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これからの日々は 新天地で

 ゲームの中にいると思っていたのなら……あの無茶苦茶っぷりも何となく分からこともない……かな? おかしいって思えよ! という気持ちもあるけど。

「アナタの考え、聞かせてくれる?」

「えぇと……そう……ですね……以前、学園でお会いした時に、彼女が追いかけて来たことがありましたよね?」

「……あったわね、そんなことが……」

 苦虫を嚙み潰したような顔で、アト様が言う。思い出したくもない、と全身が訴えている。



「特に深く考えはしなかったけど、あの年代の知り合いはいないのに、どうしてアタシのことを知っているのか、不思議ではあったのよね。……それってもしかして……アタシもそのゲームに出てたってこと?」

「可能性は十分考えられると思います。この手のゲームって、売れると続編が出たり、オマケ要素を追加したものが出たりするんです。あたしは知らないけれど、彼女はそれを知っていたのかも知れません。大逆ハーでしたっけ? そういう終わり方があったのかも……?」



「嫌だ。考えただけで、ぞっとするわ……。──と言うことは、転移子もゲームに?」

「かも知れません。それを確かめる方法はありませんけど」

 ご自分の両腕をさすりながら、アト様は身体をぶるっと震わせた。もしかしたら、キアランたちのようになっていたかもしれないと思うと、体が震う気持ちも分かる。



「ゲームでリセットしたら、どうなるの?」

「記録を保存したところまで戻れます。つまり、やり直しですね」

「……なるほどねえ……。転移子は時間を遡る法術の研究もしているらしいわ」

 とはいえ、資金や技術面などの問題で、研究はちっとも進んでいないそうだ。

「ま、それはともかく、あの子もこれでようやく目が覚めるんじゃないかしら? 仮に博打に乗ったとしても、それはあの子が自分でやったことだし──」

 どちらにしろ、こっちには関係ないことだわとアト様は肩をすくめた。



「ところで、今まで完全にスルーしていましたけど、こちらのお嬢さんは?」

 あたしの隣には、同い年くらいのお嬢さんが座っていたのである。袖を通しているのはメイド服なので、アト様のところで働いているんだろうけど……

「ラファエロを覚えているかしら? ルドラッシュ村でちびことバドさんが温泉を掘り当てた時にいたって聞いてるんだけど」

「警備隊の隊長さんですよね?」

「そう。この子、ラファエロの妹なのよ」

「初めまして! エリザベートと申します!」

 お嬢さんは、深々と頭を下げて自己紹介してくれた。



「アウト」

「ふぇ!?」

 すかさずアト様が厳しい声でダメ出しをする。エリザベートは、弾かれたように顔を上げた。涙目になってるけど、判定は覆らないわよ。自己紹介は、マナー違反。というより、品のないことだとされている。

「アウトの理由は、後で教えてもらいなさい。この子のことを簡単に説明すると、人手不足解消の手っ取り早い方法として、警備隊に所属していた隊員やその家族に声をかけてるのよ」

 元隊員なら、村のトンデモぶりは知っているし、家族にも説明してもらえるので、諸々の手間が省けると考えたのだとか。



「エリザベートには、アナタの侍女兼秘書をしてもらおうと思って」

 侍女は必要ないと思うけど、秘書はいてもらった方が助かるかも知れない。なんせ、やることは山積みなのだ。頭の回転が優れているというわけでもないので、助けは必要である。

「ありがとうございます。エリザって、呼ばせてもらっていいかしら?」

「は、はい! もちろんです。えっと……? あたしは何とお呼びしたら──?」

「マリエでいいわ」

「では、マリエ様とお呼びさせていただきます」

「ええ。これから、よろしくお願いするわね」

「あたしの方こそ、よろしくお願いします!」



 座ったままの彼女が頭を下げたその時、馬車がガッタンと揺れた。おっと思ったものの、あたしは特に問題なし。でも、エリザは座席から転げ落ちてしまう。

「ちょっと、大丈夫?!」

「どこかぶつけたりしていない?」

「は、はい。大丈夫です。びっくりした~……」

 びっくりしたのは、あたしとアト様もだ。



 外から御者が

「申し訳ありません。石に乗り上げたようで……障りはございませんでしたでしょうか?」

「大丈夫よ。でも、気を付けてちょうだい」

 アト様が返事をすると、もう一度「申し訳ありません」と返答があった。馬車は、時々こういうことがあるから、困る。自動車のタイヤとは違うから、仕方がないんだけど。



「2つ目のところで、なんですが……アト様、言葉遣いよろしいんですか?」

「色々と面倒臭くなってきたのよ。色々と」

 どこかやけっぱちになっているような気もしないではないけど、アト様が決めたことにとやかくは言うまい。どんな言葉遣いだろうと、アト様はアト様なんだし。





 さて、侯爵家を出たあたしは、ヘシュキアにあるアト様のお屋敷を経由して、ラダンスのニュンパイヤー城へ。転移陣を使っての移動なので、疲れたとか、そういうのは全くなし。

 転移陣の上に乗って、チリン。はい、到着ってもんだから、旅情なんてありゃしないわ。



 ニュンパイヤー城は、ルーベンス辺境伯の居城であり、その優美な佇まいで国内外に知られた名前である。小高い丘の上に建つ青い尖塔を幾つも持った、白いお城。丘の北側は森になっていて、東南には堀。堀の水面に映るニュンパイヤー城も綺麗だったわ。

 当然のことながら、お城の中も素敵よ。上品で優雅な内装。優しくて柔らかな雰囲気。アト様とフランチェスカ様のお人柄が分かるわよねぇ。



「村へは一瞬で行けるのだから、少しゆっくりしていきなさいな。あちらに行ってしまったら、忙しくてゆっくりなんてできなくなりそうだもの」

 と、フランチェスカ様に勧められ、ニュンパイヤー城には1週間ほど滞在することになってしまった。

 チトセさんとちびちゃんの恨めしそうな視線が思い浮かんだものの、フランチェスカ様には逆らえません。



 さて、お城はもちろんのこと、ラダンスもとても綺麗な街だった。角を曲がる度に「素敵ねえ」とため息がこぼれそうになる。

 あたしの観光に付き合ってくれるエリザも「そうでしょう?!」と誇らしげ。

 街のあちこちに銅像やブロンズ像があり、広場には必ずと言っていいほど、噴水があって彫刻で飾られていた。建物も凝った物が多く、住んでいる人は当たり前のように花を育てているようで、どの家の軒先にも鉢植えが並んでいる。



 広場では、街角音楽家が自慢の演奏や歌声を披露し、街の人たちから拍手を貰ったり、スルーされたり。公園やちょっと大きな通りでは、必ず1人か2人、キャンバスに向かう人を見かける。

 さすが、芸術の都ラダンスである。

 今は演劇も盛んなようで、宣伝を兼ねた即興劇の他、大道芸人たちも集まってきているのだとか。

 毎日、色んな催しが開催されていて、目移りしてしまう。



 とはいえ、滞在中は、遊んでばかりでもいられなかった。村の開発計画に関わる人たちとの顔合わせをしたり、打ち合わせをしたり。ローザ様や村長も来て、意見を交わし合う。

 商会から、アタッカーズギルドを切り離すのなら、当然、新しい建物が必要になる。その規模をどうするのか。設備は? 人員は? 冒険者ギルドも招聘するのか? などに始まり、アト様やランスロット殿下、魔族側、ヴァラコの責任者の住まいなども必要になるだろうし、警備隊との連携はどうする、などと言ったことなど、問題は山積みだ。



 ホント、一週間の滞在なんてあっという間。

「マリエちゃん、もう行っちゃうの~?」

「フランチェスカ様……さすがにそろそろあちらへ行かないと、チトセさんが……」

 キレそう。

 ローザ様から、日に日に目がすわってきていると聞かされては、早くいかねば、という気になる。それに、フランチェスカ様のお言葉じゃないけど、ラダンスもニュンパイヤー城も逃げないので、あちらが落ち着いたら、また遊びに来るつもりでいる。



「きっとよ~」

 ぐずぐず泣いて別れを惜しんで下さるフランチェスカ様としっかり約束をして、ニュンパイヤー城から、ルドラッシュ村の商会へ。

「おねえちゃ、おしょい!」

「ごめんなさいね、ちびちゃん」

 出迎えてくれたちびちゃんには、ダンダンと足を鳴らして不満をアピールされてしまった。チトセさんには、「待ってたよ~」という声と共にハグされてしまった。



 商会のホールに連れられて行けば、村中の人たちから歓迎を受けた。その中には、見知った顔も。

「姫さん、いらっしゃい!」

 三つ子も村に戻って来ていたようだ。彼らとの再会を喜び、集まってくれたみなさんへ、

「本日から、こちらでお世話になります、マリエール・シオンと申します。どうぞ、マリエと呼んで下さい。至らぬ点もあるかと思いますが、よろしくお願いいたします」

 元気よく挨拶をする。あたたかい拍手とともに「よろしく」とか「いらっしゃい」という声をかけてもらえた。



 不安がないと言えば、嘘になるけど……新城真理江から、マリエール・シオンになった時とは、不安の種類が違う。

 新しい毎日は、きっと、刺激的で楽しいものに違いないわ! ここでの生活、思いっきり楽しまなくちゃ!

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 何とか完結にこぎつけることができました。こうして続けてこられたのも、ひとえに皆様のお蔭だと思っています。皆さまのお言葉が何よりの励みでした。本当に、ありがとうございます。

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