第十話
日曜の昼、わたし達は先輩含め全員四季さん達の家に集まっていた。金曜の幹部戦を終え大事を取って翌日はわたし達チームはおやすみ、先輩達に襲来防衛をお任せし土曜はゆっくりと過ごしほんじつ日曜日。この前話した通りナナの世界、冥界に行く。今はそのための手続きを行っている。
「行くって、階段か何か出てくんのか?」
「天への階段を上っていくんですの?目立ちますわね」
それはなさそうだが、確かに階段のイメージ、いやもしかしたら天国的なものではなく地下や平行世界の可能性もあるのか。
「ワープと言うのが正しいですかね。階段、空へと伸びるわかりやすいものではなく、パンと空間転移する感じですね。少し霊力で自分を包む必要はありますが、そこまでの衝撃ではないので」
「の、準備が出来たよ、みんな」
ナナがふわと飛ぶ。冥界、どんなところだろうか。
「皆さん、行きましょうか。多少の防御を。ナナ、お願いします」
霊力を開放、軽く全身に纏う。これだけでも生身の体で攻撃を受けるのとは断然違うようで、それすらもなく戦う四季先輩の勇気と覚悟。自信があった、いや、それはないか。それまで戦闘のいろはを知らない先輩が、思慮深い先輩が軽率にいけるでしょうと判断しないはず。やはり勇気と覚悟。そんな四季さん率いるチームとわたし達。追いつけ追い越せって方が難しい。
「行くよ、みんな」
ぐわと空間が曲がる。体に負荷がかかっていたが軽く動きに制限がかかるくらいだった。体感八秒くらいか、歪んだ空間が戻る。
「お屋敷ですわ」
「お屋敷だな」
「……お屋敷」
妖精のいる世界のお姫様に会いにいくという話から洋風のお城を考えていたかそうか、ナナは和っぽいし敵も鬼、お姫様の名前は姫巫女と、高家の貴族が住んでいそうな場所の条件が整っていた。
「さて、行きましょうか。もう解除して大丈夫ですよ」
前行く先輩たちについていき屋敷の中に入る。玄関で靴を脱ぎ長い廊下に。ナナの世界ということだが外にも中にも似たような妖精は見られなかった。
「随分と和、してんな」
「大和女子はこういった場所に似合ってこそですわよ?チカさん」
しゃなりしゃなりキョウちゃんは得意げに歩いていたが残念ながら前にいる四季先輩のがこの場に合うというか、ここに住んでいても違和感はなさそうだった。
「ようこそいらっしゃいまし、巫女の皆様」
角を曲がるとふわふわ飛んでいる妖精が出てきた。おお、ナナの仲間。犬耳を垂らしているが顔は違う、同じ固体が沢山いるわけではないみたいだ。
「こんにちは、姫巫女様に会いにきました」
「お待ちしておりまし。こちらですどうぞ」
ナナには持っていない口癖、ナナが特別なのかこの子が特別なのか。
「し?」
「し」
大きなふすまが開く。
「失礼いたします」
先輩達に続き部屋に入る。きらびやかな部屋の奥、これまたきらびやかな椅子に座る女性がいた。指を絡めふわりと微笑を保つとんでもなく美人な彼女が姫巫女、様、で、伸びた黒髪、いわゆる巫女服に身を包んだその姿にわたし達は圧巻していた。霊力、ハンパない。
「よくきたの、そちらの五人は久しぶり、じゃな?」
「ご無沙汰しております、姫巫女様。我々は五年ほど前にお会いしています」
「おお、覚えておる覚えておるよ。悪いの、如何せん年寄りじゃて。と、どうぞ座るとよいぞ」
わたし達の前に椅子が出現。霊力によるものだろうか、いつだか話していた物質生成のもののようだが、こんな簡単にできるものなのか。年寄りとのことだが二十代後半くらいにしか見えない。歳をとらないのだろうか。
「遠慮なく」
「さて、今回の鬼の話じゃな。お主らの頑張りが実り敵さんの側近は殲滅しているようじゃ。あとは王将のみ」
「やはりそうですか」
「その王将じゃがの、妾の子が」
「妾とか言うんですのね」
「しっ黙ってて」
駄目だ、この子は。
「以前話したとは思うが前の五人よ、お主らは神楽姫へと変貌しておる故王将と戦うことはできんよ。此度に覚醒し巫女となったそちらの四人が出向き成敗、お主らの世界に平和が訪れるというわけじゃ」
「今すぐにというわけにはいきませんが」
わたし達四人を一瞥する姫巫女様。
「そのようじゃな」
ああ、わたし達が弱いって話か。また。いや、いいんだけど。
「とりあえずはひと段落、訓練を重ねてから挑んでもらおうと思っています」
「そうかえ、新規の四人さんよ、名前は何という」
わたし達はそれぞれ自己紹介をする。
「頑張りよ」
「あっ、はい。がんばり、ます」
弱いなりに頑張りますよ、ええ。
「おおよその見当じゃがの、敵さんの王将、その力量はこの五人程度じゃ。もうちと弱いかの。良い勝負できるくらいになれば、お主らの世界を救えるじゃろうよ」
「四季さん達を……」
「おっそろしいですわ」
「戦えっかな。数でも不利だってのに」
難しい。そりゃ出会った当初に比べたら差は縮まっているはずで、でも対等に戦えるとは思えない。
「訓練して、加えてあちらに行く時は姫巫女様が能力の底上げをしてくださいます。常に再生の欠片を使っているレベルでの戦闘が可能で、その状態ならばわたし達を上回ることも可能です」
四季さんの言葉だが、しかし本当に敵の総大将は先輩達レベルなんだろうか。いや、あれだけ敵幹部を手玉に取れる先輩で、そういえば以前一度世界を救っているんだ。しかしやはり。
「そうじゃの、訓練の際に妾の子に言えば力を送るように決めておこうか。常にそうすることは不可能じゃが」
何かしらの理由があるんだろうか。
「今対当する敵以外にもな、お主らの世界を侵攻しようと考える奴さんはいるんじゃよ。その防衛にある程度の備えは必要で、じゃが、今回の敵さんの突破がとりあえずの目標になる故、ある程度は添えさせていただこうよ」
わたしの心を読んだか。
「わたし達も五年前に聞いた話なんですよ」
四季さんにも読まれていた。
「姫巫女様、お伺いしたいことが」
「神楽姫について、かの」
「はい」
わたし達の話ではなさそうだった。
「それについてはこちらでも大まかにしかわかっておらんのだよ。お主ら巫女に対抗するため解析し、侵入そのものを妨害するよう設けたようじゃ」
「解除することは難しいですか」
そうか、その条件がクリアされればわたし達はいらないのか。って駄目だ、ネガティブに考えてしまう。
「敵さんも中々知恵が働くようでな。霊力の素質が曰く解除に向いた熟練の巫女が生まれれば、あるいは」
現状では難しいの、と姫巫女様は髪を触った。
「ありがとうございます」
「さてさてお主ら方、しばしゆるりとしていくのかえ?」
「どうするの?四季」
「そうですね、皆さんどうします?観光はできませんが」
観光。そうかここは異世界なのか。言語も日本語だし妖精にも見慣れているせいで。空も雲も雰囲気もまるで地球だがここは違う世界で、でもやっぱり実感はない。
「その、お邪魔かなと、思うんです、ので」
なんとなく居心地が悪かった。
「はあ、やっぱり地球はいいですわね」
キョウちゃんが伸びをしながらつぶやく。四季さん達の部屋に戻ってきたが、あちらも地球だった気がしてならない。
「さて、どうします?一度、戦ってみますか?」
四季さんがふわりと笑っていた。そうだ、さっきの話の。先輩達と十分に戦えるくらいじゃないと敵のボスは倒せないんだ。でも。
「今日の襲来は、どうするんですか」
「それもわたし達でやります。もう対多数の雑魚戦の練習はありませんから」
「ああ、そうだな、後は敵の大ボス一体だけだもんな」
「それは恐らくなんですが、もう皆さんは対多数戦においてもう十分以上なので。教えなくても戦えますよ」
十分以上。わたし達は褒められていた。
「マジか。嬉しいわな、なんか」
「当然ですわ」
「すみません」
「でもさ、これ言っちゃアレだけど敵の大ボスは多分一体だろ?対五人で戦うのってシミュレーションにはならなくね?いや強いのと戦うってのはいいんだけどさ」
それはわたしも考えていた。分裂でもしてくるならともかく。
「そればっかりはそうなんですが、ですが個人で敵総大将のシミュレートできるほどわたし達も個人個人は強くないので。シングルコンバットの実力で行くと桐子がナンバーワンですが」
「……私?」
控えめに言っているのだろうか。まあ自分が一番とは言えないか。わたしはやはりリーダーということもあり四季さんが一位だと思うが。
「四季さんじゃねーのか?」
「サシでの勝負はともかく、個人で何相手でも勝てるで言うと間違いなく桐子ですね」
「むずがゆいよ。何?やってみる?四季」
桐子さんは笑っていたが少しだけ、しかし確実に空気が重かった。
「ふふ、今は皆さんの特訓を頑張りましょう」
「あー、うん。そうだね」
空気は消えていたが、この二人は仲が悪いのだろうか。二人はとても大人で、とても憧れる雰囲気を持っているがひょっとしたら派閥みたいなのがあって、そういえば出会いも少しぴりぴりしたとか言っていた。
「できるだけ仮想総大将となれるようこちらも頑張りますので、皆さんも」
「あ、はいっ」
それでは早速行きましょうか、と玄関に向かう先輩についていった。
--------------------
「回線ですが、こちらが切り替えます。作戦聞こえたらちょっと違いますしね」
インカムの周波数を切り替える。適度の緊張感がナナの作った空間を包んでいた。後輩組は少し緊張が過ぎているかもしれない。しばらく時間をくださいと作戦会議をしていたが、どうしてくれるだろうか、楽しみだ。
『四季、どうすんの?』
低い声で桐子。
「一回、全力で戦いましょう。支障をきたさない程度に」
手首を鳴らす。両手に銃を持った。
「特記能力のみを押し出します。わたしと桐子で前、リセは遠隔から、楯は全員の防御、ひかりは中距離で凝縮ショットを」
んん、と喉を鳴らす。
「皆さん、行きますよ」
叫び、息を吸ってから桐子と前に出る。全員が身構えていた。
「桐子」
『んっ!』
前衛のチカちゃんに桐子が第一撃を加える。形状変化で作った剣の切り払いを感知したチカちゃんは拡散神楽でハルバートを操り弾いたが、びりと顔をこわばらせていた。
「がっ!」
たじろぐチカちゃんに銃を向けた跳躍したところでわたしに向かい四発の霊力弾が飛んできたが気にせず二発撃ち込むが、いきなり発生し飛んだ精霊が体当たりし相殺した。サラちゃんがあらかじめ、なるほど。供給された大きな霊力をしっかり使いこなしている。
『防いじゃうよん!』
わたしへの攻撃は楯の壁が防ぐ。何よりも先にわたしを潰そうとしてきたナギちゃんの判断は正しいだろう。開始と同時に集中砲火を浴びせるのがベストだっただろうが。
「ん」
キョウちゃんが武器も出さず両手をあわせていた。なるほど全力全開の重力神楽の威力は十分敵の動きを止めるのに役立つようだ。が。
「これ、斥力変換すると無効化できますね」
右手の銃を消し片手を突き上げる。先の幹部戦で敵幹部が使ったらしいが、その上で三人と戦うとなるとやはり敵の幹部はわたし達個人より実力は上だ。
「効いてませんわ!」
キョウちゃんが叫ぶ。楯の壁の安心感たるやだったが凝縮したのだろう何発かの霊力弾のあと突っ込んできた精霊により壁を貫通する。一歩下がったところで光線が精霊を貫く。
「ナイスです、ひかり」
自ら判断したかナギちゃんの指示か全力から軽めに威力変更したキョウちゃんが重力神楽をわたしに出しつつこちらに突っ込んできた。
『準備オッケ』
「楯、一時的に解除を。リセ、チカちゃんから倒します」
『行くよ!』
リセの氷属性神楽が桐子と切り結ぶチカちゃんに向かい飛び、わたし達が避けたところで
「今っ!!」
リセの神楽がチカちゃんに当たる前に地面に突き刺さる。なるほど神楽そのものにキョウちゃんの重力神楽を当て沈めたのか。ぐいとチカちゃんがこちらに飛び手をかざす。打ってきた拡散霊力を桐子が形状変化で傘を作り防ぐ。
「中々だね」
「ええ」
改めて銃を両手に装備。傘を閉じたところで桐子とともに一歩下がった。銃をまわす。
「底力は上がっているとはいえ」
単純な能力だけではない、しっかりと育ってくれている。わたしの心は軽く震えている。素敵だ。
「ですが」
喉を二度鳴らし合図を送る。わたしに切りかかるチカちゃんの攻撃を桐子が防ぎ二度三度切り結んでから蹴り飛ばす。フォローに入るキョウちゃんを13本の光線が襲うのと同時にサラちゃんを壁が囲いその内側でリセの設置神楽が発動。起き上がるチカちゃんを壁で突き上げ桐子が追撃をかける。わたしに突っ込んでくるナギちゃん。避けた掌底の先から出した霊力弾がわたしを追尾し向かってくる。一発撃ち込み消しながら攻撃を避ける。
「悪くないですよ、ナギちゃん」
「はっ!!」
わたしが攻撃特化の設定をしていなかったら銃弾一発では相殺できなかっただろう。中距離アタッカーの割りに十分な接近戦のスキルを持っているが、十分ではわたしに勝てない。攻撃後の硬直を狙い二発腹部に撃ち込む。
「が、はっ!!」
「はい、終了です。ナギちゃん、大丈夫ですか」
倒れこむナギちゃんに近寄る。
「い、いったァ……なにこれ、死んじゃいそ」
「他の皆さんも介抱してあげてください。大丈夫ですよナギちゃん、気を楽にして」
「はー、はー」
『チカちゃんは大丈夫』
「了解です。インカム周波数戻しましょう」
インカムを切り替える。四人の荒い息遣いが聞こえてきた。
「皆さん、少しゆっくり休んでください。よく戦いました」
武器をしまう。
『四季、どうする?家で休んでもらう?』
「そうですね、シート倒して、車で休んでもらいましょう。今日は疲れたでしょうし少ししたら送って解散で大丈夫です」
『今日の襲来は?』
「わたしとリセで対応します。楯は皆さんが回復するまで待っていただきますが、お二人は先にお送りしますよ」
ナギちゃんを持ち上げる。
「なんか、ズキズキ止まんないんですけど」
「ごめんなさい、痛かったですね。でも、よく頑張りましたよ」
「ほ、んとですか」
お腹をさすり厳しい表情をとるナギちゃん。
「ええ。これからさらに磨き上げれば、きっとすぐですよ」
「えっと、ほかのみ、みみんなは」
「やられちゃいましたけど、皆さん大丈夫ですよ。成長ぷりにびっくりしてます」
髪をなでる。
「が、がんばり、いてて、がんばります、ね」
唇を噛み目をつぶったナギちゃんを車まで運んだ。
--------------------
先輩達にボコボコのボコボコにやられてから約二週間。実力をはかるためだったのか強さを見せ付けるためだったのかそれチーム戦を繰り返したわけではなく、わたし達個人個人の能力向上に時間を使った。姫巫女様に供給され過剰な霊力を初日から無我夢中でコントロールしようと気を張ったおかげか震えたくなる体を戦闘で自由に動かすことが数日で出来るようになっていた。
「腰痛くね?」
三度腰を叩き苦い顔をするチカちゃん。桐子先輩が接近戦をマンツーマンで、リセ先輩から大型霊力の使いどころを詰め込まれているが、特に桐子先輩はスパルタ色が強くへとへととしている。桐子先輩の教え方がいいのかチカちゃんの腕がいいのか、わたしはどちらもだと思うがメキメキと強くなっている。徒手戦闘はもうかなわないだろう。
「つらいようなら言ったら?慢性的になったら良くないよ?」
「慢性的って何ですの?いえ知ってはいますわよ」
「……ずっと、って、意味……」
「それは困りますわね。腰の痛が慢性的はよろしくないですわ」
わたし達チームのコメディちゃんはさすがのコメディぷりだった。コメディちゃんことキョウちゃんは対先輩戦で披露した『大技潰し』を使いこなすため楯先輩に防御のイロハを、桐子先輩から接近戦のサブアタッカーの練習を教わっている。コメディちゃんは思ったより飲み込みが早いようで敵のボスの攻撃を十分捌けるよんとの楯先輩のお墨付きだ。
「コメ、違うやキョウちゃんは腰、てか体大丈夫?」
「余裕のしゃくしゃくですわ」
自称華麗にポーズを決めるコメさん。美人のアホポーズは魅力的なのだろうか。
「サラちゃんは大丈夫?」
「……うん……大丈夫」
ゆっくりと頷くサラちゃん。多角的な攻撃をひかり先輩から、補助攻撃と発動タイミングについてをリセ先輩から教わっている。サラちゃんの素質スキルが特殊なこともあり教えるのも難しいらしいが着々と能力は向上している。神楽を攻防使い分けるリセ先輩からそのあたりも教わっているらしいが粗相はないだろうか。サラちゃんは失礼人間ではないが口数が少ないので少しだけ心配だ。
「みんなの努力の結晶なんだよ」
机中央で寝るナナの体がびくりと浮きそんな言葉を放つ。寝言か。
「結晶らしいよ」
「なんだよ結晶って。平和な妖精だなこいつは」
「ナギさんは大丈夫ですの?たまに別メニューでしてよ?」
四季先輩から教わっているわたし。曰く中距離アタッカーとして、リーダーとしてのノウハウを実戦と座学それぞれ習っている。予想される敵総大将の攻撃パターンとその対策、的確な指示の出し方、頭に叩き込むだけでなく反射的に行えるよう体に覚えさせられている。全員のできることできないことと状況の把握が大事とのことだがわたしは四季先輩ほど周りが見えない。難しいが、まあわたしがやるしかないことだった。
「体はそうでもないけど、割と頭が」
頭が疲れるというのも贅沢な話だが。単純な一対一にも付き合ってもらい、それにより自分の戦闘における改善点も見つけてきている。浮き彫りになるよう戦ってくれているとしたらやはりさすがの四季先輩だった。
「な、これが終わったら、どっか遊びに行こうぜ。先輩達とも行くけど、四人で」
「あらチカさん、それはかの有名な死亡フラグですわよ?」
「じゃ、三人で行こうぜ。ナギ、サラ」
「ウラギリですわ酷いですわ!いえ私行かないとはいっておりませんの。嫌ですわ早とちりは」
「そうだね、のんびり、んー、のんびりしてた時もあったけど、本当にのんびりってのは最近してないもんね」
「……行く」
もうすぐこの戦いも終わる。そうしたら遊んで、普通に恋愛でもして大学行って、そのときにまた敵が現れたらきっとわたし達にも後輩が出来て、あー、先輩達のように振舞えるだろうか。いやそんな先のことはいいか。
「皆お待たせー!今日の特訓のお時間だよー!」
元気良く楯先輩。わたし達全員とハイタッチを交わす。
「疲れてるかもだけど、頑張ろうね」
手を合わせながらひかり先輩。ウインクのおまけつきだ。
「大変なのは見てわかるけど、今は頑張って欲しい。ごめんね」
気を使って桐子先輩。チカちゃんがおうとか返していた。
「終わったらご飯食べていってね、リクエストもどうぞ」
にこりリとセ先輩。コメディちゃんのハヤシライスですわにイエスを送った。
「さて皆さん行きましょうか」
会計伝票を手に四季先輩。わたし達の喫茶店代を総額いくら払ってくれたことだろう。
「ふう」
ため息が出る。格好良かった。
「そろそろ戻りましょうか」
襲来を間に挟み訓練終了のお知らせ。額の汗を拭う。少し右でばたとチカちゃんが倒れていた。
「ちょ、大丈夫ー?」
「あ、ああー。はー、駄目だ、動きたくねー」
「お疲れ様」
近寄っていく際優しく頭を撫でる桐子先輩の姿があった。わたしも倒れれば、あるいは。
「動かないと帰れないよ」
「じゃ、ここがあたしの家だ。良く来たナギ」
「どんな理屈よ」
「いやもうクッタクタ。すげー頑張ったから」
「あら、その調子じゃリセさんの食事にはありつけませんわね。私が二人分いただきますわ」
「おう太れデブ」
「なっ!」
「……疲れた」
くいと立ち上がるチカちゃん。ははと笑いお尻を払った。
「皆さん、お疲れ様でした。ご飯食べてってください」
「はい、ありがとうございます」
「皆さん」
だれるわたし達の前に先輩達が並ぶ。
「もう皆さんに特訓の必要はありません。今の皆さんなら敵の世界に行って総大将を倒せるでしょう」
二秒か三秒かさらにか、わたしはその言葉の理解に時間がかかった。
「と、いいますと」
なんて情け無い返事をする始末。
「強くなりましたね。体調を整え、世界を救いに行ってきてください」
「おいマジか」
「早かった、ですわね」
「……うん」
顔を見合わせるわたし達。
「わたし達全員と姫巫女様にも交信をしていただき、大丈夫だという結論に至りました。タイミングは皆さんにお任せします。皆さんの勝利を、待っていますね」
拍手の音。先輩達が鳴らしていた。胸が目頭が熱くなってくる。月並みだな、わたしは。卒業式の帽子を投げる気持ちがわかった気がするだとか、ロスタイムで逆転ゴールを決めただとか、そんな例えがすぐに思いつけばよかった。
「さ、帰りましょう、皆さん今日はお祝いです、車に乗ってください」
「っし!元気出てきた」
「食事ですわお祝いですわ」
「……ハヤシライス」
「うん。……うん。あのっ」
先歩く先輩達が振り返る。震える心が収まらない。
「ありがとう、ございます」
「いえ、こちらこそ」
第十話 傷つくことも承知で凛と咲いていたい おわり
to be continued……




