第30話 メイドさんの存在そのものが異世界みたいなもん
一人で放って置かれた俺は、屋敷を探検する事にした。
勝手にウロウロしたら怒られるかと思ったけど、俺に付いてくるメイドさんが何も言わないので大丈夫だろ。
流石に、忘れられてるって事はないよね?
「あの、本当に俺をどうするかとか聞いてないんですか?」
「聞いて無いです」
ツンとした態度で答えるが、しかし俺に歩調を合わせて付いてくるメイドさん。
「そうですか……でもだったら何で付いてくるんですか?まぁ付いてきたいなら付いてきてもらって構わないんですけど」
「当家ではお客様全員に専属のメイドが付きます。別に付いていきたい訳では無いです。あくまで仕事なので。何かお困りの事が有れば最低限お手伝い出来る範囲でお手伝いさせて頂きます」
相変わらず塩対応のメイドさん。てかお客様と接する態度じゃ無い気もするけど、まぁ、いいか。
しかし、俺専属のメイドとは、これまた素晴らしい響きだな。
彼女をよく見てみる。少女のあどけなさと、女性の美しさが入り交じったその顔は、つまらなそうな表情を浮かべている。年は俺と同じか少し上ぐらいだろうか。短く切りそろえた明るい茶色の髪が、少しやんちゃな印象を与える。
…………こんな可愛い子が頼んだら何でもやってくれるのかな。
「変な事頼んだら叫びますよ」
「え!?そ、そんな変な事なんて考えてませんよ?いや本当に、考えて無いですから!俺が頼みたいと思ったのは……そうだ、名前!名前が聞きたかっただけですから!名前、教えて下さい!」
すいません。やましい事考えていました。
やっぱり俺って顔に出やすいのかな。
「…………佐藤ほのかです。使用人の中に佐藤が四人いるので、ほのかとお呼び下さい」
「分かりました、ほのかさん」
若干離れた距離でお辞儀をするほのかさん。
心の距離を感じる。寂しい。
「…………んっ…………ら」
「………して。…………だから」
「…………ん?」
ほのかさんと一緒に屋敷の一階を歩いていると、少し開いた扉から声が聞こえてきた。
「この部屋って何ですか?」
「えっと、確か…………ゲストルームだった気がします。多分。恐らく中には今日のパーティーの参加者の方がいるのでは?」
何の部屋か覚えてないのかよ、と思ったけど、この家はデカすぎて俺でも覚えるのは無理だな。今玄関から一階を一直線に歩いてきたけど、扉の数は十を変えている。そして廊下はまだまだ続いている。
「この家、何部屋あるんですか?」
「知りません」
メイドさんですら把握出来ない広さ。すごいね。
「うん………………から…………」
「もう…………省吾ったら」
中から聞こえてくるのは男女の声。心なしか甘い響きがある。正直凄い気になったけど、さすがに覗いたりするのはプライバシーの侵害だなと思って、通り過ぎようとする。
しかし、
「うわー、あれ、アイドルの五十嵐翔じゃないですか」
思いっきりほのかさんが覗いてた。
おい、メイド。
「ちょっと、なにやってるんですか」
俺は小声で言う。
「いや、だって、気になるじゃ無いですか」
「それは俺も気になりますけど……覗いたら駄目ですよ」
…………と、ちょっと待て。五十嵐翔?
「そんな細かい事気にしているとハゲますよ?ほら、気になるんなら一緒に覗いてしまえばいいじゃ無いですか」
俺はその誘いにのって、少し開いたドアに近づく。五十嵐翔が中にいるのならば、覗くしか無いだろ。
そんな俺を見て、ほのかさんは鼻で笑う。
「結局見たいんじゃ無いですか。真面目ぶっちゃって、このムッツリめ」
「事情が変わったんですよ。てか俺ってお客様じゃないんですか?お客様に失礼な事言わないでくださいよ。メイド失格ですよ」
「メイド失格かどうかは私が決めます。私の辞書には私という項目にそれすなわちメイドである、と載っているので、つまり私は完璧なメイドです」
「そんなの無敵じゃないですか。理論の暴力じゃないですか」
そんな事を小声で言い合っていると、
「あぁん!」
部屋の中から一際大きい嬌声が聞こえてきた。
「あらあら、大胆ですね」
部屋の中を覗くほのかさんはニヤニヤしている。
俺も気になって覗く。
大人だ。大人がいる。
「お客様?なんで離れるんですか」
廊下の窓際まで戦略的撤退をした俺を、楽しそうに眺めるほのかさん。
「ちょっと刺激が強すぎて」
「お子ちゃまですね」
「今は否定しないでおきます」
中にいたのはテレビで見たまんまのイケメン、五十嵐翔と、公共の場では出来ない格好で乱れる別のメイドさんだった。
思春期には刺激が強い。
「あれは…………先輩のメイドのかなさんですね。すっごい、あんな顔しちゃって……あっ、そこ触るの?すごい。そんなやり方が」
「実況しないでもらえますか」
「あれ?そういえば五十嵐翔って十代でしたよね。お客様と同い年ぐらいじゃないですか?」
「覗くなんてやっぱり人として間違った行為です。今すぐやめましょう」
そういって俺はほのかさんを引っ張って連れて行こうとする。
ほのかさんはニヤニヤした顔のまま、ドアの前から離れようとしない。
「あっれれー?もしかして、お客様は童貞……」
「行きましょう!」
俺は思わず大きな声を出してしまった。
中から聞こえていた声が止む。
……やばい。
俺はすぐに扉から離れて逃げ出すが、そこは長い長い一直線の廊下。隠れる場所なんて何処にも無く、
「お前は誰だ?」
割と最悪な形で、五十嵐翔との邂逅となった。




