第28話 リムジン初体験
そんなこんなで、俺たちはリムジンに乗りながら、早川先輩の自宅へ向かっていた。
会う方法すらろくに思いつかなかった五十嵐翔にこんなにも早く接触できることになるとは思わなかった。
ちなみに二条は来なかった。
「面白そうだけど、予定があるんだ、残念だよ」
とか言っていた。
リムジンの中では、先輩が初めて会うアリスさんに興味津々で、質問攻めにしていた。
「アリスさん、貴方何処の国の方なのかしら?」
「サルザンド自治領の出身よ」
「サルザンド自治領?…………聞いた事が無いわね。」
そりゃそうだ。この地球にそんな場所は無い。
「日本に来たのはいつ頃なの?」
「この国の名前が日本であってる?だとしたら昨日よ」
「……ふふ、アリスさんも冗談が上手いわね。昨日来たにしては日本語が上手過ぎないかしら?」
そういって上品に口元を隠して笑う早川先輩。
すいません。マジです。彼女は本気で言ってます。
…………てか、今更だけどアリスさん日本語喋ってるよな。いや本当今更なんだけど。違和感なく喋るからまったく気にしてなかった。
「日本語? 私はトルクスピカ語しか喋れないわ」
「それを日本語で言うなんて、本当に愉快な人だわ」
うん?アリスさんには日本語を喋っている自覚が無い?
どういう事だろうか?
「えっと、アリスさん?それってどういう-ー」
「ちょっと、今私とアリスさんが会話をしているの。邪魔をしないでくれるかしら。というか何故貴方が乗っているの?貴方を招待した覚えは無いのだけど?」
アリスさんに聞こうとしたら、先程まで笑顔だった先輩が、凍るような目つきでこちらを睨み付けてきた。怖い。
当のアリスさんは車の外の日が昇ってから初めて見るこの世界の景色に夢中になって、おー、とかわぁ、とか言っている。可愛い。
先輩は俺を言葉で切り捨てると、車窓に目を奪われているアリスさんにまた話しかけ始めた。
扱いの差が酷い。
そんな様子を俺の横に座って見ていた桜子が、裾を引っ張る。
「ちょっと、早川先輩に睨まれたらあんまりシャレにならないわよ?あんまり刺激しない方がいいわ」
「分かってるけどさ……」
早川先輩は学校内でも非常に影響力が強く、先生の中にもいいなりになっている者がいるらしい。そんな人が本気になったら、学校に居場所は無くなる。
もう既に目をつけられている気もするけど…………
は!もしかして高校に入って友達が出来ないのは、先輩の根回しのせい?
「拓也は小っちゃいときから友達いないでしょ」
「みなまで言うな。俺の心はガラス製だぞ。てか心読まないでくれる?」
「拓也は考えている事が全部顔に出るのよ」
まじかよ。気が付かなかったわ。
「でも、なんでこんなことに…………」
桜子がこの後の事を考えてため息をつく。
俺たちはいつの間にか早川先輩の家に向かってパーティに参加する事になっていた。
元々は体調の悪い桜子のために薬を用意するという目的だったはずだけど、五十嵐翔に会いたいとアリスさんが言い出したために目的が変わった。
「それもこれも、アリスさんのせいよ…………」
「それに関しては俺が代わりに謝るよ。ごめん」
「何で拓也が謝るのよ」
眷属であるらしい五十嵐を殺すのは、俺がコルクを通じてトピカから命令された事だ。アリスさんは俺が神の力を彼から奪って強くなって貰うために動いているに過ぎない。つまりは俺のせいだ。
この神うんぬんの話に、桜子を関わらせたくない。結局大きな怪我とかはしていないが、昨日から何度も命の危機に晒されたんだ。
桜子は俺にとって家族のようなものだ。咲と兄貴の次に大切な存在かもしれない。
「上手い事、すぐに抜け出せるように頑張るから」
「本当?それは助かるけど無理はしないでね?早川先輩には嫌われないように、慎重にしないと」
念を押してくる桜子。その表情は真剣だ。
「桜子って普段先輩と一緒に生徒会の仕事をやってるんだよな?…………お前も、苦労してるんだな」
「否定は出来ないわ。……正直特進クラスを抜けられて、本当にほっとしているの」
特進クラスは言ってしまえば権力者の集まりだ。そんな中に優秀とはいえ一般人の桜子が入るというのは、大変心臓に悪い経験だったんだろうな。
特進クラスの中でも特に校内で力を持つ早川先輩。
「怒らせたら、就職先が無くなると思った方がいいわ」
「…………本当に俺たち大丈夫だよな?この後の事を考えると正直ケントの何倍も怖いんだけど」
「ケントって何よ。…………というかアリスさん、五十嵐翔の大ファンだったのね」
早川先輩と桜子は、そういう風に勘違いしている。本当は殺そうとしているなんて言えないからそのままにしてるけど、
「全然拓也とタイプが違うじゃ無い。あんなキラキラした男に比べて、拓也はこんなにも冴えないわけだし。心配する必要なかったかしら」
「ねぇ、朝咲にも同じような事言われたんだけど、トップアイドルと比較して俺を貶すのやめてくれる?泣くよ?」
俺の抗議も何のその、桜子は先程までと変わって機嫌が良さそうなにやけ顔を浮かべている。
なんか釈然としないんだけど。
それから少しして、
「彩お嬢様、到着いたしました」
という声が壁で仕切られた助手席の方から聞こえてくる。
「そう」
早川先輩は素っ気なく答える。
着いた?車はまだ動いているけど…………
窓から外を見渡すと、車は普通の住宅街の中を走っている。正直な話、早川先輩ほどの金持ちが住むような家は見当たらない。一般的な一軒家が並んでいる。
「えっと、着いたって、どちらが早川先輩のご自宅なんですか?」
同じ疑問を抱いた桜子が聞く。
その質問に先輩は何を言っているの?という表情を浮かべている。
「どちらって、全部ですわ?ここは私の家の敷地だもの。そこに見える家は、住み込みの使用人達の家ですわ」
えっと、マジで?今見えている家全部?
ちょっとスケールがバカになってきてるぞ。
よく見れば、車が通ってきた方向に大きな門がある。車が止まった気配は無かったから、このリムジンが近づいて来たら門が開けられてノンストップで入ってきたんだろう。
大企業の社長令嬢というものを正直舐めてた。俺はバラエティ番組で見るようなお金持ちの家を想像していたけど、真の金持ちって言うのは、ああいうのに出ないんだな。だって、想像を上回りすぎて面白さの欠片も無いもん。
もう引いてる。ドン引きです、こんなの。住む世界が違いすぎるって。もう膝ガックガクですよ。桜子も隣で萎縮している。
だがそんな俺たちと違って、アリスさんはいつも通り凜とした表情で落ち着いている。
アリスさんの話だと、サルザンド家っていうのは名家らしいし、こういうスケール感の生活を送っていたんだろうか。ほら中世ヨーロッパの貴族ってこんなイメージあるじゃん?
トルクスピカがどの程度の文明なのかは知らないけどあながち間違いじゃない気がする。アリスさん自身も黙っているとにじみ出る気品の様なものがあるし。
…………喋り出すとただのバーサーカーだけど。




