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11.斎藤課長は秘密の業務を命じる

変態行為があります。

苦手な方は注意してください!!

 ラブホテルで激しい一夜を共にした翌日。


 これで終わりとすると決めていた麻衣子とは違い、思い出の一夜にはしないと言い張る斎藤課長こと隼人はこれっきりに納得せず、ほとんど泣き落としに近い妥協策として一か月間の「お付き合いお試し期間」を設けることになった。




 ***




 お試し期間中、お互いに恋人として付き合うのは無理だと思ったら上司と部下の関係に戻ること。

 会社関係者には絶対に口外しないことを約束して始まった二人の関係は、男女交際における女性の心理を研究して麻衣子に接する隼人の努力の結果、順調に進んでいた。



 お昼休憩から戻る途中、廊下で眼鏡をかけた“斎藤課長モード”の隼人は見慣れた女子社員の後ろ姿を見付け、ポケットに入れていた付箋へ素早く伝言を書き、彼女に声をかけた。


 勤務時間外、お試しお付き合い中ではない真面目な印象の麻衣子を見て、ときめく心を抑えてあくまで余所行きの顔を彼女に向ける。


「須藤さん、ついでにこれを坂田部長に持って行ってくれないか?」


 持っていたファイルを麻衣子に手渡し、隼人は眼鏡の奥で切れ長の目を細めた。


「坂田部長に渡す前に、書類が合っているか確認して欲しい」

「はい」


 頷いたのを確認した隼人はくるりと背を向けて、何事も無かったかのように隣を歩く男性社員とこの後の会議について話しながら立ち去って行った。


 本音はもう少し話したい。

 しかし話したくても、困ったことに麻衣子の髪から香る自分と同じシャンプーの香りに興奮が湧き上がり、斎藤課長をキープ出来ないのだ。

 隣に若手社員が歩いていなければ、空き部屋へ連れ込み麻衣子を堪能するのにと、若手社員を睨みそうになった。


 会議前に、自販機で珈琲を買いに行くのと少し息抜きをして来ることを口実に、隼人は第3小会議室へ向かった。




 照明も消えて窓のブラインドも下りている室内は薄暗く、内側から鍵をかけて音を立てないようにすれば密会するのにちょうどよい部屋だった。


 用事が無ければほとんど近付かないフロアの端にあり、周囲に公表できない社内恋愛をする社員が密会に使っていたせいで、会議室は常時鍵がかかっている。

 特に鍵がかかっていても不自然さは無い。


(麻衣子さん不足に耐えられなくなったら、この部屋は使えるな)


 此処が密会に使われていたのも頷ける。


 合い鍵を作っておこうとほくそ笑んだ時、廊下から軽い足音が聞こえて隼人は部屋の隅へと移動した。


 音が出ないように慎重に扉を開けた麻衣子は暗がりにうごめく影を目にして悲鳴を上げかけた。

 開いた口を大きな手の平が塞ぎ、悲鳴は声になって出てこなかった。


「しっ、麻衣子さん」


 背後から麻衣子の口を塞いだ隼人は、彼女の髪の香りを堪能しながらそのままゆっくり会議机の側まで歩き、口を覆っていた手を離した。


「もうっどうしたんですか?」

「昨日、会えなかったから、会議前にどうしても会いたかったんだ」


 麻衣子の手を取り、指先へ口付けた隼人の声に拗ねた響きが宿る。


「だって、昨日は」

「分かっているよ。お母さんが来たんだろ? でも、会えなくて寂しかった」


 眉尻を下げた隼人は、一日振りに麻衣子に触れられた嬉しさを隠しきれずに顔を近付かせてキスを強請る。


「待って、今から上の方々と会議があるのでしょう」


 密着しようとする隼人の胸へ、麻衣子は両手を当てて止める。


「そ、退屈な会議。面倒だけど出なきゃならない」

「退屈でも、頑張ってください」

「じゃあ、頑張れるように麻衣子さんを補充させて」


 会議までの短時間で補充する方法は何か考え、眼鏡の奥の瞳を細め、隼人は妖しい笑みを浮かべた。


(一日触れられなかったんだ。会議が終わったらさっさと仕事を終わらせて、麻衣子さん足のケアをしなければ。でも、その前に……)


 この後の展開を予想して高まっていく期待と興奮に、隼人の股間の隼人が猛っていく。


「補充?」


 微笑む隼人から情事前に似た雰囲気を感じ取り、麻衣子はコクリと唾を飲み込む。


「いい?」


 眼鏡を外さないで、わざと隼人は“斎藤課長”の顔での麻衣子に確認を取る。


「はい。斎藤課長」


 目元を赤く染めた“斎藤課長”からの圧は逆らい難く、麻衣子には頷くしか選択肢は無かった。




「麻衣子さん、これから何をすればいいのか分かっているいるよね」

「……はい」


 斎藤課長のモードの隼人に抱き上げられ、会議机の上に座った麻衣子は彼の視線が促す通り、履いていた黒色のハイソックスを脱ぐ。

 昨夜は、麻衣子の母親が急遽彼女に連絡してきたため会えなかった。

 未来の義母に悪い印象を抱かれるのは得策ではないと、「今日は会えない」と言う麻衣子へ笑顔で了承した。



「自分でムダ毛処理しない」と約束した麻衣子が、自宅でムダ毛剃りをしないだろうと信じた通り、ハイソックスを脱いだ彼女の足の完成度は素晴らしく、隼人はゴクリと唾を飲み込む。

 見た目では分からなくても、触れれば伸びてきたムダ毛の存在がよく分かる。

 肌を撫でる度に背中がゾクリとしたもの、悦びが走った。


「ああ、麻衣子さんの脚。はぁっ麻衣子っ」


 床に両膝を突き、かけている眼鏡がずれるほど、一心不乱に隼人は麻衣子の脚に頬擦りする。

 此処が会社でなければ、会議が無ければ、此処が自宅かホテルの一室だったなら彼女を押し倒して抱いてしまうのに。


「んっ、ふぅっ」


 手の平と頬で撫でられる擽ったさと、隼人の恍惚とした表情が情事の時の表情を彷彿とさせてしまい、麻衣子の気分も高ぶっていく。


 声を抑えても漏れる吐息と、羞恥を興奮で真っ赤に染まった顔を上目遣いで見て、胸が締め付けられる感覚を覚えた。


(必死で声を抑えて、真っ赤になって……可愛い可愛い可愛い)


 気を抜くと爆発しそうになる股間の隼人を叱咤するため、はぁーと息を吐き出した。


 撫でるだけでは足りないと脹脛に吸い付いた時、スマートフォンから鳴り響くアラーム音がこの倒錯の時間はもう終了だと告げる。


「ぁ、会議に遅れますよ」


 離れるのが名残惜しくて足を撫でた隼人は、唾液で濡れた口元を手の甲で拭う。


「勤務時間終了前には会議を終われるよう誘導するから、夕飯におススメのラーメン屋へ連れて行ってくれ」


 息を乱した隼人は、ずれた眼鏡の位置を人差し指で直し手櫛で乱れた髪を掻き上げた。


「はい」


 息を吐いて胸を押さえた麻衣子は頷く。

 熱を持つ頬に両手の平を当てて、隼人を見上げる彼女の両眼は潤んでいてキスを強請っているようにも見えた。


「頑張ってください」

「くっ、ああ」


 会議のことを考え、一瞬だけ落ち着いた股間の隼人が自己主張を始める。

 呻いた隼人を不思議そうに見上げる麻衣子は、自分がどんなに可愛い顔をしているの全く分かっていない。


(まるで小悪魔だな。でも、そこがまた可愛い)


 今すぐ抱き締めたい衝動を堪えるために、隼人は片手で口元を覆う。


 このままでは、トイレで自己処理をしなければ会議に行けなくなる。

 面倒でも重役が出席するため、遅刻するのはマズイ。


 会議室を出て廊下を歩く隼人は、セクシーランジェリーを装着して尻を自分の方へ向け、ぷりぷりと左右に揺らして誘惑する支店長(56歳)の姿を想像して……気分と下半身を萎えさせた。




煩悩と生理現象と戦い、頑張って勝利した斎藤課長は脳内で繰り広げられる戦いを偉い方々にバレずに、会議を乗り切りました。

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