第44話 ゲームチェンジャー
俺たちは五十嵐が転がっているというところまでやってきた。
ほのかと早川先輩はパーティ会場の方に行ってもらった。彼女たちは神の力の事を知らないので出来るだけ関わらせない方がいいだろうという事と、先輩が早く桜子の元へ戻りたいと言い出したからだ。
ちなみにほのかは、
「彩お嬢様、私もうメイドじゃないなら会場で飲み食いしてもいいですよね?」
「厳密には招待客じゃないから駄目だけど、まぁ、それぐらいは許してあげるわ」
「よーし、こうなったらやけ食いです。無職なんだ、一ヶ月分ぐらい食いだめしますよ!」
といって先輩について行った。
すっげー図太くて尊敬するわ。
「さて。で、どうするんだ?」
カーテンで簀巻きにされた五十嵐を取り囲むように俺たちはたっている。
五十嵐は気絶させられたみたいだけど既に目覚めていた。
「んーーー!んんーー!!」
ただご丁寧に口にもカーテンを突っ込まれていて声にならない叫びを上げていた。
…………さすがに可愛そうになってきた。
「なぁ、猿ぐつわだけでもとってあげちゃだめかな?」
「だめよ」
現実は非情である。てかアリスさんは非情である。
「僕もアリスさんに賛成かな。彼は自分に注目していて名前の知っている女性を言葉で操る事が出来る。この中で操られるのはアリスくんだけだけど、出来るだけ喋らせない方がいい。ああそうだ。拓也くん、君の妹くんは名前を知られていないから、五十嵐くんの前では名前で呼ばないようにした方がいい」
と、二条が言うので俺は諦めた。てかそんな能力なのかよ。すげぇな。
でもなんで五十嵐はアリスさんの名前を知ってるんだ?
…………そういえばアリスさん普通に名乗ってたな。
「まぁいいや。とりあえず理解した。でもずっとこっちをにらんでるのは怖いな…………」
動物園でも、絶対安全だと分かっていても猛獣の檻の前は避けるビビりな俺です。
と思っていたら、
「はっ!」
「ぐっ……!!」
「…………これでいい?」
「はい…………ありがとうございます」
咲が五十嵐の頭を思いっきり突いた。
うちの妹は躊躇という言葉を知らないのか。結構アリスさんと近しいものを持ってるな。
アリスさんは咲のことを、やるやんけ、的な目で見ている。
「妹よ。お前は地球人なんだと言うことを忘れるなよ」
「……何を言っているの?」
トルクスピカ人と同じ考え方はしないほうがいいぞ。
「さて、拓也くん。早速始めようか」
五十嵐の頭近くに座り込んだ二条が、俺のことを手招きする。
俺は二条の隣に腰を下ろして、二条に訪ねる。
「始めるって、結局何をするんだ?」
ここに来るまでに何回かどういう方法なのか聞いているんだけど、二条は言葉を濁すばかりだった。
「ええっとね、この方法は結構痛みを伴うんだ。具体的には頭が割れるような痛みに襲われると思う。……それだけじゃなくて、今回に関しては……特に拓也くんにとっては精神的な苦痛が伴うかもしれない」
真面目な顔になった二条が俺の目をまっすぐ見る。
普段はにこやかな二条の真剣な顔に俺は少し怖じ気づいて、でもそれを隠すかのようにおちゃらけてみる。
「なんだよ、急にそんな真面目な顔しちゃってさ。俺は大丈夫だよ。てかそんなキメ顔になるなよ。うちの妹がお前に惚れたらどうすんだ。責任取れんのか?……………痛っ」
咲に頭を叩かれながら俺がそう言うと、二条は少しだけいつものような笑顔を取り戻す。
「その場合は喜んでお義兄さんと呼ばせてもらうよ。…………でもね拓也くん。今からやるのは本当に危険な方法なんだ。正直、僕はやりたくないな。…………殺してしまった方がいいかもしれないよ?」
しかし二条はすぐに真剣な顔に戻って俺に問いかける。
おいおい、そこまでいうなんてマジで何をするつもりなんだ?」
「やる事自体は簡単だ。今から僕が君と五十嵐くんの頭を触る。その状態から僕が力を使うと、五十嵐君の記憶が君の頭の中に流れ込む。…………僕の持っている、記憶の神の力を使うとね」
理解が遅れた俺より先にアリスさんが反応した。
「記憶の神?上位神じゃない!あなたそんな力も持っているの!?」
二条は肩を竦めて答える。
「ほんの少しだけね。僕程度の力じゃ、他人の記憶に干渉したりは出来ない。ちょっとのぞき見るくらいが精一杯さ」
てか上位神の力普通によく出てくるな。五十嵐の光神の力とかもそうだけど。
「あれ、ケント達に俺が狙われてた理由って、上位神の力を持ってるからじゃなかったっけ?なんで二条とか五十嵐は狙われないのさ」
「君が狙われた理由は、その力の大きささ。上位神の力はとても強力なものだけど、君ほど大量の力を持っている者はあまりいないんだ。五十嵐や僕のように少しだけ持っている者は結構いるけどね。君の持っている力は、使いこなせば神にも迫るほどの大きな力なんだ。君の力を奪えばこの世界を我が物にだって出来るだろうね。この世界の覇権を争っている眷属達からすれば…………さしずめ君はゲームチェンジャーといったところだろうか」
マジかよ。なんて力を一般人に与えているんだ、トピカさんは。
「でも、逆に言えば世界を救える力でもあるの」
アリスさんが優しく言う。まあ二条が言っていることが正しければ、確かにトルクスピカを救うことも出来るかもしれない。
でもさ…………
「俺が悪い奴で、力を悪用したらどうするのさ。それこそ二条が言うように、世界を我が物にしようとするかもよ?」
俺がそう言うと、二条とアリスさんは顔を見合わせた
「それはないわ」
「それはないだろうね」
笑顔になる二人。
なんでそんなに俺を信用するんだよ。ちょっと簡単に人を信じすぎだと思う。
「たっくんは馬鹿なの。だから悪いことは出来ないの」
咲が俺の後ろからそんなことを呟く。顔は見えないが、声は随分と穏やかだ。
なんだよ、それ。
俺は釈然としないまま、でもやっぱり馬鹿だから考えても無駄だと思って、二条に話の続きを促す。
「なぁ、それで何が危険なんだよ。その記憶を覗き見ることの」
ちょっと映画を見るようなもんじゃないのか?
「…………人の記憶というのはその人を形作るものだ。人そのものといってもいい。単純に何年もの記憶を数秒で見るということ自体が情報量の多さで頭が割れるように痛くなるだろう。でもそれよりも問題なのは、記憶に感情まで含まれているということだ」
「感情…………」
「その人が思った事や感じた事。そのすべてが記憶に含まれている。喜びや悲しみ、怒りなどね。……………それで今回の場合は五十嵐の記憶を拓也くんに送るわけだけど」
二条は気絶して伸びている五十嵐を見つめる。
「…………彼は決して善良な人間とはいえない。そんな人間の記憶を送ると言うことは、とても危険なことだ。下手したら拓也くんの人格を変えてしまうだろう」
「人格を変えるって…………」
五十嵐の記憶に影響されて、五十嵐みたいになるって事か?
「それは最悪だな…………」
正直五十嵐は曲がりなりにもイケメンだ。トップアイドルに上り詰められるぐらい顔が整っている。だからこそ彼はこんな性格でもなんとかやってこれたんだろう。
俺みたいなフツメンで性格が最悪だったらもう……終わりだろ。
「……とはいえ、人殺すよりましかな」
「君が人を殺す事にためらいのない性格になってもかい?」
「えっと…………」
そう言われると困るけど。
俺が口ごもっていると、代わりに咲が答えた。
「大丈夫なの。その時は私が責任を持って引導を渡すわ」
「おい」
「だから、早くやるの」
そう言って俺の背中を押してくる咲。
「ちょっと、待てよ。俺の心の準備が……」
そういって振り返り、咲の顔を見る。
「たっくん。…………私は信じているの」
いつもと同じ表情で言い放つ咲。
「…………咲」
咲に言われて、俺の心は簡単に傾いた。
「二条、俺やるよ」
「……大丈夫かい?」
「ああ、大丈夫だ」
俺は馬鹿だけど、咲がいうなら間違いない。そう思えるぐらいには俺も自分の妹に絶対の信頼を寄せている。
「そうかい?じゃあ…………そうしようか」
二条が一度深呼吸すると、目をつむって五十嵐の頭に触れる。触れたところがほのかに輝くと、二条はあいた方の手を俺に向けてくる。
「いつでもいいよ。僕の手に触れてくれ」
この手に触れれば、始まるのか。
俺は触る前に、アリスさんの顔を見る。
彼女は笑顔で俺を見ながら親指を立ててくる。
「大丈夫よ」
…………ちくしょう、相変わらず可愛いな。
そんなことを思いながら俺は二条の手に触れる。
その瞬間、俺は記憶の中に沈んでいった。




