*10 白昼夢
市田と知り合いになったのは大学の入学式だったと思う。
もっとも中学から一緒の学校だったはずなんだけど、ほとんど話もしたことはなかった。
クラスも一緒になったことはなかったし、合同授業なんかでも話したことはなかったと思う。
中学で仲良くなった友達に、彼の話を聞いたことがあるくらい。
そんな彼に入学式で抱き付いたのは、なんて恥知らずな行動だったんだろう。
弁解すると、きっと私は心細かったんだと思う。
知人が一人もいないという環境が。
市田のお陰で救われた気がした。
ちなみに、進学に一年も開いたのは理由があった。(決して進学浪人ではない)
ついでに言うと、間が開いたわけでもない。正しくは一年にも及ぶ休学。
実は進学して早々に事故に遭ったのだ。(あぁ、なんて馬鹿な自分)
アルバイトの家庭教師の面接に行く途中の事故だった。
骨盤を骨折という大怪我を負ってしまい、手術を延べ3回、リハビリに半年も費やしてしまった。
単位も足りるわけもなく、『留年』という形で2回目の一回生をすることになったのだ。
その2回目の一回生の入学式で市田と会った。
でも、後で良く考えて見たら、高校でいつも試験結果の上位に名を馳せていた市田が、何の事情もなく私と同じ学年に収まる訳が無い。
私よりも常に成績が良かった彼ならば、ストレートに合格して当たり前な筈なのだ。
いつだったか、意を決してその疑問を彼に聞いたことがある。
「高校を卒業する頃に両親が死んで、それで一年見送ったんだ。色々とやらなくちゃいけないこともあったしね」
市田は、そうあっさりと、まるで今日の夕飯を語るように言った。
そんなことは知らなかった。
何か事情はあるのだろうと思っていたが、家族を失うなどという事情とは思っていなかった。
「……ごめん。私、無神経だった」
「まぁ、あんまり人に言ってないしね。内々に済ませたから」
だから君が気にすることはない、と彼は言った。
そう言いつつも、彼の浮かべた苦い表情はいまだに私の中でくすぶっている。
それが、彼なりの優しさだと分かっていても。




