第33話 ループしてないのにループしてる空気感
「ここは…………」
「うちのトイレですね」
俺たちは早川先輩の屋敷から、自分の家のトイレまで転移していた。
なんでまたトイレなんだ。あれか、心が安まる安全な場所へって願ったからか。
確かに自宅のトイレって、この世で一番落ち着く場所だけども。
「凄いじゃない!」
「うわっと!」
アリスさんが抱きついてきた。
「遂に神の力を使いこなせるようになったのね!」
「いや、まだ使いこなせるって程じゃーー」
「凄い!凄いわ!」
やばい、抱きつく力が強い。てか今更だけど、アリスさんは早川先輩の所で着替えていたから、ドレス着てるんだよな。結構扇状的なデザインのドレスだ。
「ちょっと離れてください。色々当たってるので。このままだとまた俺だけ転移する事になります」
「……なんで?」
「もう少し、アリスさんは自覚した方がいいと思いますけど……」
俺とアリスさんがトイレで騒いでいると、外から足音が聞こえてくる。
「…………たっくん?」
妹の咲だ。
この展開、知ってるんだけど。これループしてない?
いや、よく考えたら前よりヤバい状況かもしれない。
前はフルチンで一人トイレにいた。
今は扇状的なドレスのアリスさんと一緒に二人でトイレにいる。
何でと聞かれても俺には説明は出来ないぞ。ハレンチな理由以外思いつかないもの。
……落ち着け、まだ下半身にズボンを穿いている分、勝機はある。
「お、おう、咲。ただいま」
ドア越しに話しかける俺。
「…………アリスも一緒なの?」
「うん、そうーー」
「えぇ!そんな訳無いじゃ無いか!どうしてそう思うんだい!?」
俺はアリスさんの口を慌てて塞いで答える。
アリスさんと一緒にいる事は知られてはいけない。てか何故アリスさんと一緒って分かった。
「なんかアリスの気配がする」
だから気配ってなんだよ。個人まで特定出来るのかよ。
「……アリスさん、ここは俺に任せて少し静かにしていてもらえますか?」
小声でアリスさんにお願いする。尋常ならざる俺の圧に、アリスさんは訳も分からず頷いた。
「やっぱり、誰かと喋ってない?」
「いや、一人だから!てかそれよりお前、部活はどうしたんだよ。いつもならこの時間は部活にいってるじゃん」
「今日は休みになったの…………誰も家にいないと思ったから二人でイチャイチャしてるの?」
「おおーい!だから一人だって!」
「……私、たっくんが帰ってきて気が付かなかった事無いのに、昨日も今日も何かがおかしいと思うの」
もうアリスさんがいるていで話を進めている咲。
てか誰も家にいないと思うなら、部屋に連れ込めばいいじゃないか。何でトイレに連れ込む。そういうツッコミが入らないって事は、もう俺が常人では推し量れない変態だと咲の中で常識となってしまったのか。
俺はお兄ちゃんとして、咲の頼りになる存在でいたい。
「たっくんの気配なら、百メートル離れていても分かるのに……」
ここからどうにかして兄の威厳を取り戻す方法は無いだろうか。むしろ開き直ってみるか?アリスさんと一緒に堂々とトイレから出てくれば、何も疑問に思わないかもしれない。これが普通だよって感じで。
「おかしい……まるで突然空間を飛び越えて現れたみたい……」
てか今は五十嵐の事を考えないと。あんなやばい奴がいるところに桜子を置いてきてしまった。早く早川先輩の家に戻らないと。あ、でも車で移動したから、先輩の家が何処だか分からないぞ。どうしよう、電話で桜子を呼び出すか?でも俺たちがいなくなった説明はどうしよう……
「ちょっとたっくん!!聞いてるの!?」
「ご、ごめんごめん。何の話だっけ」
ここ数年聞いた事が無い咲の大声に我に返る俺。最近現実逃避に磨きがかかってきた気がする。
「たっくんは、空間転移が出来るの?」
え?何で知ってんの?
「えっと、咲?なんでそんな結論になったの?」
咲は超能力レベルの推理で、正解にたどり着いた。
「だって、昨日の事から総合的に考えると、それ以外考えられないの」
「そんな事ないって、もっと現実的な可能性を考えようよ」
「じゃあ何で?」
「…………えっと」
俺は言葉に詰まって、間が出来る。
その間は長年一緒に暮らした兄妹にとって、答えと等しい。
「ほら、やっぱり転移したんだ」
もう、これは諦めるしかない。
俺はトイレの扉を開けた。
「…………あのな咲、お兄ちゃん超能力使えるようになっちゃった」
リビングに移った俺たちは、食卓に座って顔を合わせている。
「…………というわけで、俺はトピカさんという神様に、空間の神の力を貰った訳だ」
「……ちょっとよく分からないの」
俺は下校中に穴に落ちて、トピカさんに出会うまでの経緯を説明したが、咲は全然ピンときてないらしい。まぁそりゃそうだ。簡単に信じられる話じゃない。
「…………それで、アリスとはどうやって出会ったの?空間を転移させて誘拐してきたの?」
「そんな事してないよ!?……その辺は、アリスさんから聞いた方がいいかもな」
「そうね。じゃあ、何から話しましょうか…………あのね私はこの世界の人間じゃないの」
「…………」
咲は黙って続きを促す。
「トルクスピカっていう世界があってね。私はそこから来たの。今トルクスピカは危機が迫っていて、タクヤの力が必要なの」
「たっくんの力?悪いけど、たっくんは基本的に平均以下の事しか出来ないの。家事だけは得意だけど、それ以外は普通の鈍くさい人間なの。ちょっとばかし空間を操れるからといって、世界を救うなんてたいそれたこと出来るわけがないの」
割とボロクソ言われているが、事実なので聞き逃す。
「いいえ、タクヤは凄いわ。本来、こんなに早く神の力が使えるようになる人はいないの。やっぱりトルクスピカの英雄となる人なのよ」
アリスさんの中での俺の評価が相変わらず高くてむず痒い。
「そんなの無理。いくら世界の危機でもたっくんは渡さないわ」
咲は妹で小学生だけど、俺とか兄貴よりもしっかりしているところがある。
俺の事を心配して、そんな危ない事をさせられないと言っているのだ。
「咲。お前の気持ちは嬉しいよ。でもな、お兄ちゃんトルクスピカを……アリスさんを助けるって決めたんだ。何にも出来ない俺だけど、何かが出来るって言ってくれる人がいる。俺はその人の期待に応えたい」
「なんかいい事風にいってもだめ。たっくんには危ない」
「いい事風とか言うなよ。お兄ちゃん傷つく」
「ほら、こんなに簡単に傷がつくの。トルクスピカとやらに行けば、全身が傷ついて判別が付かなくなるわ。…………人かどうかの」
いや、俺は心の傷の話をしてるんだけど。怖い事言わないでくれない?
話は平行線をたどる。アリスさんは俺の事を英雄だといい、咲は平凡だという。変な言い合いだ。
「二人とも、ごめん。今はそれよりも早川先輩の家に置いてきた桜子が心配なんだ」
「早川先輩?また新しい女?」
「その言い方は聞こえが悪い」
俺はテレビでよく見る五十嵐翔が本当はやべぇ奴で、今桜子が同じ場所にいるから心配だ、という話をした。
「そうなの」
咲は俺の話を素直に受け入れた。
「俺が言うのもなんだけど、割と現実に有り得ない話をしている自覚があるんだけど、信じるの早くない?」
うちの兄貴じゃあるまいし、咲は人の話を何でも信じてしまうタイプじゃ無いはずだ。
「たっくんが嘘を言っているか本当を言っているかなんて、誰だって分かるの。信じがたい話だけど、たっくんは嘘をいってない。だから信じる」
そうか、この時ばかりは何でも表情に出てしまう自分の間抜けさに感謝する。
咲が理解してくれたなら話は早い。一刻も早く桜子に連絡を取らなくちゃ。
そう思って俺がスマホを取り出すと、咲が訳分からない事を言い出した。
「……じゃあ、私も一緒に桜子を助けに行くわ」




