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第7話 学生生活最大のビッグイベント

 そんなこんなで学校についた。校門の近くに来ると、人気者の桜子にはいつも友達が寄ってくる。今日エンカウントしたのは生徒会長の早川先輩だ。俺達の一個上の三年生になる。


「あら、桜子さん。ご機嫌よう」


 早川先輩は優雅な喋りで近づいてくる。仮に扇子とか持っていても違和感がない気がする和風美女だ。


「おはようございます。早川先輩」


「早川先輩だなんて、彩、と下の名前で呼んでくれて構わないのよ」


「分かりました。早川先輩」


「……………まぁいいわ」


 納得いってない顔の早川先輩は、俺の方を一瞥してあからさまに嫌な顔をする。


「あら、隣りにいるのは、誰だったかしら?」


「二年の平塚拓也です。先輩、毎日俺の名前聞きますね」


「あらあら、それは悪いわね。桜子さんの輝きに比べて、ずいぶん汚いので、すぐ記憶から消してしまっていたわ」


 嘲笑を浮かべる早川先輩。幻聴で、おーほっほっほ!と言う笑い声が聞こえる気がする。


 早川先輩は家が由緒正しい家系らしく、そのせいかエリート意識みたいなのがすごくて、桜子みたいな所謂優秀な人間には優しいが、それ以外に対してはあたりが結構キツい。だから俺、苦手なんだよなぁ。早くこの場から立ち去りたい。


「すいません、早川先輩。ちょっと急いでいるので、失礼しますね」


 桜子がそう言うやいなや、俺の手を掴んでずんずん学校の方へ歩いていく。あらやだ、桜子てば出来る子じゃないのっ………!


「ちょっと、桜子さん………」


 後ろで呼びかける早川先輩を無視して、桜子に手を引かれる状態で俺は進んでいく。そうして校門を通り抜けて昇降口近くで、桜子が言う。


「ごめん拓也、私、早川先輩苦手で」


「いや、俺も苦手だから、むしろありがとうと言いたい」


「それなら良かった」


「………それより、手を離してはいただけないでしょうか?皆さん見てますし」


「え?………あっ、ふぇっ!ご、ごめん!」


 桜子が赤い顔で慌てて手を離す。


 ちなみに早川先輩に言われたような事は割と色んな人から言われる。桜子はこの学校で男女問わず人気が高い。そんな桜子と幼馴染だからって割とよく一緒にいる俺が気に入らないんだろう。俺はそこまでに気にならないけど、桜子に迷惑が掛かるのだけは避けないといけないと思う、今日この頃の俺だ。


「じゃあ、また後で」


「あっ、う、うん」


 そういってそそくさと桜子と別れる。桜子とは教室が違うからな。

 

 桜子は特進クラスっていう、エリートが集まるクラスにいる。特進クラスは普通の教室とは離れた所にあり、桜子いわく、なんか高級ホテルみたい、らしい。床は絨毯が敷かれていて、机椅子は高級品。飲み放題のドリンクバーとかもあるらしいよ?………ちなみに俺は水だけは冷水機で飲み放題の、普通の二年二組に在籍している。


 この学校は昨今の平等主義に完全に反してやがる。くそったれ。




 教室について、クラスメートと朝の挨拶をしていたら、チャイムがなって、担任の片山先生が入ってきた。


 ちなみに片山先生は眼鏡の女教師で、担当は歴史。そして滅茶苦茶せっかちだ。まだ一学期なのに進路の確定を迫ってくる。


「ほら、お前ら席につけ!もうチャイムは鳴ってるぞ!」


 まだ全員席について無いのに片山先生はHRを始める。


「今日は前に連絡があった通り、午後に業者立ち入りで水道とガスの工事があるから、短縮授業だ。間違えて弁当持ってきたやつはちゃんと帰るまでに食べとけよ」


「先生が早弁を推奨しないでくださーい」


 どっかから声があがって、笑いが起きる。


「それより、大事な連絡がある。実は今日からこのクラスに転校生が来る」


 教室全体が、突然のビックイベントにどよめいた。そんな中、クラス委員の森橋さんが先生に問いかける。


「先生、それは突然じゃないですか。事前に連絡とかもらってないですけど」


「うるさい。私だって今日の朝聞かされてビックリしてるんだ。だから質問とかは受け付けない。聞きたいことがあったら本人に聞け。………おい二条、入ってきていいぞ」


 いやぁ、今日も片山先生は適当だなぁ。




 ………今、二条っていった?


 教室の扉がガラガラと音を立てて開いた。


 現れたのは、身長180cm越えのイケメン。きちっと固めたツーブロックは黒髪だが、これで金髪とかだったら確実に、どこの国の方?ってなる。俺と同じ制服着てんのに、なんか華やかさが違いすぎる。


 入ってきた彼を見て、クラスの女子は息を呑む。普通イケメン転校生なんてきたら、姦しくなるはずだが、口を開ける程に思考が動く者は皆無だった。


 彼のオーラは、そんじょそこらのイケメンとは別格だった。男子ですら見惚れてしまう彼と比べれば、クラス一のイケメンと称される橋本くんも、道端の石ころの様だ。


 そんな中、俺はみんなと同じように何だあのイケメン具合!?、と驚きつつ、別の思いも抱いていた。


 偶然だよな?トピカさんに二条統という男を捜せといわれ、何の気なしにネットで検索してみたら、検索結果は昨今有り得ないまさかのゼロ件。そして寝て起きて学校に来たら、突然の転校生、名前は二条。


 偶然だよ…………な?


 クラスの時間が止まる中、彼、二条と呼ばれた男がしゃべり出す。


「初めまして皆々様。親の仕事の都合で、京都の方から引っ越してきました、名前を二条統と申します。東京に来るのは初めてなので、分からない事もたくさんあると思いますが、是非是非仲良くして頂けると幸いです」

 

 


 これ偶然じゃないわ。


 だって下の名前まで合ってるし、教室に入ってからずっと目が合ってる。

 

 え?怖すぎない?ネットで検索しただけだよ?それで何で彼がここに?


 クラスメイトは未だ、塩顔イケメンのにこやかスマイルから目が離せない。

 

 教室の中で、唯一自我を保っている片山先生がニヤニヤとしながら口を開く。

 

「お前ら、さっきまでの職員室と同じ反応をしてくれて嬉しいぞ。傍から見るとアホみたいだな。よし二条、あそこ、後ろに一個空いてる席があるだろ。そこがお前の席だ」


 そう言って二条を座らせる。


 まて、このクラスで空いている席っていったら、


「おっと、ここか。ああ、平塚拓也くん、今日からよろしく頼むよ。京都から来た訳だから、京からよろしく頼むとでも言っておこうか。……ぷぷっ」


 そんな事を言いながら、俺の隣に座った。


 どうして名前を知っているのかは後回しにして、今言うべき事は、


「くっそつまんねぇな」

 

 俺は条件反射的に、得体の知れない男、二条統の親父ギャグに突っ込んでいた。


「ふむ、初対面の人間にそんな酷いことをいわれるなんて、初めてだ。とても貴重な経験をありがとう」


「初対面の人間に名前を知られている事の方が貴重な経験だけどな…………まあ、直近で2回目だけど」


 改めて、二条の方を見る。


 彼は俺と話している間も、ずっと貼り付けたような笑みを崩さない。どこにでもある学校用の椅子に座りながら、優雅に足を組んでいる。他の人間がやれば少し滑稽に見えるかもしれないけど、彼がやると様になっている。嫉妬すら浮かばない完璧さだ。


 何ていったらいいかな、貴族的、とでも表そうか。


 庶民的な教室の中で、あまりにも異彩を放っている。桜子のような優秀な奴がいる特進クラスにでもいけば、少しは馴染む気がするが、そこにもここまでのオーラを持った奴はいないだろう。


「平塚拓也くん、そんなに見つめられると、少し恥ずかしい。悪いけど、君の気持ちには応えられないよ。なにぶん、僕には男色の気はないもんでね」


「別にそんなつもりはねぇよ!!てかそれで言うと、周りの皆もお前を見てるじゃねえか」


「おっと、そうみたいだね。僕は君の事しか見ていなかったもんだから、気がつかなかったよ」


「いや、やっぱりお前、その気があるだろ!!」


 くそっ、なんか喋ってると調子狂わされる。俺、こんなに初対面の人に強く突っ込むこと無いんだぞ?

 

「待て、そんな事はどうでもいい。今俺が聞きたいのは、なんで俺の名前を知っっと、うおっ!ちょっと待っ……!」


「二条君!京都からきたって本当!?」


「二条君!すごくかっこいいけど、モデルさんだったりする!?」


「二条君!ご趣味は!?」


 本題に入ろうとした俺は、二条のイケメン攻撃で状態異常に陥っていたクラスメイトの復帰後横スマッシュによって、自分の席から吹っ飛ばされた。


「痛ってぇ…………」


 座っていた席の方を見てみると教室にいたクラスメイトのほぼ全員が群がっていて、二条の姿が埋もれて見えなくなっていた。先ほどまで、静寂に包まれていた教室が嘘のようなお祭り騒ぎだ。


 そんな混乱の中、教卓の方で頭をかきながら、


「おいお前ら……まだHR終わってないんだが……しょうがない、おい森橋!ちょっとこっち来い!連絡事項はお前にだけ伝えておく」


 そう言った片山先生に、二条の囲みに参加しようとしていたクラス委員の森橋さんが捕まった。森橋さんは物凄い残念そうな顔をしている。どんまい。

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