第20話(最終回):『美味しいお茶と過保護な旦那様、これから始まるスローライフ』
「甘利マドカ。……いや、今日からは、マドカ・レオンハートだな」
お屋敷の広大な庭園に設えられた、真っ白な祭壇の前
優しく私の名前を呼んだギルバート様は、普段の漆黒の鎧ではなく、仕立ての良い純白の礼服を身に纏っていた。
乱れた黒髪をきっちりと整え、サファイアさながらの碧眼を愛おしそうに細めるその姿は、おとぎ話の王子様そのもので、小柄な私は見上げているだけで息が止まりそうになる。
ブラック企業でサビ残に追われ、深夜の給湯室から「おまけ」としてこの世界に放り捨てられたあの日から数ヶ月。
無能と罵られた元社畜OLの私は今、帝国最強の騎士団長様の『妻』になろうとしていた。
「はい、ギルバート様。……これから一生、よろしくお願いしますね」
私が真っ白なドレスの裾を少し揺らし、ちんまりとした身体で満面の笑みを浮かべると、ギルバート様はフッと大人の色気が駄々漏れな極上の笑みを浮かべた。
お屋敷の庭に並べられたテーブルには、今日のために私が魔法収納から解禁した日本の『高級緑茶』と、菜園の素材をフル活用した特製の和食披露宴メニューがズラリと並んでいる。
「皆様! 旦那様とマドカ様の輝かしい未来に――乾杯でございます!」
老執事バルトさんの丁寧な掛け声とともに、参列した黒狼騎士団の部下たちやお屋敷のメイドさんたちが、一斉に湯呑みを掲げた。
「おめでとうございます、団長! マドカ様!」
「この緑茶というお茶、香りが高くて最高に美味いぞ!」
「マドカ様の和食のおかげで、俺たちは世界一幸せな騎士団だ――っっっ!!」
ガタイの良い騎士たちが大号泣しながらおにぎりや出汁巻き卵を頬張り、お屋敷は温かい祝福の拍手に包まれる 。
パーティーが一段落した夕暮れ時。
私はギルバート様に手を引かれ、すべての始まりの場所である、お屋敷の裏庭の菜園へと足を運んでいた 。
夕日のオレンジ色の光が、青々と育ったネギや大根の葉を優しく照らしている。
「マドカ。俺をお前という女神に出会わせるために、あの王国が愚かな真似をしてくれたのだと思うと、今ではあの連中にすら感謝したくなるな」
「もう、ギルバート様ったら。でも……私も、ここでギルバート様に拾ってもらえて、本当に良かったです」
私が彼の広い胸にちんまりと額を預けると、ギルバート様は愛おしさが臨界点を突破したような熱い碧眼で私を見つめ、そのまま私の小さな腰を引き寄せた。
一度目の口づけは、触れるだけの優しい誓い。
二度目の口づけは、角度を変えて、私の吐息をすべて奪い去るような、深く、甘い、大人の男としての熱烈な愛の証明。
「ん……っ、ギルバート、様……」
「愛している、マドカ。……この屋敷から、俺の腕から、一生出すつもりはないからな。覚悟しろ、俺の可愛い奥さん」
耳元で囁く低くて色気のある声に、私の心臓のメーターは新婚初日から早くも限界を迎えそうだった。
(うう、やっぱりこのお兄さん、夫婦になっても過保護と独占欲が限界突破してます……!)
だけど、終わらない残業もない、怒鳴る上司もいないこの世界で、大好きな旦那様に甘々に溺愛されながら美味しいご飯を食べる毎日は、間違いなく世界一幸せなスローライフだ。
「はい! 覚悟の上です、旦那様!」
美味しいお味噌汁の香りと、変わらない最高の過保護に包まれながら、私はこれから始まる甘い新婚生活に、最上級の幸せな悲鳴を心の中で上げるのだった。
(完)
完結です。
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