*9 進入禁止
市田の部屋を後にした私は、一度自分の部屋に戻ってから大学に向かった。
途中で市田と約束をした『レーズンサンド』を購入して。
今思うと、どうして市田とそんな約束をしたのか分からなかった。
多分、何故か引き止めなくちゃ行けないと感じたのだと思う。
別に特別な感情を市田に抱いている、という訳ではない、と思う。
「……お前らってさぁ、ほんと仲がいいよな。付き合ってどれくらい?」
研究室のドアを開けようとした時、樋田さんのそんな声が聞こえた。
思わず、ドアノブに掛けた手を引っ込める。
今、入るのはやめた方がいいらしい。
私まで行ったら、間違いなく市田とともに標的にされるに違いない。
ややこしくなると分かっている事に、わざわざ飛んで入る理由もない。
……とはいうものの、行く場所が思い付かなかった。
本来、今日は休日で講義もない。
行けるのはここから少し離れた敷地内にある図書館くらいか。
せっかく着いたのに、もう一度外に出るのは億劫だ。
時間潰しを諦めて壁に寄り掛かり、しゃがみ込む。
しばらく待てば中に入ってもいいだろう。
持っていたバッグとお菓子の紙袋をすぐ脇に置いた。
天窓から入って来る日差しが暖かい。
膝を抱えて顔を伏せ目をつぶっていると、自然と瞼が重くなってくる。
耳ははっきり聞こえているが目は重くて開かない、という半覚醒のような状態。
――昨日のお酒が残ってたのかな……。
そのまま夢を見た。