしたわね」
「だな。ケーキかぶりするところだった」
「ああ、先ほどの喫茶店でですか。最初から言っておけばよかったですね」
「アイスかパンケーキかで悩んだんですけどね。アイスにしました」
決定権を賭けたじゃんけんに負けたサラちゃんはしばらく自分のちいさいグーを見つめていたがきっとしばらくしたらチーズケーキを控えめに喜ぶ彼女が見られるだろう。
「パンケーキ……」
「うん、また今度行こうね」
「……うん」
可愛い。撫でたくなった。
「皆さん、今日の戦いはどうでしたか?苦労や違和感などありませんでした?」
今日の戦い。いつも通りというかいつもより簡単だった。と、この話はさっきしたはずだ。本当に調子でも悪いのだろうか。
「ま、楽々だったよな。言っちゃ悪いけど」
「違和感は別に感じませんでしたわね」
馬から落馬して頭痛が痛いとか言いそうなキョウちゃんなので訂正しないことにした。
「えっと、何かありました?おかしいとことか」
「いえ、至って普通でした。普通」
普通だと思っているのならどうして聞いたんだろう。何かおかしいと思うところがあったから聞いてきたんじゃないのだろうか。全員無傷、時間もおそらく申し分ない。それでも気に食わないところ。どこだろう。思ったより強くなったもんだから?わたし達が。嫉妬?んなもん入るわけないか。
「……ナギ」
「あっ、ごめん、聞いてなかった」
「……違う。大丈夫……?」
多少顔に出てしまったのか、心配されてしまった。
「うん、大丈夫。ちょっと考え事してた。何かおかしなところあったかなって。ごめんね」
わざと聞こえるように言ってみたが後悔した。怒られたら嫌だ。四季さんとケンカしていいことなんてひとつもない。
「私も……普通だった……」
おいうちかけないでサラちゃん。お願いだから。必死に四季さんが何か言ってこないように願っていたがただ黙って助手席に座っているだけだった。わたし達の違和感を考えておいでなのだろう。
第八話 僕はもう登場しないけどいつか読ませて おわり
to be continued……




