第43話 解決?
「たっくん!」
「タクヤ!」
咲達と合流したのはすぐ後の事だった。
勢いよく近付いてくる咲とアリスさん。
「おお!二人共……二条も無事か!良かった良かった。………てかどこ行ってたの?」
咲は不機嫌な顔になる。まぁ家族にしか分からないぐらいの変化だけどな。
「……それはこっちのセリフなの。私達が五十嵐に追われてる間に、なんで迷子になってるの?」
「えっと、すいません……?それで五十嵐は?」
「捨ててきたの」
捨ててきたって何?
答えはアリスさんが教えてくれた。
「大丈夫よ。五十嵐は返り討ちにして、身動きが取れないようにしておいたわ。後は拓也がトドメを刺すだけよ」
「あっ、そうなんですか」
いや、刺さないよ?トドメなんて。
まぁでも五十嵐が脅威じゃなくなったのなら、全部解決って事かな。
走ってきた二人に遅れて、二条が歩いてくる。
「二条、お前も大丈夫だったか?」
「僕の心配をしてくれるなんて嬉しいね。大丈夫。何とも無いよ」
「そうか、それは残念だ。…………でも五十嵐相手によく怪我もなかったな」
あいつは滅茶苦茶強かった。二条によると光神は空間の神トピカさんと同じ上位神だって言うじゃないか。まぁ上位神がなんなのかは知らないけど、強敵には違いない。
俺は全然勝てるビジョンが浮かばない。
そんな俺を横目に、二条たちは苦笑いだ。
なんだ?
「たっくんには悪いけど、五十嵐は雑魚だったの。目を瞑っても勝てる相手だったの」
「いやいや、そんな事無いだろ。それが事実だとしたら俺は雑魚以下ってことになるじゃん。はっはっはっ…………」
「大丈夫、タクヤは大丈夫よ」
慰めないでくれ。悲しい気持ちになる。
「まぁでも、運が良かった側面もあるかな。場合によっては全滅もあり得たからね。拓也くんが気を付けろといってくれたおかげで、相手の能力に気が付く事が出来たよ」
二条が上手くフォローしてくれる。やっぱり年の功がある奴は違うな。
アリスさんも見習ってほしい。具体性の無い大丈夫って言葉は、大丈夫じゃ無いって事だとばれてるからね。
「…………まぁいいや。そんで?この後五十嵐はどうするの」
「タクヤがとどめを刺すのよ」
「うん。アリスさん、とどめを刺すって事は、殺すって事ですよね?」
「そうよ。トピカ様にもそう命じられているでしょう?」
そういやその問題が残っていたな。
五十嵐を殺せ。
それがトピカさんが、自分の眷属であるコルクを通じて伝えてきた命令だ。
眷属を殺せば、その者が持っていた力は殺したものに移る。
だから、トピカさんは俺に眷属を殺せって命令をしている。殺して力を溜めろって言ってた。
最終的に全部の眷属を殺すために。
…………いや、やっぱり出来ないよ。いくら考えても。
だけど出来ないとは言えないだろ。だってトピカさん、やらなきゃ世界を滅ぼす的な事言っていたし。
その辺の中学二年生が一日一回言ってそうな言葉、世界を滅ぼす。もし一ヶ月前の俺に突然そんな脅しをしたとしても笑って終わっただろう。
だがその言葉を信じられるほど俺は神の力を味わってきてしまった。
何とか別の方法でトピカさんを納得させられないだろうか。
ないのだろうか。五十嵐を、ひいてはこれから先戦う事になるかもしれない眷属達を殺さないで済む方法が。
だって眷属っていったって一般人から見ればただの人だ。殺したりしたら俺が社会的に死んでしまうよ。
…………うん?社会的に死ぬ?
トピカさんの目的は、眷属を殺す事だ。でも命を奪えとは言われてない。
「そうか」
だったら眷属だけ殺せばいいんだ。
俺は元々神の力を持っていなかった。フェデリコさんから占いの神の力を引き継いだりトピカさんに空間の神の力をもらったりして眷属になったんだ。それまでの俺は、眷属じゃなかった。
つまり、力さえ奪えれば眷属としては死んだといってもいいんじゃないの?
「あの、アリスさん?まぁ二条でもいいんだけど、一個質問です。……相手を殺さずに力を奪う方法って無いの?」
俺は解決策が思い浮かんだと思って、意気揚々と二人に聞く。
俺の前では咲が放っておかれて不貞腐れてるが、もうちょっとだけ待っててくれよ。
ちなみに俺の後ろにいる元メイドとそのご主人様は放っておいても大丈夫そうだ。
二人共、理由は違えど同じ様にだらしない顔で自分の世界に入っている。
片方は想い人の事を考えて。もう片方は職を失ったショックで。
「うーん、殺さずに力だけを奪う方法か…………」
顎に手をやって考える二条。俺は丁度いい所にあった咲の頭に手を乗せて答えを待つ。咲は頭を撫でられるのが好きだからご機嫌取りの意味もある。
「サルザンド家に伝わる方法で、力を譲渡する術式を組むという方法があるわ」
まだ悩む二条に先んじて、アリスさんが答えてくれた。
「ああ、そういえばフェデリコさんがそんな事してたんでしたっけ」
フェデリコさんはもし自分が殺された場合、サルザンド家の誰かに力が継承されるという術式を組んでいたらしい。
「サルザンド家にとって、占いの神の力は何よりも大切なものなの。敵に奪われてしまうわけにはいかないから術式を作ったのよ」
今ではトルクスピカでは一般的なものとなっていて、サルザンド家以外にも広がっているらしい。
昔は神の力を奪うための戦争とかもあったらしい。当然力を持っている者は皆殺しなので、とても悲惨な戦争が繰り返されていたそうだ。
「でも、この術式が出来てからは、そこまで悲惨な戦争の数は減ったわ」
ゼロにならない辺り、トルクスピカの治安の悪さが分かる。
「その術式を五十嵐にさせるっていうのは無理なんですか」
「大がかりな準備が必要になるわ。まず満月の夜にだけハルマエロ高原などの一部の地域に咲くハルマエロ月光花を七輪用意して、それからハクロ樹海に住む輝炎猿の牙と…………」
「あ、もういいです」
トルクスピカ特産の素材が必要なら絶対無理じゃないですか。
「ていうか、フェデリコさんは自分の意思で俺に神の力をくれたんですよね?だったら何とかして五十嵐に力を譲渡させれば……」
フェデリコさんは結局サルザンド家の誰かに力が渡る前に、俺に力を継承させた。だから俺が神の力を持つようになったわけだ。
あの五十嵐が素直に力を渡すとは思えないが、なんか催眠術とか使えば行けないだろうか。…………無理か。
でもまぁ、どちらにしろ殺すよりはいい選択だと思う。
そう思ってアリスさんを見るが、難しい顔をしていた。
「それは無理ね。フェデリコ叔父さんは非常に強力な力の持ち主だったの。一般的に上位の眷属と呼ばれる程。彼ら上位の眷属は神に近い存在だから、神と同じような事が出来るの。自分の好きな人に力の譲渡をするとかね。五十嵐の実力じゃあ、下位中の下位でしょうから絶対に出来ないわ」
力の譲渡は神の専売特許なのか。それで、神に近い存在の上位の眷属がギリギリ出来るっていう感じなのね。
てかそんなに五十嵐の事を下げないでやってくれ。奴の足下にも及ばない俺の立場がなくなるから。
「…………てことは、トルクスピカにはないのか。今出来る、殺さずに力を奪う方法が……」
「ええ、残念だけどそうね。そもそも殺してしまった方が早いしね」
…………ノーコメントで。
「じゃ、じゃあ二条、お前はなんか方法知らないのか?法に触れないで、なおかつ倫理的な五十嵐から力を方法を」
ずっと悩んだままだった二条が、ためらいがちに口を開く。
「うん、まぁ無い訳じゃあ無いんだけど…………」
けど?




