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謎の男

その部屋は酷く薄汚れた部屋だった。


 何十年も人の出入りが無く、電気も通っていない。まるでこの部屋だけが過去に取り残されたような有様だった。


 入り口に張られた蜘蛛の巣を手でかき分けて部屋に入ったフード付きの外套を着た男は、この部屋唯一の光源になり得る壁際の蝋燭に持っていた松明を使って火を灯すと、一歩後ろを付いてきていたメイドに指示を出した。


 メイドは肩に背負っていた赤髪の男を無造作に床へ放り投げた。赤髪の男が地面に落ちると共に、部屋に長い間で蓄積した埃がぶわっと舞う。外套の男は口元を服で隠し、メイドは顔を背けることで対処する。


「……ぐっ!」


 床に投げられた赤髪の男は痛みで目を覚ます。


「ここは何……ごほっ、ごほっ!」


 口と目を開いた事で埃が体内に侵入する。赤髪の男は一通りむせかえり、ようやく落ち着いた所で部屋の入り口にいる二人組に気が付いた。


「ごほっ!…………おい、お前らは誰だ!ここは何処だ!」


外套の男はそれを無視すると、懐から取り出した紙に何かを書いてメイドに渡した。


 メイドはその紙を確認すると、


「確かに」


 といって、その場から立ち去ろうとする。


 赤髪の男はその様子を見て、一つ気が付いた。


「おい、そこのメイド!お前、早川の令嬢んとこのメイドだろ!?確か………かな……だっけか?おいかな、何が起きているか説明しろ!」


 唾をまき散らしながら叫ぶ赤髪の男。


 メイドは俺を見ている。だから命令をすれば聞く。


 そういう確信を持った叫びだった。


 しかし、予想に彼の予想に反して、メイドは彼を一瞥すると、そのまま部屋の外、暗い通路の奥へと消えていった。


「お、おい!ちょっと待てよ、なんで無視するんだ!かな!止まれ!……くそっ!名前が違うのか?おい、かな……子!かなえ!」


 赤髪の男の叫びは虚空にむなしく消えていく。


 自分の力が失われたものだと考えもしない彼は混乱している。


 そんな彼を見てため息をつく外套の男。


「君にはもう少し期待していたんだけどね…………五十嵐くん」


 名前を呼ばれた赤髪の男、五十嵐翔は自分の名前を呼んだ男の方をみる。


「おい、お前なんで俺の名前を知ってるんだ!」


「やだなぁ、前に会ったじゃないか。忘れるなんてひどいなぁ」


「あぁ?お前なんて知らねぇよ!くそが!…………まぁいい、おいお前、ここは何処か説明しろ」


 こんな状況でも態度を変えない五十嵐に男は面白いものを見るような視線を向ける。


「えっとね、ここはもう使われていないビルの地下だよ。ビルの地上部分はよく子供達のたまり場になっているんだけど、この部屋は入り口が分かりづらいから長い間誰も来ていなかったみたいだね」


 に答える男。そのゆったりとした様子に五十嵐は苛立ちを隠せない。


「おいお前何余裕ぶっこいてるんだよ。くそが。なんで俺がここにいるんだよ。さっきまで令嬢の屋敷に居たはずなのに…………って、いってぇ」


 そういいながら思い出したように後頭部を押さえる五十嵐。触ってみるとぶつけたのかたんこぶが出来ている。しかしいつ出来たものなのか前後の記憶が定かではなく分からなかった。


「君はこっぴどくやられたんだ。せっかく僕が挙げた力も奪われてしまって、まったく、とんだ期待外れだったね」


 男は残念だというが、声にはほとんど感情が含まれていない。


「力……?」


 そういわれて、五十嵐は思い出す。


「お前!あの時の…………」


 五十嵐が不思議な力を使える様になった日の前日に五十嵐の自宅に侵入していた謎の男だ。結局次の日警察を呼んだが、人の侵入した気配が無いと言われてしまっていた。


 自分の夢か何かと思って忘れていた五十嵐だが顔を見て思いだす。あの時のあいつだと。


「お前は何者なんだよ…………」


 その時の不思議さと、現在の状況の不可解さで薄気味悪いものを感じ声が小さくなる五十嵐。


「僕はねぇ、なんで君に力を与えたと思う?君が力を集めるのに適した人材だと思ったからだよ。実際君は随分と力を集めたみたいだね。それはよかった。だけど最後にうばわれてちゃあ意味が無い」


 五十嵐は男の話が理解出来ずにいる。


「力を与えた?何言ってるんだ?」


 それを無視して、話を続ける男。それは五十嵐に話しかけていると言うより、ただの独り言のようだ。


「まぁ、君が失敗したのは僕の責任でもある。君の意思は素晴らしいが思っていたより頭が良くなかったみたいだね。それを見極める事が出来なかった事は僕とした事が判断ミスだったね」


 混乱していた五十嵐だったが失礼な事を言う男に対して、段々と苛立ちを覚えていく。


「おい、てめぇさっきから偉そうに何言ってやがる。ぶち殺すぞ」


 そういって光の剣を出して脅そうとする。この状況は普通じゃ無い。てことは目の前の男を殺してもいいだろう、と考える五十嵐は生まれながらの狂気がある。


 しかし、五十嵐の思惑は外れる。呼吸をするように出す事が出来る光の剣が、出ない。


「あ?なんだ?」


「だから、僕があげた力は奪われたといっただろう?」


「僕があげた力?何言ってんだ、この力は俺の才能だ。神に愛された俺の特権だ!」


 それを聞いて、男は大きくため息をつく。


「うーん。聞いている分には面白いんだけど、やっぱりバカすぎたな……これだけ殺しの才能がある子は少ないから飛びついてしまったけど、今度から気をつけよう」


 そういってきびすを返し、部屋を後にしようとする男。


「お、おい待てよ!何処行くんだ!」


 何処だから分からない場所に置いていこうとする男を追いかけるために立ち上がろうとする五十嵐。


 しかし足に力が入らず立ち上がる事が出来なかった。


「な、なんだ?力が入らねぇ……」


「ああ、ごめん。運ぶときに足の関節外したんだ」


 なんてこと無しに言う男。五十嵐はそれを受けて自分の足を見ると、赤く腫れ上がっていた。


「な……何しやがる……てか、まじで何なんだよ!ここから出せよ!」


「はあ、レアな力をあげたけど、もったいなかったな。まぁ今回は高い勉強料だったって事であきらめるか」


 五十嵐の叫びを無視して男は部屋の外へ出る。


「おい!俺が誰だか分かってんのか!俺は五十嵐翔だぞ!」


 わめく五十嵐を一瞥すると、男は部屋の扉に手をかける。


 扉は金属の重厚感のある扉で、筋力のある人でも一人で閉めるのは難しいんじゃないかというような重さがあった。


 しかし男が少し力を込めると、扉は金属がこすれる嫌な音を響かせながら閉まっていく。


「じゃあね。来世では上手くやりなよ」


 そういって、扉を閉める男を見て、五十嵐は事態の深刻さを認識する。


「おい、ちょっと待てって!こんなとこに閉じ込めるつもりかよ!おい!おい!!」


 返事は閉じる扉の音だった。


 蝋燭の光がゆらりと揺れて、五十嵐の影も揺れる。部屋の中には静寂が訪れる。


「くそくそくそ!なんだってんだよ………」


 自体がしっかりと理解しないままで進んで行き、五十嵐はぶつける相手のない怒りを吐き捨てる。


 とりあえずこの部屋を出たい。そのために何か役に立つものはないかと周りを見渡す。


 すると部屋のはじに何かが積み重なって居るのが見えた。


 五十嵐は這ってそちらに近づく。


 そして間近まで来て招待に気付いた。


「……ひっ!」


 それは人間の頭蓋骨だった。それが何個かある。周りには骨と思わしき物が散乱している。




 それは、五十嵐の将来の姿でもあった。

 

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