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第8話 二条統

 一時限目に入っても、二条を囲んだ質問会は終わらず、生徒に強くでられない、優しい現代文教員の浜中先生が涙目のまま、授業は終わった。


 浜中先生、強く生きろ。


 その後の二時限目、切れたら怖いゴリマッチョ島崎先生の数学の授業が始まって、ようやく教室は収まりを見せた。


「おい、二条」


「なんだい?平塚拓也くん」


「……フルネームで呼ぶのやめてくんね?普通に平塚でいいよ」


「分かった。拓也くん」


「…………うぜぇ。まあいいや、それよりなんで俺の名前を知ってんだ?」


 そう聞いた俺の顔を見て、不思議そうな顔をする二条。


「それは逆に僕が聞きたいんだけれど。なぜ君は僕の名前を知っていたんだい?」


 どう答えたらいい?もしかしなくても、こいつは俺が昨日、『二条統』とネット検索した事を知っている。


 ここは正直にトピカさんの話をしてもいいのだろうか?とりあえずいったんごまかして答えるか?


 …………いや、トピカさんには二条統を頼れって言われてるんだよな。そして私の名前を出せば協力するだろうとも。


 余計なことは考えないで、馬鹿正直に聞いてみよう。俺は馬鹿なんだし。


 馬鹿は深いこと考えるな、はげるぞ、って父親が言っていた。


「いや、トピカさんって人に二条統を探せって言われて…………ど、どうした?」


 俺がトピカさんの名前を出した途端、急に二条が立ち上がった。


「トピカ……だと…………!?」


 今の今まで余裕の笑みを崩さなかった二条の顔が、急激に色を失っていく。やばい、まずかったか?


 そういえば、俺の親父、はげてるな。これ駄目なやつじゃん。


「お前、トピカ様とはどういう関係なんや!?」


「えっと、トピカさんの……眷属?だけど。てか口調変わってんぞ。座れよ。島崎先生めっちゃこっち見てんじゃねぇか」


 俺の言うことを聞いてくれたのか、二条の頭が下がる。しかし、その頭は座る時の位置を通り越してどんどん地面に近づいていく。


「トピカ様の眷属様がおられるとは思ってませんでした。ホンマに許してください。何でもしますから!!」


 二条は綺麗な土下座を決めた。




「転校初日の同級生を土下座させるなんて、お前、大層な身分だなぁ!?」


 俺は島崎先生にブチギレられ、廊下に立たされていた。


 授業が終わって教室に戻ろうとすると今度はクラスメイトに、


「二条君に何してんだてめぇ!!」


 とブチギレられて、三時限目も教室に戻れなかった。


「お前達、ここまで一緒に苦楽を共にしてきた同級生より、ぽっと出の転校生の味方をするのか!」


 俺は精一杯の抵抗を見せたが、


「ふんっ、十億ぐらいかけて整形してから言え」

 

 鼻で笑われた。やっぱりイケメンはずるい。


 ちなみに教師は一限目と同じ、生徒に強くでられない古文も担当の浜中先生だ。皆に言われるがまま俺を教室の外に残して授業を始めた。


 浜中先生、マジでもうちょっと強く生きてくんね?




 そんなこんなで四時限目、理科の授業。移動教室の理科室で、俺は早々に二条の元へ向かった。

 

 すると立ち塞がるクラスメイト。


「ちょっと二条と話があるんだが」


「知るか。二条君に近寄るな。この屑が」


 唾を吐き捨てる勢いだ。


 ちょっと待て、今日一日で俺の評価がその辺の蟻以下になっている。泣きそう。


 そんな中助け船を出したのは、渦中の二条だった。


「ちょっと待ってくれないか、森橋さん。僕も拓也くんと話をしたいと思っていたのだよ。大丈夫だから、二人きりにしてはくれないだろうか?」


「二条君がそういうなら、しょうがないけど…………こんなゴミと喋っていると、二条君が汚れちゃうよ?」


 いつも真面目で優しい、クラスで一番頼れる森橋さんは、一体どこへ行ってしまったんだろう。


 それに対して二条本人も苦笑をしながら森橋さんを遠ざける。本来理科の実験は5人一組でやるんだけど、構わず無視して二人きりになった俺たちは、早速、先ほどの続きを話し始めた。


「おい、急に土下座なんてするんじゃねぇよ。俺、明日からクラスメイトと会話すらしてもらえるか怪しいんですけど」


 二条は少し申し訳なさそうな顔をして、


「それは悪かったね。いやなに、君が急にトピカ様の名前を出すから驚いてしまったじゃないか」


「なに、お前トピカさんと知り合いなの?」


「知り合い、というか昔、一方的に半殺しにされた仲だよ」


 ずいぶんとドメスティックな関係性だった。


「まぁ、俺も殺されかけたし、人のことは言えねぇか…………」


 俺は思わず遠い目をした。


「それで、拓也くん。君はトピカ様に、僕を探すように言われたのかい?それはまた、どうしてなんだろうか?返答によっては、僕は百年ぐらい誰もいない秘境の地に身を隠そうと思うのだけれど」


「うん、気持ちは分かるけどビビりすぎだろ。えっと、俺がお前を探すのは、神の力の使い方を教わるためだ」


 俺は二条に、トピカさんに出会った経緯、そしてトピカさんに眷属を殺せと命じられた事を伝えた。


「そんなことなら、いくらでも教えるけれども、本当にそれだけかい?後々になって、お前サンドバッグになれよ、とか言い出さないだろうね?」


 二条がビビりすぎて、若干キャラ崩壊してきている。トピカさんに一体、どんな事をされたんだろう。


「でも、教えてくれるのか。なんか、もっと苦労するかと思ったから、あっけないな。なんか、教えるためには試練を受けないといけないとかじゃなくて良かった」


「まともに話の通じる眷属は、あまりいないからね。僕が最後に他の眷属と喋ったのは七十年ぐらい前かな?とにかく、僕も君に会えてうれしいんだよ」


 そういえば、トピカさんと会ったあの謎空間いた、あの緑の鬼。あれも何かの眷属だったのか。あの空間では、眷属じゃないと死んでしまうって、トピカさんいってたし。


 てことはあれか、眷属と戦うって、ああいう化け物と戦うことになるのか?


 …………なんかすごい不安になってきた。まぁ、人を殺す事に比べればましなのかな?


「でもさ、俺、そもそも神の力っていうのが未だになんなのか理解してないんだけど、それでも大丈夫?」


「君は神の力を手に入れたばかりなんだろう?だとしたら力を使えなくて当然だよ。今でこそ僕も神の力をうまく使えるようになったけど、力を与えられてから二百年ぐらいはうまく使えなかったものだよ」


 どこからか櫛を取り出して、ちょろっとおりてきた前髪を几帳面に直す二条。




 …………うん。さっきから気になってた。こいつなんかさっきからちょこちょこと、百年とか七十年とか二百年とか、十六、十七歳のスケールじゃあねぇだろ。てか人間のスケールじゃない。


「お前、高校生じゃないの?何歳なの?てかそもそも人間なの?」


「君は少し、失礼な奴だね。僕は人間だよ?数千年生きているだけの、一般的な成人男性だよ?」


「数千年生きている奴が一般的な訳ねぇだろ」


 なんだよ。喋ってるうちに親近感湧いてきてたのに。こいつも相当やばい奴だった。


「じゃあ、放課後になったら、あまり人のいない場所に連れて行ってくれないだろうか僕はこの町に来たばかりだからね。そこで二人っきりで、手取り足取り教えてあげるよ」


「その言い方は誤解されるからやめてくれ」






 二条を学校から連れ出すのは大変に苦労した。


 短縮授業のため、四時限目が終わってすぐに出発しようとしたわけだけど、帰りのHRが終わった瞬間、本日二度目の二条質問会が始まり、俺は手を出せなくなった。

 そろそろ…………、っていってクラスメイトをかき分けて二条を連れて出そうとしたら、誰かに手を噛まれたんだぜ?我を忘れすぎだろ。


 そんな知能指数が下がったクラスメイト達(主に女子)から脱出出来たのは二条のおかげだ。


 いや、おかげとは言いたくないな。脱出出来たのは二条のせいだ。


「これから僕は拓也くんに、この町を案内してもらう予定なんだ」


 そういう二条に対して、クラスメイト達は口々にまくしたてる。


「町の案内だったら私がやってあげるよ!」

「いやいや、私がする!」

「ブラ見せてあげるから、私と行こう!?」

「なにおぅ!?じゃあ私はパンツを見せるわ!」

「私は生乳よ!」

「胸タッチ!」

「触ってあげるわ!」

「最後まで!」


 とまぁ、二条を賭けたこの世で最も下劣なオークションが始まる中、二条が爆弾を投下する。


「皆の気持ちはとてもありがたいのだけれども、僕は拓也くんじゃないと駄目なんだ。拓也くんと二人っきりがいいのさ。ごめんね」


 それを聞いたクラスメイト達は、殴られたかのような衝撃を受ける。


「なん……だと……」

「まさか、そちら側の人間だと……!!」

「なんてことだ……」

「いや、むしろ…………」

「二条君が受け……?いや、ここは二条君が攻めかしら?」

「てことは、俺にもチャンスが…………!?


 半分ぐらいやばい奴混じってるな。




 俺達はそんなクラスメイトから逃げるように教室を後にした。怨嗟の目を向けるやつらよりも、笑顔で親指を立てるやつらの方が怖かった。


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