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隊長さんちのわんこ《ミシェル》  作者: 芳賀さこ
第六章 大いに悩む同居人
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間話 -夏の日の思い出-

 真っ青な空に白い入道雲、茹だるような暑さとまさに夏本番。夏を初めて経験するミシェルはぐったりして、犬なら舌をだらしなく垂らしていることだろう。


 陽が落ちて幾分涼しくなったところで、フェリックスは市場へ買い物へ行くという彼女に付き合うことにした。

 八百屋の前に来ると、威勢のいい声が掛かった。


「よお、ミシェルちゃん、隊長さん。今日も暑いな」

「はい……」

「さすがのミシェルちゃんも夏バテか。これ食べて元気出しな」


 虚ろな瞳に飛び込んだ鮮やかな赤い果物に目を見張る。恐る恐る一口かじると、甘くみずみずしい果汁が喉の渇きを一気に癒した。


「美味しい!!」

「そうだろ!! 一つ、どうだい? 安くしとくよ」


 八百屋の主が、バスケットボールくらいのスイカをぽんと叩く。

 こんなデカいの、二人でどうやって食うんだ!?

 フェリックスは断ろうとしたが、瞳をキラキラさせたミシェルが見上げている。

 たいちょーさん、食べたい!!

 そう顔に書いていたので、頑張る彼女のご褒美として買ってやることにした。

 

 帰り道、スイカを手に入れたミシェルは上機嫌でスキップでもしそうな足取りだ。水を差すようで悪いが、そろそろ現実を知ってほしいとフェリックスが口を開く。


「こんなデカいの、冷蔵庫に入らんぞ」

「あっ!!」


 ミシェルは、ここで初めてスイカのサイズに気がついた。半分に割ったとしても、この緑に黒の縞の果実は冷蔵庫を占拠する。他の食材が保存できないので、当分はスイカ漬けの日が続くに違いない。


「マシューさん達をお呼びしましょうか?」


 なるほど、あの二人なら平らげてくれそうだ。三食スイカよりは、部下二人の訪問の方が耐えられる。フェリックスは早速携帯電話を取り出した。



 連絡をして間もなくマシューとクリスがやって来た。リビングのテーブルに鎮座する物体に、二人は唖然とする。


「こりゃまた立派なスイカだなあ」

「子どもの頃以来ですよ」

「ただ食ってもつまらんな。夏といえば、やっぱりアレだろ」

「アレってなんですか?」


 ミシェルが訊くと、クリスが「スイカ割りさ」と答えた。

 目隠ししてその場でグルグル回り、地面に置いたスイカを割るという単純で笑えるゲームとマシューが説明する。


「そんなことしたら、目が回っちゃいますよ」

「思う通りに進まないのが面白いのさ」


 百聞は一見にしかず、この家の主の許可も待たずマシューが準備を始めた。庭にブルーシートを敷いて巨大スイカを置き、物騒な警棒を使う。

 着々と仕度が進み、フェリックスが反対しても悪者になるだけなので黙っていた。


「よし、俺が手本を見せるからな」


 マシューがタオルで目隠しすると、勢いよく回り出す。右に左に大きくよろけながら、スイカへ向かう彼にミシェルが声援を送った。


「マシューさん、頑張って!!」

「もっと右です!!」


 マシューが警棒を振りかざすと、間一髪よけたクリスの足元に警棒がめり込んだ。


「チッ。外したか」

「うわっ、危ねえ!! 今、舌打ちしましたよね!? 絶対わざとでしょ!?」


 破れんばかりにクリスの心臓がバクバク波打つ。


「ってな具合だ。どうだ、面白いだろ?」


 どこが面白いんだ?と、フェリックスは心の中で突っこんだ。マシューは頭を掻きながら彼の近くに来ると、ぼそっと呟く。

 

「お嬢ちゃんにスイカを割らせるんだ、いいな?」


 やはり、あれは演技だったらしい。特殊部隊あがりのマシューが、あの程度の回転で目を回すはずがない。それに、訓練で三半規管を鍛えているのはフェリックスも同じなのだ。

 だが、二人の視線の先には妙に張り切るクリスがいた。


「オレガレン少尉が割るかもしれんぞ」

「あいつは大丈夫だ。演技しなくても割れん」


 マシューの言葉通り、クリスは回り終わらないうちによろめいてその場に倒れた。「ほらな」と、大柄な部下がほくそ笑む。

 次は、マシューのように小芝居ができないフェリックス。さっさと回り、スタスタ歩いてわざとらしく外した。「ああ、たいちょーさん。惜しいです」と悔しがるミシェルに、バレていないと胸を撫で下ろす。


 いよいよ、満を持してミシェルの番となった。クリスにタオルで目隠ししてもらい、警棒を構える。


「ミシェルちゃん、頑張れ!!」

「はい!!」


 軽快にクルクル回って、クリスより真っ直ぐ進んでいく。途中でコースを外れたので


「ミシェル、半歩左に踏み出せ。そこから七歩前だ」


 フェリックスの的確な指示に、ミシェルは迷わず従いスイカへまっしぐら。


「隊長、俺にも指示して下さいよ」

「スイカに辿り着けん奴は論外だろうが」


 ぼやくクリスに、マシューが呆れた。

 やがて警棒の先がスイカに当たると、三人が「そこだ!!」と叫んだ。


「えいっ!!」


 ポコンッ!!


 ミシェルの渾身な一撃に、丸い物体はビクともしない。


「あれ……?」


 確かに手応えがあったのに、ひび一本入らない丈夫さに一同は固まった。がっかりするミシェルに、男三人が身を寄せてひそひそと相談する。


「この場合、どうする?」

「割れるまでするべきだろう」

「もう一巡、いきましょう」


 結論が出たところで、またマシューからやり直した。


 二巡目、マシューがまた芝居を打つ。

「とりゃっ!!」

「わっ!! だから、なんで俺を狙うんですか!!」


 続いて、クリス。

 クルクル。よろよろ。バタンっ!! またもやスイカに到達せず。


 三番手、フェリックス。

 また、外さなきゃならんのか。人知れずため息をつく。


 そして、本命ミシェル。

「えいっ!!」

 ポコンッ!! これまた異常なし。


 日が暮れかけた庭で、四人はスイカを巡って回り続ける羽目となった。気分が悪くなったクリスは途中離脱して、残り三人が赤い果実を口にしたのはまだ先の話である。


 


 


 





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