12.斎藤課長の幸せな日々
変態行為(お手入れ)があります。
苦手な方は注意してください!
週末休みになり、友人と買い物へ行くと言う麻衣子を駅まで送った後、隼人は弟の崇人の自宅マンションを訪れた。
仕事帰りの社会人向けの新作メニュー開発を手伝ってほしいと、崇人から連絡が来ていたのだ。
紺色のエプロンをつけた隼人が、鍋から取り皿へ取り分けた煮物を崇人へ手渡す。
煮物を一口食べた崇人は、味の絶妙さに思わず唸った。
「味はどうだ?」
「糞ムカつくけど、美味い。流石、兄貴だ。これなら店で出せそう」
「料理が出来る男は素敵だと、麻衣子さんが言っていたからな。家でも多少練習はしたんだ」
開発を手伝ってほしいと頼んでいたとはいえ、これから行くという事前連絡無しで突然家へ押し掛け、勝手に冷蔵庫を漁り料理を始めた兄へ寝起きの頭では文句を言う余裕も無く、崇人は呆然と見ているしか出来なかった。
持参した圧力鍋を使い、手際よく煮物を作った兄の有能ぷりに崇人は羨望の眼差しを送り、料理を始めた理由を聞いて引いた。
「麻衣子さん麻衣子さんって、性癖を受け入れてくれる女が見つかってはしゃいでいるようだけど、まだお試し期間中なんだろ? 兄貴は仕事外ではポンコツだから、俺が麻衣子さんに兄貴が本気で惚れていて落とそうとしているって話してやろうか」
ヘラリと笑う崇人へ、底冷えする目を向けた隼人は冷笑を浮かべた。
「余計なことを言ったら、俺に預けているお前の宝物“しいちゃんはおねだり上手シリーズ3、お兄ちゃんのスティックをぺろぺろさせて”がどうなってもいいのか?」
実家から引っ越す際、隼人へ預けて返してもらえず人(物)質となっているDVDのタイトルに、崇人の顔色は青くなる。
今は引退して絶版となった童顔セクシー女優主演のDVDを手に入れるため、崇人はどれだけの時間と労力と金をつぎ込んだか説明したのに、この鬼畜な兄はわかってくれない。
勝手に鑑賞した兄は「全く興奮しなかった」と酷い感想まで言ってくれる。
「くっ、卑怯だぞ! この変態が!」
「ロリコン巨乳好きのお前よりマシだろ」
「俺は2次元のロリっ娘が好きなんだ! 実物のロリっ娘触らないし話しかけもしないって! 足が好きとかいうヤバイ性癖持ちの兄貴よりは正統派だろーが!! ってか、俺の限定DVDを返せよー!!」
半泣きになった崇人の悲痛な叫び声と、隼人の笑い声が室内に響き渡った。
この日作った煮物は店のメニューに加えられ、注文した客たちからは「美味しい」となかなか好評だったという。
***
下着姿の麻衣子を浴室用椅子へ座らせ、隼人は浴室の床に膝をつく。
「動かないで」
左手で太股を押さえた隼人は、右手を器用に動かしムダ毛の流れに沿って女性用カミソリを滑らせていく。
ムダ毛を剃り落とし、剃り残しが無いか足の細部までを手の平全体で触ってから、クリームをシャワーで洗い流す。
シェービング用クリームを全て洗い流した後は、ボディ用の保湿化粧水を両手で丹念に取り塗り込んでいく。
「この保湿化粧水、評判通り使い心地は良さそうだね。ほら、ツルツルになった」
滑々になった脹脛に頬擦りをした隼人は、赤い顔をして口元を押さえた麻衣子の顔を見て愉しそうに口角を上げた。
「どうしたの?」
「なん、でもありません」
どうしたかなんて、問わなくても分かっている。
足に塗りこんだ化粧水は海外から取り寄せた『恋人をその気にさせる化粧水』なのだから。
含まれている成分は、人体に影響がある薬は入っていないことを成分表で確認し、舐めても大丈夫だという安全な物を選んだ。
意地悪な問いかけに答えられず、顔を真っ赤に染めた麻衣子は横を向く。
「もしかして、興奮したのか?」
「ち、違うっ」
慌てて首を横に振って否定する麻衣子が可愛くて、下半身に力を入れていなければガチガチに興奮した状態の隼人の隼人がパンツの中で爆発するところだった。
抱きたいと素直に告げれば、頷いた麻衣子は全身を真っ赤に染める。
首に腕を絡めてくる麻衣子を縦抱きにして寝室へ連れて行き、壊れ物を扱いようにそっとベッドへ下ろした。
「今日は気分が昂っているせいか優しく出来ないかも」
ベッドへ腰掛け「ごめん」と謝る隼人は、この先麻衣子を気遣う余裕は無いだろうと、自分でも分かっていた。
今日は朝から若手社員の大きなミスをカバーするため、斎藤課長は相手先へ謝罪に向かったり本社へ経過の報告をしたりと、一日中奔走していたのだ。
体は疲労感を訴えているが、頭は興奮で研ぎ澄まされていた。
上司の立場で誠心誠意謝罪はしても、隼人本人の考えでは問題を拗らせて麻衣子との時間を減らすわけにはいかない。
謝罪の時間を早く終わらせようと、取引先へ行き謝罪の言葉に少々の嫌味を織り交ぜてやれば、気の短い社長は計算通り頭を下げる隼人にお茶入りの湯飲みを投げつけた。
頭に血が上った社長と隼人以外の者は、一斉に顔色を青くし部屋の空気が凍り付く。
暴力行為を逆手にとって此方の失態を「無かったこと」にし、若手社員を適切な指導をして多少留飲は下げた。だが、全ての怒りと疲労は払拭出来なかった。
「今日一日、大変だったのは知っているもの。だから、隼人さんの好きにしていいよ」
「麻衣子、さん?」
「お疲れ様です」
腕を伸ばした麻衣子は、湯呑みが当たって少し内出血している隼人の頬を撫でる。それだけで残っていた怒りの感情が消えていく気がした。
「は、そんなこと言われたら、我慢出来ない。爆発しそうなんだ。もう、いいか?」
「うん」
麻衣子が頷くと同時に、彼女の上にのしかかっていった。
昼間の疲労と、感情をぶつけた激しい行為の後処理してベッドへ戻った隼人は、目蓋の重みに負けて眠りかけている麻衣子の耳元へ唇を近付ける。
「麻衣子さん、俺の事を好き?」
「うーん?」
「はぁ、寝ぼけている時くらい、好きって言ってくれればいいのに」
むにゃむにゃ口を動かす麻衣子の寝顔を見詰めて苦笑いする。
体の相性も良く、ムダ毛の手入れも困った顔をしても拒絶はしない。何よりも、身悶えるほど可愛い。
女性をここまで好きになったのは初めての経験で、落とそうとしたのに自分が先に落とされるとは、思ってもみなかった。
自分が落とされたのが嫌では無く、むしろ嬉しい。
(逃げられないように子どもを先に作ってしまおうか。麻衣子さんと子どもの一人や二人、三人くらい養える分の蓄えは十分ある。いや、子どもが出来てしまったら結婚理由は、妊娠した事実が一位となり俺が好きという恋慕が二位になってしまう。子どもは欲しいが彼女の中での順位は俺が一番でいたい。それに妊娠中は激しい行為は禁止される。試したいプレイが出来なくなる)
「好きだよ。お試しじゃなくて、早く俺の彼女になって」
完全に寝入っている麻衣子が微かに頷く。
問い掛けに対する条件反射だったとしても、隼人は心が満たされるのを感じた。
斎藤課長の狙い通り、着々と半同棲状態になっていく。




