届かない[2]
「すみ……ませ……、スタ……」
絞り出した声は、全てを言葉にできなかった。
バルナバの体がどうと地面に倒れる。
「おい!」
マウロが叫んだ。
アルドは、ジョットはと尋ねたいのを必死で堪えているのだろう。歯を食いしばり、倒れたバルナバの側に屈み込む。
「退いて」
ルドミラはマウロの背後に立ってそう言う。
冷ややかにも聞こえたかも知れない、冷静な声で。
赤土の色をした瞳がぎ、とルドミラを睨んだ。
だがそれよりも、まずはこの男を癒さなければならない。情報を得るためにも、……バルナバのためにも。
ルドミラは倒れている男の側にひざまずき、宝石と金属で彩られた左手の手袋をかざす。
血を流して後をつけられるのを警戒したのだろう、腕や脚、体のあちこちに巻かれた元は上着だったはずの布地はどれも真っ赤に染まっている。
ゲルハルトがバルナバの体を挟んで向かいにひざまずいた。
ルドミラの力は傷を癒す。
ゲルハルトの力は体力の回復を。
同じ力を使えない事が、今は幸いしているように思えた。
ルドミラは深そうな傷口を選び、順に傷を塞いでいく。
やがて癒しの魔法を覚えた他の者たちも、茫然と見つめてしまっていた事に気がついて、二人に協力してバルナバを癒し始めた。
程なくしてバルナバは、起き上がれるくらいには回復したようだった。
ゆっくり上半身を起こした彼の背中をメルが支え、もう一度問いを繰り返す。
「何があったの……?」
「アルドは……、ジョットはどうした!?」
遂に耐えかねたか、マウロが叫んだ。
バルナバは僅かに顔を背ける。
「……すみません……」
偵察に向かった三人は、それぞれ単独で三方から砦の様子を窺った。
だが待ち構えていた敵兵に激しい攻撃を受け、バルナバはすぐに撤退を決めた。
「考えてみりゃ、道はここしかねえ。待ち伏せも当然、お前等なら大丈夫だろうと判断した俺が甘かった」
スタンは呻くように呟き、親指の爪を噛んだ。
「私は──何とか逃げおおせることができましたが、アルドとジョットは恐らく、もう……」
告げてバルナバは目を伏せる。
マウロ以下、『エジステンツァ』の面々は言葉を失っている。
「フィクティラス砦には、最近グルビナからの命で女性兵が守備隊長に就いたそうです」
「……エウフェーミアか」
マウロが苦い顔をして呟いた。
「正面から戦って勝てるわけがねえから相手にしたことはないが、あの女は腕も立つし頭も切れるって話だ。……奴の指示か」
「どっちにしろ、あの砦を避けては進めん」
低い声で、スタンが言った。
「ヴィオミークと同じと思うな、それまでと同じように死人が出る。いや、もう出てる。それでも俺たちはあの砦を潰して進まなきゃならん」
言い放ったスタンの声は、集った人々の覚悟を改めさせるに十分だったようだった。
だがルドミラには、それに付き合う義理なんてものはない。
……逃げてしまおうか。
ちらりとそう考えたが、バルナバの大怪我に、顔見知り二人の──恐らく死亡、そして周囲を取り巻く人たちのことを思ったら、何故だかそうできなかった。




