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第1話 穴があっても入らない方がいい。

 やべぇ、何だこれ。


 俺の名前は平塚拓也。いつも通り寂しく一人で下校してたら、通学路が途中で途切れていた。いや、よく分かんないよね。俺も今理解できてないもん。


 今俺の前には直径十メートル位の大きな穴があって行く手を塞いでいる。登校する時には無かったその穴は、道の両サイドの家の一部を飲み込みながら、ジワジワと拡大していた。


 シンクホールだっけ?


 なんかニュースで見たことあるぞ。突然穴が空いてしまうってやつ。原因とかまでは覚えて無いけど、世界中で起きてるって話だ。

 

 ただ、禍々しいんだよなぁ。


 穴の中からは、言葉に形容し難いなにか嫌な感じがするのだ。それも強烈に。これが普通の地盤沈下とかではない事は、感覚的に分かった。


 とりあえず、警察呼ぼ。


 ………あれ?圏外だ。おかしい。ここは東京郊外の住宅街の中。圏外になるなんてあり得ない。


 なんか、ちょっと怖いんだけど。


 嫌な予感から逃れるように空を見上げる。すると、ほんのついさっきまで晴れていたはずの空には暗雲が広がって、あたりが少し暗くなっていた。


 やべぇな、何か起きてるでしょ、これ。


 とりあえず、一旦家に帰ろうっと……って、嘘ぉ!?

 

 後ろを振り返ると、さっき歩いてきた道が、無くなっていた。そこには前方と同じように、底の見えない大きな穴が空いていた。


 てか、なんの音もしなかったぞ!?音もせずにこんな大きな穴が開くなんて、あり得るのか?

 

 そう考えてるうちに、足元がグラついてきた。


 やばい、崩れる!!そう思ったときには、既に俺は地面に吸い込まれるように落下していった。




 こ、ここは何処だ?俺は自分の身体を確かめる。どこも痛くない。恐らく長い距離を落下した。そのはずはずなのに、俺の身体には傷一つない。


 てか、落下の途中から記憶がない。目が覚めたら今ここにいた。


 周りを見渡す。俺のいるあたりだけがスポットライトに照らされているように明るく光っている。少し離れたところは漆黒の闇に包まれていて、何も見えない。


 洞窟かなにかの中なのかな?あたりは暗いし、少なくとも屋外ではないだろう。いや、でも何で俺の周りだけ明るいんだ?


 とりあえず立ち上がる。身体を少し動かしてみるが、何も異常はない。やっぱり怪我はしていない。どういうことだ。訳分からん。




 ……こういう時は深く考えてもしょうがない。ポジティブに行こう。たまたま穴に落ちて、たまたま怪我が無かっただけだ。うん。背負ってたリュックがクッションになったんだろう。うん。多分ここも地下鉄か何かの設備だろう。地上からまっすぐ落ちたとすると、ここから数キロ先に地下鉄の駅があった筈だ。そっちに向かって歩いて行けばきっと大丈夫、うんうん。


 ………目の前によだれ垂らした鬼がいるけど、きっと大丈夫。






 俺は走って逃げていた。


 何だあれ!?暗闇の中に光が見えたと思ったら、現れたのは体長三メートルか四メートルぐらいあって、緑色の皮膚に、口から突き出た大きな牙がチャームポイントな化物だった。いや、何だあれ!?二足歩行してたけど、確実に人間じゃない。


 いや、果たしてこの世の生き物なのか?漫画に出てくるオークみたいな見た目してたぞ。


 そんなオークが俺の身長ぐらいある棍棒持って近付いてきたからとりあえず走って逃げた。あの棍棒、なんか赤かったな。もしかして血………

 

 いやいやいやいや、冗談きついぜ!俺は下校中なんだ、下校させろ!!



 



 はぁ、はぁ、もう追ってきてないみたいだな。


 夢中で走っていたら、ずいぶん遠くまで来たみたいだ。見た感じ動きは遅かった。逃げ切れただろう。だけど、怖いから少しでも離れるように歩き続ける。


 マジなんだったんだよ。つーか本当にここは何処なんだ?


 相変わらず周り全部が闇の中だ。何も見えない自分のいる場所だけが明るく照らされて、下を向けば五体満足の自分の体はしっかり見える。


 どういう仕組みなんだろう。自分が歩くと、明かりもついてくる。まるで俺自身が光っているみたいだ。


 後ろを見てみるが、さっきの化物の気配はない。

 

 撒いたよな………?


 とりあえず喉が渇いた。背負ってたリュックから水筒を取り出して飲む。ふぅ。麦茶うめえ。ふと腕時計を見てみる。時刻は表示されていない。


 ………なんか長針と短針がぐるぐる追いかけっこしてるんだけど。




 うん、流石にね、俺も気づいているよ。ここはおかしい。こんな場所がこの世にあるだろうか、いやない。これが俗に言う異世界転移ってやつか?だとしたら、もっとマトモな異世界に飛ばしてください。


 ふと前を見ると、なんか光が見える。誰かいるのか?


 途端に駆け出したくなる。だって滅茶苦茶心細いんだもの。だが、待てと自分に言い聞かせる。そういえばさっきの化け物も明るく光っていた。あの光の正体が分かるまでは慎重になったほうがいい。


 という事で、抜き足差し足で近づく事にした。






 近づいてみると、何だか血生臭い場所だった。


 よく見ると赤い鎧を着た人と、青い鎧を着た人が沢山倒れていて、中には腹に槍が刺さったまま動かない人もいる。見た感じ、戦場って感じ。


 物凄く、臭い。


 嗅いだことはないが、おそらくこの匂いは死臭ってやつじゃなかろうか。しかも静寂さからして、ここにいる人達、皆死んでる?


 …………やばい、吐きそう。


 何でこんなところに、突然戦場が?と思ったが、そもそもここが何処なのかわからない不思議空間である以上考えても無駄な気がする。


「だ、誰か、いるのか?」


 おっと、生きていた人がいたみたいだ。赤い鎧を着た人が息も絶え絶えに話しかけてきた。顔はお面を被っていてよく見えないが、隙間から見える目は焦点が合っていない。さらに体に視線を移すとお腹がどす黒く染まっている。血が出ているのもあるが、それに加えて真っ黒に焦げていて、一部炭化しているんじゃないだろうか。見ていて結構エグい。

 

 なんて言うか、マジで死んじゃう五秒前、って感じだな。

 

 どうしよう。返事をするべきか。でも返事をした瞬間襲いかかってくる可能性もあるし、ここは黙っておこう。


「………ダグラス家の者か………少し待て、どう見てもこれは………致命傷だ。私は………もうすぐ死ぬだろう。だが………死ぬ前に………話を聞いてくれないか?死んだあとに………首を切って持って帰ればいい、なに………サルザンド家の次男………フェデリコ・サルザンドの首だ。一等首級だぞ。褒美は………間違いなしだ。だからせめて、話を聞くぐらい………良いではないか」


 どうしよう、黙ってたら勝手に喋り始めたけど、俺をダグラス家の人間と間違えているぞ。


 何だ、ダグラス家って。


 彼は赤い鎧を着ているし、話の流れから青い鎧の人達がダグラス家の者とやらなのか。


「………沈黙は肯定ととるぞ」


 とるな。


「これだけは………絶対に………伝えておかなければならないから………な。私達は………騙されたのだよ………。すべて………コルマン帝国の陰謀なのだよ。そなた達が………コルマン帝国に、何を………言われたか知っている。サルザンドが………神の子を幽閉していると………言われたのだろう?………驚いて声も出せないか………。何故………知っていると思う?私達も………同じ事を言われたからだ。…………そなた達の当主………、マドガイザー・ダグラスに………伝えてくれ。交渉に来た、コルマン帝国の第三騎士団団長…………メルフェッド・フェルマーレンの正体は………闇の眷属だと。………そして………出来れば、我らが当主アレクシス・サルザンドにも………同じ内容を………伝えてほしい。これは………恐らく私しか………知らない。このままでは………両家共々………全滅だ。私はもう長くない。そなたに………すべてを託す。………最後にそなたの………名を知りたい………名を………なんと申す?」


 ちょっと待って。ホントに死にかけだよな?急にベラベラ喋りだしたぞ?てか一人の名前も覚えれないんだけど、登場人物詰め込みすぎだろ。


 オーケー、ここはこの人の名前だけ覚えとこう。フェデリコ・サルザンドだったか?

 

 俺がそんなことを考えながら黙っていると、


「おい、居ないのか?」


 といって、ゆっくり首を動かすフェデリコさん。


 あっ、やべえこっち向いた。


「………」


 さっきまで焦点が定まっていなかった目だが、今は完全に俺と目が合っている。


 そうして数秒見つめ合うと、フェデリコさんが訝しげに口を開く。


「ヒラツカ………タクヤ?聞き馴染みのない名前………それに………弱すぎる………そなたは誰だ?………ダグラスのものでは………ないな?」


 なんか名前がバレた。


「え?ど、どうして俺の名前…うぉ!」


 そういってなんとなく一歩踏み出した俺は、足元の血貯まりに気が付かず足を滑らせた。


「危ねえ!」


 そういって俺は近くにあった物を掴んだ。誰かの腹に刺さっていた槍ですね、これは。


 嫌なもん掴んじゃった。と思ったら


「!」


 槍は誰かの腹からするりと抜け、俺の体を支える役目を放棄する。人の腹刺すんだったら奥までちゃんと刺しとけよ。そう思いつつ倒れる俺の先には何とかかんとかサルザンドさん。


「おい、ちょっと待て!、うっ!………」


 俺が片手に持った槍の柄の部分がサルザンドさんの腹にジャストミート。


 …………大丈夫。峰打ちだから死にはしないさ。


「す、すみません!大丈夫ですか!」


「何者か知らないが…………タクヤ殿、後は頼んだぞ………」


「サルザンドさん!」


 その後彼は動かなくなった。そして彼が纏っていた光がだんだん弱くなり、最後には消えた。


 俺、平塚拓也が初めて人を殺し、そして初めて特殊能力を得た瞬間だった。

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